第13話 罠にはまった小鳥

「二人とも来たらいいのではないですか?ハル様は、エルヴィス様が無理をしないように見張って、エルヴィス様は、ハル様が危険ではないように守れば」


 エルヴィスも行く事になってしまったが、怪我を心配して只待つよりはいい。

「でも、ハルは………」

 まだ、ブツブツ言うエルヴィスの声をグレースが遮った。

「じゃあ、私も行きます!!」

 杖を構えて勇ましい。

 グレースって、お嬢様ってイメージだけど、大丈夫なのだろうか?

「これでも魔力量は多いので、お役に立てると思います!!」

 ネイサンが、グレースの同行をすぐに認めたので、全員で罠を見に行くことに決まった。




 ケヴィンの案内で、昨日、罠を仕掛けた場所へ向かう。ダークネスウルフは大きいので、四ヶ所に分けたらしい。

 まず、一ヶ所目。


 ・・・ん?なにあれ?


 ちっちゃ!!


 黒い、鳩くらいの鳥が捕まっている。丸い体型だから、鳩や烏とは違うけれど。

「なんだ? 食べるところが少なそうだな。……ふ~ん。罠とは、捕縛の魔法を使うの」

 エルヴィスは、罠の方に興味があるようだ。

 しかも、こんな可愛い子を食べるのか?

「チーチー」

「可愛い~!!」

「チ、チチチ!」

 遥菜の声に返事をしたみたい!!

 網に囚われた小鳥をつつこうと、指を近づける。

「ハル様、危ない!!」

 ビクッと指を引っ込めた。

 小鳥は首を傾げて、遥菜の方にチョコチョコと近寄りたいようだ。

 ほとんど動けていないところが、なんとも鈍臭くて可愛い。

「こんなに可愛いのに??」

「得体の知れない魔物は警戒してください」

 ケヴィンが慎重に罠を解除した。

 逃がしちゃうのか……。

「チチチチ、チーチー」

 羽ばたいて飛び上がると、遥菜の頭の上にポテッと落ちてきた。

「チ、チチ、チー」

 頭の上で、ステップを踏まれているような。

「わぁ~、ハル様の頭の上に!!」

 グレースがオロオロしている。

「大丈夫よ。痛くないし、可愛い」

 手の甲を上にして頭の近くに持っていくと、小鳥はピョンと飛び乗ってきた。体を反転させて遥菜を見ると、首を傾げて「チー」っと鳴いた。

「可愛い~!! この子、名前は?」

「なんでしょう? 知らない種類ですね」

「じゃあ、呼び名は、チッチね」

「チチチチ、チチチ!!」

 単純な名前だったが、チッチは嬉しそうに飛び上がった。

 そのまま降りてくると、遥菜の肩にボテッと着地した。

「懐かれたようですね」

「この子はなにを食べるのかしら?」

「魔物は雑食です。なんでも食べると思いますよ」

 料理したものでもいいらしい。特別に準備しなくていいののなら、すごく楽よね。

「飼っても大丈夫?」

「名前をつけられたということは、ハル様に従うということです。ハル様の言うことなら聞くと思いますよ」

 やったぁ~。可愛い~。


 二ヶ所目は、ウサギに角が生えたもの。ウサギなのに目付きが悪く、お世辞にも可愛いとは言えない。

 罠を解除した瞬間に、エルヴィスが止めを指してしまった。

 ケヴィンが、血抜きの仕方を説明している。

 スーパーでしか肉を買ったことがない遥菜は、生々しくてあまり聞かないように距離を取った。

「こうやって、時間経過の魔法をかければ、すぐに終わります」


 なんだって?

 時間経過の魔法?


 体感としては三分くらいで血抜きが完了した。

 時間経過の魔法とは、対象物の時間だけを進める魔法らしい。


 色々、使えそうじゃない!?


 あと二ヶ所もウサギの魔物であるブラックホーンラビットだった。


 ケヴィンの家に運び込むと、夫婦で解体をしてくれた。

 その間、ホークとウルフが外を駆け回って遊んでいる。そこに痩せ細っていた姉弟きょうだいの弟が加わった。まだヨタヨタと弱々しい動きだが、遊びたいと思ってくれたのが嬉しかった。お姉ちゃんの方は遠くから、その様子を眺めている。

 少し年上だから、小さいこと遊ぶのは恥ずかしいのかしら?


 前より顔色がいいようで、安心した。


 美味しく食べられるように熟成してくれたお肉をもらう。保冷庫に入りきらない分は、干し肉に加工してくれるらしい。

 内臓や骨などの食べられない部分は、次の罠にするらしく、ケヴィンとネイサンが森に戻った。

 遥菜は夕飯の支度だ。

 二日間トマト煮込みだったので、塩味の具沢山スープにするつもり。

 玉ねぎをしっかり炒めて甘味を出す。出汁がでるように、お肉も多めに入れる。少しでも複雑な味になるように、野菜も種類を増やして。

 塩で味を整え、味見をする。優しい味だけど、美味しい。


 そういえば、今日はエルヴィスがおとなしい。料理をしていると絶対に近くに来るのに。


 怪我を押して森に行ったし、悪化したのだろうか??


 心配になり応接室を覗くと、何か書き物をしているようだ。

「エルヴィス様?」

 振り返ったエルヴィスは、不機嫌に見えた。


 どうしたのかしら? 声をかけちゃいけなかった??


「さっきは、エルヴィスと呼んでくれたのに」

 それは、言い争いになったからで……。

「だって………。さっきは、ちょっと熱くなったと言うか……」


 失礼だったかな……?


「普段は、エルヴィスとは呼んでくれないのですか?」


 ・・・そっち?呼んで欲しいの?


「エルヴィス様も、私のこと様付けですし……」

「確かに、そうですよね……」


 なんか、悪いことをしたかな……。


 悲しそうな顔に胸が締め付けられる。

 別に呼び方くらい、気にしなくったっていい気がするけれど。

「じゃあ、俺も普通に話すから、ハルも普通にしてくれる?」

「いい、の?」

 エルヴィス様って、偉い人だと思っていたんだけど。

「もちろん。さて、出来た。ハルのご飯が楽しみだな」

 そう言いながら書いていたものを折り畳みはじめた。


 これ? なんだろう?


 小さな青い石を持ってきて包みはじめる。

 じっと見ていると、エルヴィスが見えるようにしてくれた。

「こうやって、屑魔石を包んで飛ばすと・・・」


 開いている窓を通り抜けて、飛んでいった。


 エルヴィスは、もう一つ同じように飛ばした。

「手紙?? すごい……」


 便利~。


「楽しみにしていてね」


 ・・・?

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