第46話一触即逝

 吾輩は人である。名はホモサピエンス。


 そんな吾輩だが、さすがに頭を吹き飛ばされたら死ぬに決まっている。


 吾輩は死んだ。


 おそらくは魔王フアトロの魔術によるものだろう。


 衝撃はあまりなかった。


 攻撃の気配もまったくない。


 なのにこの威力だ。


 リナちゃんは魔王フアトロを睨みつける。


「あーぁ、サピエを怒らせちゃったね……」


「怒らせるって、完全に死んでるじゃないか?!」


「はは。リナのサピエがこの程度で死ぬわけないじゃない」


「え!?」


 その吹き飛んだ頭は、まるで時間を巻き戻すかのように急速に周囲から元の姿に戻っていき、吾輩は元通りになった。3だったHPはあと2残っている。

 ギャクキャラであれば復活は容易であろう。

 吾輩は両手をぶらぶらとさせながら魔王フアトロに近寄る。


「ばかな……」


「覚悟はできているのだろうな……、魔王フアトロぉ!」


 青いスーツを身にまとう美女のおっぱいは、なかなかの大きさだ。実に素晴らしい。


「くっ……」


 魔王フアトロはすぐさま魔術による障壁を作り出す。


「へぇ、強そうな障壁ね……」


 リナちゃんが手元にあった空のグラスから、木のストローを投げつけてみる。

 そのストローは当然のように魔法障壁に突き当たり、床に落ちた。


「は? そんなストローごときで……」


 馬鹿にする魔王フアトロのその目の前で、吾輩はそのストローを踏んづけた。


「は!?」


「おっとー」


 ストローを踏んづけた足は当然にして、滑る。


 すかさず発動させるおっぱい揉みくだし師の最強スキル。


 それは――、《ラッキーすけべ》だ!


 たとえどんな状態であろうと、どんなに防御をしていたとしても、それが誰であろうとも、足を滑らせれば目指す女の子のおっぱいに、必ずそこに辿り着く――、そんな近接戦闘スキルである。


 吾輩の体は当然のごとくその普通の魔法障壁をすり抜けていく。


 だが、吾輩がそのおっぱいに辿り着こうとしたそのわずかな隙間に、さらなる二十の障壁が敷かれていた。


「ははは――。だかな神の障壁であればどうかな? この絶対防御魔法≪ディバイン・ウォール≫の前ではいくらそんなチートなスキルであっても無意味だ。それこそ、神すらも抗うようなものでもない限りない限りな――。――ばかなぁ」


「吾輩、神様だって揉んで見せますぞぉー」


 吾輩はいやらしい動きでその神の障壁でさえも揉んで見せる。


 ぱり-ん。ぱりーん。


 絶対防御魔法≪ディバイン・ウォール≫は音立ててたわわに揺れ、そして弾け飛んでいく。


「まさか……、その指の動き、一つ一つが独立に魔法陣を描いているというのか!」


「当然んんー。我輩の芸術を爆発させたストローを受けてみるがいぃ」


 目の前でストローでこけること。

 人はそれをマエストローと呼ぶという。


「そんなものが私の身体に触れたらーー。くっ、」


 魔王フアトロは一瞬にして怯む。


 戦いにおいて怯んでしまえば、それは完全なる敗北に繋がる。


「いっしょく――


  そくはつぅぅ――


    リハビデリィ――テーション!!


     ━━━━━━ヽ( ゜Д゜)人(゜Д゜ )ノ━━━━━!!」


 叫びながら吾輩は魔王フアトロを押し倒す。


 そのおっぱいもまさにフアトロであった。


「あぁーー」


 吾輩は魔王フアトロを撃破した。


「惨めな」


 魔王ベルが憐みの表情で恍惚で無様な表情の魔王フアトロを見つめる。


 そんな吾輩に色欲之魔王たる魔王エディプスは手を叩きながら喜んでいる。


「先生と呼ばせてください! いや師匠! どうです。その素晴らしいスキルをぜひ俺に伝授をぉぉ――、って、いたいたいいたいなにをするやめろあsdfghgjk」


 参謀の美少女が駆け寄ってくる魔王フアトロを顔を赤らめながら止める。


 そんなスキルを覚えたら真っ先に試されるのはきっと彼女なのだろう。


「はいはい。じゃぁ魔王集会ワルプルギスの夜はこれにて終了ねー。波乱もあったけど、目的である魔王リナの処遇も決まったし、魔王リナの人類襲撃も決まったことだし――」


「それ、決まっているのか?」


「え? やらないならこいつらがやるけど? 前回はあの豚やろう将軍のせいで全滅した魔王ベルフェの軍だけど、次はどうかしらね?」


「くっ――」


 そこに魔王リナではなく、聖女ピーチが頷く。

 何か案があるようだ。


「えぇ、まかしておいてください」

「決まりねッ」


 最後に魔王ベルがこう言って締めくくる。


「――では世界に伝えよう、新たな魔王の出現を――


 新たる魔王の出現による歓喜を、世界へ――」


 新たなる戦いの幕が、こうして開かれるのであった。




 ・ ・ ・ ・


 ・ ・ 


 ・



 駆逐飛空艦、奇城 茨魏魏ヶ島いばらぎおにがしまに残った2柱の魔王、魔王ジャック、魔王ベルは魔王集会ワルプルギスの夜が終わったあとに残り、改めて2柱のみで会議を行っていた。


 彼ら魔王はそれぞれ駆逐飛空艦の攻撃、そして近代化改装の役割を担っている。


「それで――出来たのか?」


 不貞腐れた様子の激情之魔王たる魔王ジャック・ザ・ハートは、駆逐飛空艦、奇城 茨魏魏ヶ島いばらぎおにがしまの近代化改装を担当する魔王ベルに問いかけた。


「えぇ。これで海上だけでなく地上も飛べるようにはなるけれど、やはり無理しているからそこまで高度も速度もでないわよ。それでいいの? だから地上での航行はあまりお勧めしないわ。おかの黒船なんてことわざもあるしね」


おかの黒船? どういう意味だ?」


「無用の長物ともいうかしら。ま、貴方には関係ないかもしれないけどね。異世界の≪お約束≫を取り込んで飛ばすこの船は、どうしてもその法則に逆らうようなことは困難になるのよ」


「なるほどそんなものか。まぁ、動きさえすれば攻撃は俺様が担当するからな。問題ないだろう」


「そう……。ダメコン役のフアトロも『良くも恥を……』なんて頑張っていたから、せいぜい期待してあげるわ。貴方たちが華々しく散るのを」


「ふん。散るのは人類を滅ぼして世界の平和を達成してからだな」


「はいはい。それじゃ、いってらっしゃいな」


「おう……」


 ――そうして、駆逐飛空艦、奇城 茨魏魏ヶ島いばらぎおにがしまは戦いに向けて大地の上の空をゆっくりと、だが確実に動き出すのであった。

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