第34話インド映画
我輩は、魔王ベルによって知らされた事実にただ驚くことしか出来なかった。
「え? 拉致られたって?」
「そりゃぁ、あれだけ派手に動いていればいろいろなところから恨みを買うでしょうね?」
「くっ、なんてことだ。吾輩が助けないと……」
「どうやって?」
「くっ……」
やはり我輩がついていないとだめだったか。
いや、我輩では無理かもしれない。
だったらリナちゃんたちならどうだろうか。
そんなリナちゃんの方に目を向けると、一人でぶつぶつと考えごとをしていた。
「あの女を攫う……。そうすればサピエを独り占めに……」
――だめだ。
今にも拐いに行きそうな雰囲気だ。リナちゃんは放置するしかない。
しかしいったい誰に?
考えてみた、
敵は多そうだ。
まずは古巣である弟が属するグリーングリーン公爵家が筆頭だろう。いまのピーチが先導しているグリーングリーン公爵家を潰すような動きには苦虫をつぶすような思いでいることだろうしな。ピーチはグリーングリーン公爵家の内部の動きは手に取るように分かるのであろうし、手玉に取られまくっているに違いない。
対抗馬としては王女を有する王族派も考えられる。いまや貴族派と盛り返してきた
穴としては貴族派か。こちらは派閥内の主導権争いか。ピーチが好き勝手に暴れまわるのを快く思わない連中がいないとも限らない。
「――で、拐われたという情報を持っているということは、拐った相手が誰でどんな目的とかまでも分かっていたりするのか?」
魔王ベルに素直に尋ねたが、返ってきたのは分からないという返事だった。当然か。
「さすがにそこまではね。私たちもピーチを拐おうとしていたところに先を越されただけだから」
「は?」
ブルータス。お前もか。
「だってそうでしょう? あなたは今、時の人よ。魔王の界隈で。20数年ぶりに魔王を創造した悪の参謀として。私も半信半疑だったけれど、その称号をみて確信したわ。変態ロリコンがその病的なまでの執拗さで、彼女を産み出したってね」
「……」
「そこで貴方の婚約者であるピーチ姫じゃなかった、ピーチ女史を拐っておけば、貴方を通してリナちゃんも思いのままでしょう? ピーチのためなら配管工がごとく舞ってくれるでしょうし」
吾輩はピーチのために飛び跳ねたり、キノコを食べて巨大化することを想像してしまった。いまならばそれも厭わないだろう。
「……」
「なんなら助けてあげなくもない。私なら同じ女性だし、少なくともピーチ女史を傷つけることはないわ。拐ったものをさらに拐うのは造作もないことよ。当然見返りは求めるけど」
「――何が望みだ?」
「んー。拉致るとき、ピーチを拉致った人に何をしても良いなら考えてもあげるけど?」
そんな真剣な会話をしているときに、急にリナちゃんが吾輩の袖をちょいちょいと掴んで来た。
何か考えがあるのだろうか。
「んー。リナがそこらで犬さん捕まえて――、サピエが擬人化させてからあの女を臭いで追いかけさせるとかどう? そしてあの女を捕まえれは、サピエが。サピエが。ぐへへーー」
リナちゃんは欲望にまみれていたのでとりあえず頭を叩いておいた。どうやら我輩成分が足らないらしい。きゅぃぃー。とかリナちゃんの鳴き声を久しぶりに聞いたな。
吾輩は魔王ベルに向き直る。
「――さて、そこで、吾輩がうんというとしよう。ところでピーチを攫った相手が分からないって、本当か?」
「えぇ。分からないわね?」
「それは何が分からない? 相手の正体が? 相手が拐った理由が? 例えば――ピーチが、自分の意志で自分を拐ったりしているとかじゃないよな?」
「さぁ? どれでしょう?」魔王ベルはあえてとぼけた。
「『ピーチを拉致った人に何をしても良い』ってどういう意味だ? 何をするつもりだ? 拐った人に何をしても良いけど、ピーチには指一本触れるな。が両立するなら――、ぜひお願いするよ」
「あれ? あの言い方じゃやっぱりだめだったかな?」
「ちょっと、あからさますぎるですぞ」
ふむ。ピーチは自らの危険を感じて自ら隠れたか。
そうであれば魔王ベルに拐ってくれとかいうのはまさに渡りに船か。我輩から拐うように言われたとかいって、素直にピーチが騙されたりしたら、目も当てられない。いや、拐えといったのは我輩なんだから、騙してないか。
「ふむ。仕方ない。実はね――。ピーチを襲ったのは王族派なんだ――」
「おい、吾輩の『ピーチがピーチ自身を攫った説』が思いっきり外しとるやないかーぃw」
「それをピーチの配下の者が撃退してね。ピーチは策略のために自身で自身を攫うことに決めたようなの」
「やっぱり当たっとるやないかーぃw」
「その後、豚野郎将軍配下のエルフの一派が、穏便に拉致られてくださいと土下座して――」
「何か新情報がでてきとるやないかーぃw」
「いまは、私の配下のダークエルフの連中がさらなる拉致をしようとスタンバっているところだな」
「もうめちゃくちゃになっとるやないかーぃw」
「紹介しよう。我らが誇るダークエルフの拉致専門部隊! ラチケットの一門! かもーん!」
「ちょっとまてぃ!」
魔王ベルが指を鳴らす。
すると唐突に窓、天井、入り口の扉が同時に開かれダークエルフ達が押し入ってくる。
おまえらどうやってそのカギの掛かった扉や窓を開けたのだ。
そして天井ってお前は忍者か。
というか、スタンバっているって、ピーチのところではなくここにかよ。
着飾ったダークエルフたちはまるでインド映画を彷彿とさせる動きで、踊りながら歌うのだった。
「拉致っちゃうよー」
「拉致っちゃうよ~~」
「拉致っちゃうよ~~~」
「拉致っ、ちゃうよッ↑」
一斉に華麗なターン! 見事な統一感。
「「「でゅーわーぁぁぁぁ」」」そして最後にポージングッ。決まったぁぁ!
「うるせぇ!」吾輩はあまりのうざさに思わず叫んだ。
「彼らはダークエルフの中でも拉致を専門に行う、ラチケットの一門よ!」大切なことなのだろうか。魔王ベルは二度いった。
「「きぃーー」」ダークエルフたちは叫ぶ。
「さぁ行け。そしてピーチを拉致ってこい」
「「きぃーー」」
ダークエルフたちは魔王ベルの掛け声のもと一瞬で消えた。
「……。とまぁ、今こんな感じね」
我輩は頭が痛くなってきた。
「ま、まぁなんだか無事そうだと言うのは分かった。これからどうなるかは分からんが。というか拐いにいかせるなよ。穏便にすましてくれよ」
ともかく、なんだかあのうざそうなダークエルフが行ってもなんともならないだろうから恐らくピーチは大丈夫だろう。
保険はある。
ダークエルフたちと共にリナちゃんが一緒に消えていた。
だめだ不安すぎる……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます