第32話時代の潮流
勇者キリッカート・パインツリーは憤りが隠せない。
(あいつは、あいつだけは赦せない!)
俺が愛する人が殺されたというのに。
やつは今も笑っている。
そう思うといてもたってもいられなくなるのだ。
そう、あの時まではよかったのに。
人生で、成人の儀式を受けたあの日。
確かに人生の絶頂を俺は迎えた。
そして、あの日。
あの魔王のエリア破壊系攻撃を食らって……
――その後に行ったことを思い出すと、俺はいまでもイライラがとまらない。
あのざまぁと言ってきたふざけた神のことを思い出す。
『勇者パーティーを追放されたやつは今頃、まるでカクヨムの追放系小説がごとくチートな所業をやらかしているだろうさ。そんなおバカなそいつに我々の関心もそちらに首ったけだのだよ。』と。そんな趣旨のことをだ。
ざけるな。本当にふざけるなよ。
追放系だと。時代の潮流だと!
俺TUEEEE-、とか叫びながら敵を倒しながら女の子に好かれるのは勇者の役割のはずだ。
服は黒服! 剣は二刀流! 刀劍神域! 星爆氣流斬 !
それが世界の王道、世界の枢軸のはずだ。
時代の潮流が一体なんだというのだ。
昔は熱血ロボットアニメの主人公だの、キンピカだのの主役級CVをやっていたのに、いまでは秋葉原のキモヲタデブ役みたいなこの仕打ち、もうやっていられない。赦せるか。赦せるわけがない。「~んだぉ」とかオタクがごとく喋らされるのだ。
奴を追放したことがそんなにいけないことなのか? 悪なのか?
確かに成人の儀式で追放せずに配下扱いにしておけば、やつはまるで社畜の用に働いてくれたに違いない。適当に虐めておけば聖女の心も完全に離れて俺のものとなっただろう。
いちゃいちゃするシーンを見せつけて、ゆっくりとNTRされるのを拝ませてやるのだ。
きっと、血の涙を流しながら苦痛に喜ぶに違いない。
だが、実際には刹那的な楽しみのために俺はやつを追放してしまった。
野放しになったやつは今も好き放題している。
あの高嶺の華である悪役令嬢の心を落とし聖女とし、さらには100人聖女生産とかハーレムにもほどがあるというものだろう。最終的には二万人妹とかやりかねない。
今度こそ。
今度こそ、じわじわとヤツを苦しめて必ず殺す必要がある。たっぷりとだ。
それも衆人環視の中で、ぼこぼこいたぶりながら殺すのが良いだろう。
ならば近く行われる大聖女祭りで殺すのが最適か。
聖女祭りは3年に一度聖女の中の聖女、通称大聖女を決めるお祭りである。
トーナメントで個人戦の決闘を行い、優勝者が大聖女を決めるという分かりやすいもの。
そんな大会であるから、勢い余って死者が出たとしても文句は言われないだろう。
おあつらい向きに今年の大会主催は急遽パラチオン王国への変更が決まった。
本来はアメジスト王国での実施が予定されておりパラチオンは次回開催地予定だったのだが、現在のアメジスト王国の政情は悪く、パラチオン側に配慮した形になっている。
100人も聖女が一度にできたインパクトは世界各国にも影響を与えていた。
やつめ、墓穴を掘ったな。
だが、もしかすると、ヤツは大会に出てて来ないのかもしれない。
聖女の数だけ支援者があるのだとすれば、物量で攻めることができる。
ヤツはぬくぬくと部屋ですごし、聖女を支援する男どもを使って、大聖女の趨勢を決めようという腹なのか。
確かにもともと、ヤツは戦闘向きのクラスではない。
いたぶるためには結構なことだが、そもそも参加しないのではお話にならないのだ。
なんとか手を――と、考えていたときに思い付いたのは王女の力を使うことだった。
まるで乙女小説の世界に住んでいるかのような金髪ゆるふわ系のお姫さま。
そんな彼女にはもちろんそんな暗い心持ちを話すわけにはいかない。
嫌われてしまうからな。一瞬で。
今の状態でさらにお姫さまに嫌われて王族派閥から抜けることにでもなったら大変だ。
さすがに勇者であるという肩書があるとはいえ、ほとんど成果を上げていない以上、彼女の婿になることは難しいが、良い仲であるに越したことはない。
そして、彼女はかなりお花畑なところがある。
あいつと俺は昔仲間で今の実力を公式な場面で知りたい。などといえば、まぁ。何て素敵なことなんでしょう。と手でも叩きながら支援してくれるに違いない。
実際にもそうで、王女は一緒に考えてもくれた。
なんでも、いまやつが婚約している悪役令嬢は主要なライバルの一人で、いまはすでに婚約破棄して学園からドロップアウトしているにも関わらず、いまだに自分を目の敵にして自身が神殿で聖女になるのを妨害してくるそうだ。
適当にその悪役令嬢に対して現婚約者のことをいじり倒して煽ればすぐにでも乗ってくるだろうとのこと。
実に恋愛脳である。まるで乙女小説のヒロインだな。
しかし、成人の儀式で必ず聖女になれるなんてすごい自信だな。
でもまぁ王都の何代も王族が成人の儀式を受けてきた神殿だ。そう悪いことにはなるまい。
俺はお姫さまとさらにいくつか話し、大聖女祭りでの勝利を彼女に誓った。
トーナメントでは派手に動いてやろう。
作戦としてはこうだ。
・俺がトーナメントに勝ち続け派手に動く。
・混乱する騒ぎに乗じて
・優勝した俺が、彼女を大聖女に指名する。
完璧だ。
俺はすでに勇者でレベルがカンストしているのだ。
誰であろうと、負けないはずがない。
あぁ、お姫さまに勝利を――
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