第33話手紙
「それで……、彼女たちが私を攫ってサピエのところに送ろうとしていた手紙がこれね……」
馬車の中で、配下の者から手紙を受け取っていた。
王都の中で貴族派の家々を訪ねる途中、ピーチは賊に襲われたのだ。
だが、そのことごとくをピーチの手の者が討ち果たしている。
前回とは違い、奇襲に対して万全に備えているのであれば、前回と結果が違うのは当然のことだろう。
弟から情報が漏れることもない。弟とはもう別の道を歩んでいるのだから。
いかに王都の中とはいえ、同じようなことが絶対に起きないなどとピーチは当然考えていない。
前回は父の領地と王都との間で奇襲で襲われたが、あのときはまさか身内から奇襲とかされるとは思ってなかったのだ。だから成功させてしまった。
敵に対して行動経路が漏れていたのだ。
もちろん今回、暗殺などを狙ってくるのは弟からのものを想定していたのだが。
だが実際に襲ってきたのは王族派からだった。
足が付かないようにこの前犯罪者奴隷にした連中を買い上げて襲わせたようだが、カネの経路を探れば大本などすぐに知れた。
もっとも黒幕が分かったところで、王族からの行動となれば訴えたところでどうにもならないが。そんな訴えは人知れず闇から闇へと握りつぶされるだろう。
(あのゆるふわ系王女さま。顔に似合わず、えぐいことをしてくるじゃない)
もしかしたら、お姫さまも異世界転生を果たしているのかもしれない。ピーチはそんなことをぼんやりと考える。
ピーチ自身、
逆ハーレムルートではお姫さまは最終的に卒業すると、成人の儀式で聖女となり、幸せにくらしましたとさエンドロールが流れて終わる。
だが、ここにきて計画が狂ったと。おもにピーチのせいで。
王女からは卒業前に自分以外の聖女が出現し、大聖女祭りもお姫様的には前倒しになったように見えるだろう。
さらに、ピーチは神殿での成人の儀式をお姫様ができないように
それはもちろん王族に対してだけでなく、ほかの人全てに対してだ。
もちろん事情を知っている人はピーチに協力を惜しまない。
逆に、ピーチが矢面に立って妨害をすることに感謝こそした。実に悪役令嬢らしい憎まれ役だ。事情を知っている人からの支持は高い。
実際に今の王都の神殿で成人の儀式をすればどんなことになるか分からないからだ。
だからだろうか。
王女はその妨害を排除すべくピーチを攫いにきたらしい。
(ただでさえ大聖女祭りで浮足立っている
おそらく王女が混乱に乗じて王都の神殿に乗り込み、成人の儀式をするのだろう。
大聖女祭りもおそらくは勇者辺りを使って優勝を目指し、聖女となった王女を指名させるか……
一見素晴らしい案に見える。
しかし――
(あぁ、わたくしは王都の神殿での成人の儀式にあれほど反対したというのに、ねぇ……)
だからお姫さまがどんな酷いクラスを得ることになっても、王族派から咎められる言われはないだろう。なぜならこれほどまでに必死に止めたのだから。
ピーチは読んでいた手紙を丁寧にしまうと、手の者にその手紙を投げ渡した。
「これをそのままサピエへ。わたくしは――、大聖女祭りが終わるまで攫われることにしますわ。わたくしによって」
「はっ」
手の者は手紙を受け取ると消えた。
「そうねぇ……。わたくしを攫った黒幕は、お姫さまでした。とかいったありきたりなものでなく、悪役令嬢のわたくしでした――、とかだったら受けるかもしれないかな。いやはや、ここは――」
馬車の中、ピーチは郊外の別荘の一つを目指すことにした。
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