第2話/命を喰らう右腕

-魔導書とは人工的に生み出されたとされる遺物であり、その存在が確認されている物は少ない。

多くは既に廃棄されたか或いは何らかの形で行方不明となってしまっている。その中でも最も危険とされているのが他者の命を喰らうと言われる魔導書であり、文字通りそれを持つ者が他人の命を奪って自らの糧とするというモノである。

しかし数多もの実験を繰り返した果てに適合する者は現れず、見送られる事となった。もしまた実験が再開している機関が有るとすれば…残っているのあの機関しかない。-


誰かの日記より

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「…?おい、いつまでヒトの身体ジロジロ見てんだよ?それと邪魔だから退けッ!!」


そう言われて初めてウィリアムは慌てて目を隠し、その場から離れた。

裸の少女は辺りを見回すと何かを探している様に見える。彼は指の間から彼女の様子を見るとポツリと呟いた。


「な、何を…探してるの? 」



「あ?決まってんだろ、服だよ服!!」


彼女が辺りを見回していると声が聞こえ、ウィリアムは振り返る。自分が入って来た方から来たのは鎧を着た1人の兵士だった。


「ご無事ですか殿下!!…拘束と結界が外れている…?まさか…貴方が!?」



「ち、違う!僕じゃない!」



「兎に角、お下がり下さい!此奴はこの国の犯罪者の中でも最も位が高い…ブラッディ・クリスですッ!」


兵士が剣を抜いて彼女の前で構える。

そう言われた彼女は振り返ると兵士を睨み付けた。


「…へぇ…やろうっての?良いぜ、丁度イライラしてたんだ…今のあたしは機嫌が悪い。だから片腕が無くなろうが、足が無くなろうが…ピーピー泣き喚くんじゃねぇぞ?」


パキパキと右手の関節を鳴らすと彼女はニヤリと笑って見据える。一糸纏わぬ姿のまま彼女は兵士へ襲い掛かり、掴み掛かろうとしたがそれを避けられると繰り出された剣の刃が彼女の右頬を掠めて血がつうっと垂れる。だが少し経つとその傷も消えてしまった。


「…やっぱり未だ本調子じゃ無い。ロクにマナを喰らわなかったせいか。」



「いい加減大人しくしろッ!!で無ければ…!!」



「マギアを使う…そう言いたいのか?」



「ッ…女神アレスティアよ!聖なる力を我に与え給え!!」


彼女が振り向いた途端、兵士が片手を突き出してそう唱えると光の鎖が地面の四方から現れて彼女を縛り上げる。

ギリギリと身体が締め付けられると当の本人はニヤリと笑っていた。


「成程…ッ、拘束術か…ッッ!!」



「跪け…そして許しを乞えッ!!」



「許しを乞えだぁ…?くくッ、バカだなお前……そんな仮初の詠唱をしたとしてもマギアは完全には扱えないのに…。」



「黙れッ!!何ならこの場で貴様の身体を捻じ切って…ッ!!」


兵士が更に力を込めた時、彼の後方から何事だと声がした。彼が振り返ると向かって来たのは黒髪の男でその手には槍を握り締めている。


「貴様…まさか此奴を解き放ったのか!?」



「わ、私めではございませんッ!!それよりも…!!」


チラッと男が座り込んでいるウィリアムを見ると彼は舌打ちし、槍を手に拘束されている彼女の方へ歩み寄る。


「貴様が我が弟を誑かしたのか?答えろ…ッ!!」



「…さぁな?お前らの張った結界が弱かったんじゃないのか?お偉い魔術師連中を呼んで張らせた結界が年月の経過により綻び、そこへあたしが干渉し破壊した…それじゃあ納得が…ッッ!!?」


すると彼女の言葉が途中で遮られる。視線を落とすと彼女の腹部に槍が中程まで突き刺さっていた。

ボタボタと赤い血が槍を伝って地面へ滴り落ちる。


「……口を慎め。貴様は一体誰の前で話をしている?」



「ッ…知らないね…あたしは…ずっと…長い間、地下牢に放り込まれてたから… 外の話なんて…知らない…ッッ!!」


思わず噎せると地面へ吐血してしまう。

ウィリアムが酷すぎると抗議するがレナードは更に続けた。


「よくその目で見ておけウィリアム。これがお前が何度か助けようとしていた女の姿だ…此奴はバケモノ、どんな傷を与えたとしても死なない不死身の怪物なんだ。」



「違う…どう見ても彼女は人間だッ!!息だってしているし、人の言葉も喋っていた!!」



「違うッ!!此奴は人間じゃない…バケモノだ!」


レナードの叫びに対しウィリアムは息を飲んだ。

バケモノ?彼女が?どう見てもそうには見えない。

視線を向けると槍を突き刺されて苦しそうに自身の兄を睨んでいる彼女の姿がそこには有った。


「…此奴に我々の仲間が何人殺されたと思う?お前と歳の近いこの小娘によって…ッ!!」



レナードは彼女を蹴飛ばすと床へ這いつくばらせて見下ろしていた。その目は冷たく、怒りに満ちている。歯を食い縛ると彼女を右足で踏み付けた。


「…捕虜に対する扱いが…コレ?…くくくッ、それにしても…アンタは良い目をしている…憎悪と怒り…そして何より…殺意と狂気に満ちている…ッ…!!」



「貴様ぁ…ッッ!!」



「どうします…此処で首を撥ねますか、兄上?…それとも…誰だか解らなくなる位…切り刻んで煮え滾る己の中にあるモノを全て…あたしにぶち撒けますか?」


にぃっと八重歯を出して彼女は挑発する様に笑う。彼女のその目はレナードをバカにしている様な目だった。


「何をしても死なぬなら…好きなだけ苦痛を与えて私に逆らった事を後悔させてやる…!!」



「…不死身のバケモノと言っても…痛みは感じる…斬られ、刺されて、燃やされたとしても…全て痛みを感じる…それに……。」


すると彼女はいつの間にか拘束を解いてレナードの右足を自身の右手で掴んだ。そして更に話を続ける。


「好きでこんな身体になった訳じゃない…望んでこんな事に…なった訳じゃない…ッッ!!」


力を込めると彼は痛みにより咄嗟に飛び退いた。そして腰にある剣を引き抜いて彼女へ向ける。

当の本人は立ち上がって槍を無理矢理に引き抜くと貫通し穴の空いた腹部の傷を再生させ、レナードを見てニヤリと笑う。


「…そこの金髪!死にたくなければ…此処を出ろ。」



「ぼ、僕!?」



「お前以外誰が居る…あたしに喰われたくなければ…そうしろ。2度は言わない……。」


そう呟くとウィリアムは咄嗟にこの部屋の外から逃げて行った。そして彼女とレナード、そして兵士だけが取り残される。すると突然彼女の雰囲気が変わった。


「…ほぅ…この俺とやり合う気か?」



「ええ、当然でしょう…お前は見ていて気に食わない…貴族は皆そう…自分には関係ない、自分は酷い目に遭わない…そう言って弱者を踏み躙って…蔑んで…痛め付けて…弄ぶ…いつもいつも…ッッ!!」



「何が言いたい…!」



「貴族や王族連中はあたしの敵…あたしの家族を奪って…あたしの身体を弄り回して改造して化け物に変えた…アイツらを絶対に…許さない…ッッ!!」



「貴族や王族が貴様の敵なら…貴様は全てのそういった者共を根絶やしにでもする気か?ふん、随分と馬鹿げている!!」



「あたしが恨むのは…憎むのは……あたしから全てを奪った連中だけ……他の奴らの事なんかどうだって良いッ!!」


すると彼女は走り出してレナードへ襲い掛かる。

槍と剣が真正面からぶつかると彼女は獣の様に唸り声を上げて睨み付けていた。彼女の目は大きく見開かれ、振り払われると今度はレナードが仕掛ける。

彼の剣が襲い掛かるとその刃によって彼女の腕や脇腹、そして右頬や左腕へと切り傷が付けられていった。


「威勢の割には大した事が無いな…ッ!!」


剣による突きが繰り出されると彼女はそれを咄嗟に右手で握り締めて止めた。


「父上には申し訳ないが…此処で貴様を殺してやる…何故貴様を生かしているのかは知らないが…我々ヴィルヘルム家にとって貴様は害悪そのもの…この俺に殺される事を光栄に思え!!」



「…本当は…使いたくなかったけど…やるしかない…。我が命に応じ、起動せよ…血肉を欲する死神は我が魂と共に…目覚めろ…ヴァイタル…イィイイタァアアアアアッッッーー!!!」


彼女が詠唱すると途端に右腕の包帯が弾け飛んだ。

そして凄まじい風圧が巻き起こると同時に前髪が捲れ、彼女の右目が露になる。その瞳は血の様に紅く染まっていた。左目は金色で右目は赤色、つまり彼女はオッドアイという事になる。

彼女の右腕は紫と黒色が入り交じった様な人の肌とは思えない色合いと共に禍々しいオーラを発していた。

そして剣を握る手に力を込め、へし折るとニヤリと笑ってはレナードを見据えている。


「な、何が起きた…ッッ!?」



「何って…ちょっとした手品だよ…それに、その様子だと知らないんだな?コレの事…。なら好都合だ…このままあたしの糧にしてやる…ッ!!」


折れた剣の刃先を投げ捨てると彼女はその右手を振り翳して襲い掛かる。だが、レナードが彼女から見て左へ飛び退いた為その攻撃は彼の近くで構えていた兵士へ命中してしまった。鎧を破壊しその鋭く尖った爪が突き刺さる。


「そ、そんなッ…殿下…ッッ!!?」



「ちッ…まぁいい…先ずは貴様からだ…ッ!!」


その瞬間、兵士が悲鳴と共に身体の色がまるで黒い煤の様に変貌すると彼は鎧を残して崩れ落ちてしまった。何が起きたのかレナードにはさっぱり解らない。そしてくるりと少女が振り返ると彼女は静かに不気味な笑顔を浮かべて静かに彼を見据えていた。


「先ずは1人……。」



「ッ…バケモノめ…!!」


だが、レナード自身も先程から様子が可笑しい。

いつの間にか呼吸が浅くなっており、それと相まって手足の震えも止まらない。胸を締め付けられる様な強い痛みも感じ始めていた。まるで命そのものを吸われている様な感覚だ。


「まさか…空気成分を変化させる魔法でも使ったのか…ッッ!?」



「そんな事…話す必要なんて無い。今から死に行く奴に話しても無駄……さぁ、今度こそお前の番だ…安心しろ、お前はあたしの中で永遠に生き続ける…養分として…骨の髄まで全て…あたしのモノとして…ッ…!」


少しずつ彼女はその距離を詰め、右手を振り上げた。だが止めろという叫び声と共にその動きが止まると少女は声のする方へ振り返って見つめていた。

そこに居たのウィリアム、レナードの前へ割って入ると必死の形相で彼女を見つめている。


「頼む…頼むから殺さないでくれッ!!」



「…何故。」



「僕の…僕の…たった一人の…兄さんだからぁッ!!」



「ッ……!?」


そう彼が叫んだ時、彼女の頭の中で声が響いた。

それは女の子の声で自分の夢に出て来る声と同じ。


[うふふッ、姉さんッ!待ってよ、姉さんッ!!]


もう名前も顔も思い出せない…覚えているのは自分を姉さんと呼ぶ声だけだ。


「ぐッ…!?あぐッ…くそッ…うぁッッ…あぁぁぁッッーー!?」


突然、少女が座り込み、ウィリアムの前で何度か吐血し苦しみ出すと左手で頭を抱えて蹲ってしまう。

それと同時に右腕へ包帯が再び結び付くとそのまま彼女は気を失って倒れてしまった。


「キミ、大丈夫!?」


ウィリアムは咄嗟に彼女の身体を揺さぶって意識の有無を確かめるが反応が無い。

彼は彼女を担いで此処を離れ、急いで自室へと連れ込んだ。兄のレナードからは何も言われなかった為だ。そしてウィリアムは彼女が目を覚ますのを待ち続けたのだった。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

「んん…ッ…?」


次に少女が目を覚ましたのはベットの上。

身体を起こすとドアが開いてウィリアムが入って来た。


「良かった…目が覚めたんだね。僕は…ッ!?」


すると少女はベットから素早く飛び出すとウィリアムへ飛び掛った。彼を床へ押し倒し右手を握り締めると睨み付けていた。


「どういうつもりだ…何故あたしを助けた…ッ!!」



「ち、ちょっと待ったッ!!順を追って話すから…先ずは服を着よう?」


そう彼が諭すと彼女は四方に散らばった衣服を見ていた。そして舌打ちするとゆっくり離れると立ち上がってベットへ腰掛けた。


「先ずは…どれが良いかな?」


彼は落ちていた衣服を並べた。

どれもスカート付きの女性物なのだが、彼女はそれ等全てを拒否してしまった。


「…こんなの、あたしには似合わない。下着だけは貰っておくけど。」



「解ったよ…服の事はメイドに任せるから此処で大人しくしてて欲しい。食事は?」



「…要らない。もう食べなくて平気になったから。」



「ダメだよ、ちゃんと食べないと。直ぐ持って来るから。」



「要らないって…ッ!!ちッ…行きやがった……。」


そう言い返そうとしたが既に彼は居ない。

奇妙な空気の中、彼女は下着だけを身に付けると部屋の中を歩き回っていた。

本棚には本が置かれておりその本の背表紙を見て解る通り難しい物ばかりで後はランプが棚に置かれている位。そして一周した後に再びベットへと腰掛けた。そうしているとドアが開いてウィリアムが入って来る。その手にはパンともう1つ別の器が乗ったトレイが握られていた。


「お待たせ、食事持って来たよ。」



「…要らないって言った。」



「食べなきゃダメだってば。ほら、食べ易い様に切ったパンも有るから。」


簡易的な木のテーブルの上にパンと豆が入ったスープの器とスプーンがそれぞれトレイに置いてあり、不思議そうな顔をしてそれ等を見ていた。


「…食べられそう?簡単なの作って貰ったんだけど。」



「あたしの話は無視かよ…ったく。」


するとウィリアムはパン1切れを手に取ると彼女の口元へ持って来きた。つまりコレを食べろという意味。ぷいっと顔を逸らすがそれでも彼は頑なにそのままで居た。


「ほら食べなよ?美味しいよ?」



「ちッ…食えば良いんだろ…食えば。」


少女はウィリアムの手からパンを取るとそれを口へ運ぶと乾いた独特の味が彼女の口の中へ広がる。

そしてそれを噛んで飲み込んだ。


「これで満足か?」



「いや…全部とは言わないけど出来れば食べて欲しい。あんな所に居たんだからまともな食事なんて出来なかっただろ?」



「ちッ、解ったよ…面倒臭いな……。」


幼い子供が持つ様な持ち方でスプーンを握るとスープを口へ運び出し、彼女は彼の前で食べ始めた。

その様子を見ながらウィリアムは話を始める。


「先ずは…キミの名前は?僕はウィリアムって言うんだけど。」



「……クリスティア。」


食べながら少女は自分をクリスティアだと名乗る。

つまりウィリアムが呼んでいた名前であるレティシアでは無かった。


「それで…何処から来たの?」



「……さぁな、覚えてない。最後に覚えているのはあたしを捕らえた連中が喜んでいたって事だけだ。」


食事をしながら彼女が喋る為、スープの水滴やパンの欠片が口から飛沫する。とてもでは無いがマナーも何もあったものでは無い。もごもごと口を動かすとクリスティアはそれを飲み込んだ。


「クリスティアには家族が居るの?」



「知らない…もう覚えていない……ほら、全部食べてやった。これで満足か?」


ジロっと彼女はウィリアムを見ると彼はそれに対し頷いた。すると突然ドアがノックされ、彼が応対に向かう。入って来たのはこの城のメイド3人でクリスティアを見るや否や1人のメイドが近寄って彼女を立たせると後の2人が身体のあちこちを測ってはサイズを調べ始める。それが済むと彼女達は帰って行った。


「…アイツらは?」



「此処のメイドさんだよ。それより…その右腕、さっきから気になってるんだけど…怪我でもしてる?それとも…火傷とか病とか?」



「……いい加減ウザくなって来た、もう話し掛けるな。」



彼女は再びベットへ横たわると背を向けてしまう。その様子を見た彼は何も言わずに食事のトレイを下げると部屋を出て行ってしまった。

食事をしたのは何十年振りだろうか?いや、下手をすればもっと前かもしれないがそれすらも分から無い。そして彼女はいつの間にか寝息を立ててそのまま眠ってしまった。

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-これで本当に戦争が終わるのか?-



-当然です、彼女達は■■■の生まれ変わりかもしれない。その可能性が極めて高いのは妹の方ですが。-


誰かが話している。

男2人が此方を何度か見て話を続けていた。

するといつの間にか自分の横に居たドレスを着た女性が話始める。


-この子達を買ったのは私よ?本当に今度こそ上手く行くんでしょうね?-



-それは保証する…後は我々が引き受けよう。依頼金なら後でお前の元へ送る。-


そしてまた目を閉じると場面が切り替わり、辺りを見渡すと自分の身体が大の字に押さえ付けられていた。抵抗しようにも動かす事すらままならない。

服すら身に付けておらず、必死に逃れようとしたがそれは上手くいかなかった。


-妹は戦争を終わらせる為の力となった…ならお前には戦争を続けさせる為の力…それをくれてやる。お前の持つ力がまた新たな戦争を引き起こすのだ…人の世とは争いの歴史…いつもそうだった。故に同じ事を何度も繰り返す。-


彼は助手らしき人物から剣を受け取ると彼女へ向けた。


-…悪く思うな。次に目が覚めた時、お前は力を手に入れている…何人足りとも手に入れられぬ唯一無二の力を……!!-


その言葉と共に剣が振り下ろされ、右腕の肘から下が血を飛沫させて地面へ落下した。ピクピクと指先が動いている。


「うあぁぁぁッッーー!!?」


クリスティアはベットから飛び起きると息を切らしながら右腕を突き出した。包帯を巻かれたその腕は特別変わった所も何も無く、右手の指を内側へ何度か折り畳んで感触を確かめたが何も変わらなかった。有るのは自分の腕であって腕では無いモノの感触だけだ。


「くそッ…また…あの夢だ……。」


頭を抱えるとクリスティアは歯を食い縛って俯く。もう何度も見たタチの悪い悪夢は彼女をずっと縛り続けていた。ベットから降りて部屋の外へ出るとそこには椅子を並べてベット代わりにし寝ているウィリアムの姿が。どうやら彼女が寝ている間に外は日が落ちて夜になっていた。


「…ウィリアム…だったか……昼間のいけ好かないアイツよりはマトモらしい……。」


クリスティアは彼へ近寄るとその寝顔を見ながら呟いた。だが彼へ触れる事はせず、少し経ってから彼女はまた部屋へと戻るとベットの上で眠りに着いたのだった。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

その頃、ウィリアムの兄であるレナードはこの城にある書庫で書物を漁っていた。

昼間見た彼女…クリスティアの腕の事が気になったからだ。


「可笑しい…あんなモノは俺が今まで生きて来た中で初めて見た……あの時、アイツが唱えたのは魔法らしいが何かが違う…手で突き刺した相手を煤に変える力…?それとも別の何かなのか……。」


幾度と無く魔術関連の本を見たが何も書かれていない。彼女が叫んでいた単語…ヴァイタルイーター、それを項目で探していたがやはりそれも見当たらない。つまりアレは何処にも存在しないモノという扱いになってしまう。

ではアレは何処から来たのか?

そしてもう1つ、疑問が残った。

それは彼女がこの城の人間からバケモノと呼ばれる所以である高い自己再生能力。

剣で斬ろうが槍で突き刺そうが弓で射抜公式こうが傷を直ぐに再生させてしまう。

彼女をこの城へ幽閉しようとした際も同様の現象を見た者が何人も居た事は自分も解っている。

あの自己再生能力も彼女が何かしらの形で得たモノなのか?

それ等2つの疑問がレナードの頭の中で渦巻いていた。


「何れにせよ…彼女は処分する。父上に正式な許可を頂き、その上で彼女を消す……そうしなければアイツは間違い無くこの城の人間を殺し尽くす。1人残らず……!」


本を閉じるとレナードは歯を食い縛った。

あの時見た彼女の冷めた様な眼と憎悪という感情を露わにした笑みを思い出して。
















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