第14話 プロポーズ??

 次の日は、エルヴィスとネイサンで狩りに行った。エルヴィス一人だと心配だったから、ネイサンが付いていってくれてよかった。

 魔物は肉も魅力的だが、魔石が高価らしい。

 魔の森でしか現れないので、かなり貴重なんだとか。


 エルヴィスは、狩りのついでに魔物の馬を探すと張り切っていた。

 普通の馬よりも、大きくて速くて力強い。

 こんな辺境からでは、どこに行くにも長距離移動になってしまう。普通の馬では力不足なのだとか。


 昨日の夜は、遥菜にベッタリだったチッチが、狩りに付いていってしまった。

 小さい体で少し鈍臭いのに、大丈夫だろうか?



 遥菜は、屋敷の裏に広がっている草原を歩いている。

 草は生えているが、まばら。

 雨が少ないのかな?

 それとも、作物を育てるのに向かない土地なのだろうか?

「川が流れているのね」

 ここだけは草もワサワサと生い茂っていた。

 そのまま海に繋がっているようだ。

「父から聞いた話ですが、今は農業が盛んな南でも、昔は不毛の地と思われていたようです。ここでも作物が育つといいですね」

 土地を改善する術があるのかもしれない。土作りってやつだろうか。

 美味しい食事のためには、手探りでやってみるしかない……。



 今日は、カボチャを使ったスープだ。

 煮込んで柔らかくなった後、カボチャを半分潰す。きれいなオレンジ色になったスープを味見した。カボチャの甘さと玉ねぎの甘さ、ごろっと入ったお肉から出た旨味。

 小さく切った干し肉を上から散らし、アクセントにしたらどうだろうか。

 グレースは少しずつ料理を手伝ってくれるようになった。

 エルヴィスが鍋を覗き込んでいるときには、他のことをしているけれど。私達夫婦の仲が近づくように、気を使ってくれているようだ。


 その日は何事もなく狩りを終えたようだった。罠に囚われた魔物を倒すくらい、エルヴィスには造作もないことらしい。

 肉は美味しいものを選んで持ち帰ってきた。残りは次の罠に使ったらしい。

 今日は、毛皮を取るのに相当苦労したらしい。解体が上手くなれば、もう少し狩れると力説していた。

 肩にのって甘えてきたチッチに「大丈夫だったの?」と聞くと「チーチー」となにか返事をしているようだ。

 エルヴィスに視線を向けると、

「結構高いところを飛んでいたよ。旋回しているようだったから、なにか探しているのかな? 俺たちと同じものを探していると嬉しいんだけど」

 それに、チッチが「チー!!」と返事をする。


 魔物の爪が届かないところを飛んでいるのなら、大丈夫かな?




 次の日、遥菜は、朝から屋敷の裏に穴を掘っている。小さなスコップしかないので大きな穴は無理だが、生ゴミを捨ててコンポストとして使えるところが欲しかったのだ。

 穴が掘れたら、少しずつ森から落ち葉を運んでおきたいところだ。

 掌に豆が出来始めたので、今日はここまでにしようと立ち上がると、馬車が走っているのが見える。

 家も少ないし、人も少ないので大変目立つ。


 どこに向かっているのだろうか?


 馬車が止まったのは屋敷の前だった。

 屋敷の前に回ると、男の人が二人降りてくるところだった。


 一人は、見たことあるような……。


 エルヴィスに用があるのかな?


「こんにちは」

「おぉ~!! エルヴィス様の奥様ですね。この前はどうも。本日はエルヴィス様はいらっしゃいますか?」


 いないのよ……。どうしたらいいのかしら?

 玄関を開けグレースを呼び、屋敷の中に招き入れた。


 エルヴィス本人に渡すものがあるらしく、男は待つという。

 グレースが、急いで手紙を書いてエルヴィスに飛ばしていた。

 手紙は、森に向かって飛んでいった。


 本人に届くなんて、便利!!

 って、感心している場合じゃない。

 こういう場合、妻である遥菜が対応するらしい。

 ソファーの向かい側に座る。


 この前会ったってことは、町でってことよね。きっと、門にいた騒がしいおじさんだと思う。


 せっかく時間があるのなら、なにか建設的なことをしなければ……。


「あの、私、遥菜と申します。ハルと呼ばれています」

「ご丁寧にどうも。ノーステックタウンの町長をしておりますホクトと申します」

 町長さんなのね……。偉い人よね。

「エルヴィス様が戻るまで、私と話していただけますか?」

「こんな聡明で美しい奥様とお話できるなんて、光栄です」


 お世辞が上手いのね……。


「ホクト様?は・・・」

「おぉ~っと、呼び捨てで結構です」

 町長さんって偉いんじゃないのかしら? そこら辺がわからないのよね。

「では、ホクトさん。魔物のお肉って食べたことありますか?」

 馬車の購入を考えているが、本当に売れるのだろうか?

「干し肉であれば、ありますよ。美味しいですよね~。お酒の当てには最高です」

 確か、生肉は町まで持っていけなかったのよね。

「もし、生肉を売るとしたら、買いたいですか?」

 美味しいという話は聞いたことがあり、とても興味があるらしい。

 売られていれば、買ってみたいそうだ。

 ということは、売りに行ければ買ってくれる人はいるということか。


 野菜についても聞くと、南の商人が売りに来るのだが、ノーステックタウンに来るまでに売り切れてしまうものもあるらしい。


 商品が安定しないということか……。


 しかも、日持ちするものしか入ってこないらしい。


 この地で農業をやるとしたらと話すと、「さすがに、それは無理なのでは」と笑われてしまった。

「お待たせしました」

「いえいえ。留守かもしれないと手紙にありましたから。それに、聡明な奥様と話せて光栄でした」

 エルヴィスが戻ってきたので、席をはずす。

 内緒の話があるらしい。

 チラリと見ると、皮袋がガシャッと置かれた。ジャラジャラと金属が擦れる音が鳴る。


 お金かしら?


 机に広げて数えているようだった。

 二人の様子が気になったものの、遥菜は夕飯の準備をはじめた。 

 今日は、野菜のスープと肉のカレー粉炒めだ。

 ヨーグルトがあれば、タンドリーチキン風にしたかったのだが、カレー風味だけでも十分食欲をそそるだろう。

 エルヴィスとホクトが話しているうちに、いい匂いが漂いはじめてしまった。


 お客さんがいるのに、この匂いは不味いかな?


「とてもいい香りですな。料理上手な奥さまで羨ましい」

 ホクトは豪快に笑いながら帰っていった。

「ハル。今日は特にいい匂いだね」


 やっぱり、気になるわよね。


 たぶん上手く作れたと思う。子供達は、嗅いだことのない香りに驚いていたけれど、辛くなかったから大丈夫なはず。

 エルヴィスは、また食べすぎてしまいそうで危なかった。ネイサンが鋭い突っ込みで止めたので、ぐったりすることはなかったが。



「ハルにプレゼントがあるんだ。そこに座ってくれ」

 ソファーにかけると、エルヴィスは遥菜の前に片膝をつく。

 遥菜の左手を取ると、指輪をはめた。少しサイズがあっていないのは、ご愛敬だろう。


 指輪……? さっきの内緒話……。


「俺は、ハルと離れたくないんだ。本当は、ハルを帰す研究なんてしたくないくらいだよ。でも、ちゃんと研究はするよ。その代わり、ハルが帰りたくないくらい、俺のことを好きになってくれたらって思ってる」


 ネイサンもグレースもいるなかで、恥ずかしいんだけど……。


 日本に帰りたい気持ちはある。

 でも、エルヴィスを好きになりかけている自覚もある。

 困ったわね。

 っていうか、エルヴィス!? 貴方、信仰心はどうしたのよ。拝んでいたじゃない!?


 あれ? 最近拝まれていない。

 いつからだっけ?

 ネイサンが強行手段に出て、一つのベッドで寝たときからかな?


「まずは馬を探して、旅行に行きたいね。ハルには、もっと良い生活をさせたい」


 研究もして、もっと暮らしをよくしないと。美味しいものも食べたい。もっと人口が増えたらいいな。最終的には大きな町になったりして。

 夢は大きいようだ。


「ハルのご飯が、一番楽しみだな~」

 満面の笑みだった。


 ・・・ご飯ね……。

 俗に言う、胃袋を掴むって、こういうことかしら? 意図してやった訳じゃないけれど……。


 とにかく、ご飯が日本とは大違いなのよ。それさえ改善すれば・・・気持ちが揺らいでしまうかもしれない。


「私からも、エルヴィス様をお願いします。こんなに生き生きしているエルヴィス様は何年ぶりか。ハル様もエルヴィス様に甘えて良いのですよ。それだけのお方なのですから」

 ネイサンにも、お願いされてしまった。

「ハルが、俺を必要としてくれたら嬉しい」

 たぶんエルヴィスの言っている意味とは違うとは思うけれど、今すぐにでも欲しいものがある。

「あの、頼みたいことが……」

 目を輝かせて続きを促された。

「馬も魅力的だけど、牛乳が欲しいの。牛っていないかな?」

 保冷庫をもって買いにいってもいいが、牛乳は冷やしていても日持ちしない。

「牛だな!!」

 やる気なのは有り難いが、ご飯のことになると子供のようだ。

「チー!!」

 チッチも、やる気なのね。

 チッチの首もとを撫でながら、エルヴィスを見る。

「ところで、エルヴィスって、何者なの?」

 ただの学者じゃないわよね!?

「それは!! 秘密だよ。ハルは、まだ、知らなくていいんだ」

 輝かしい笑顔で楽しげに言われてしまった。

 ネイサンには目を逸らされ、グレースはエルヴィスに口止めされた。


 口パクで教えてくれたけど、わからないから!!



~・~・~・~・~・~・~・~

エルヴィスが馬や牛を連れ帰ってくるのは、そう遠い未来ではありませんが、コンテスト応募のため、一旦ここまででにさせてください。


読んでいただいて、ありがとうございます。

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旦那様は、貧乏学者?? ~男女間違えて転移させられたようです~ 翠雨 @suiu11

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