第15話勇者学園

 ファビョリーヌ・チオフォスフェイト王女は、パラチオン王国で永く子のできなかったジメチルパラニトロフェニルチオフォスフェイト国王の第一子である。


 金のちじれたゆるふわ系の髪を持ち、王族で一般的な色である水色の瞳を持つファビョリーヌは何不自由なく育っていたが、この国の政情は不安定であり、政情を安定させるため顔がキモイと有名な「豚やろう将軍」の二つ名を持つ難手将軍と婚約をしていた。


 そのためか、逆に不埒な男が近寄ってくることもなく性徴し、貴族学園に入学するころには健気で美しい少女へと変貌していた。


 そして入学直後の魔王軍の侵攻により、豚やろう将軍が失脚し、そして彼女から婚約破棄を宣言することによって彼女は自由の身を得た。



 だがそうとなると問題となるのは次の婿候補である。



 このパラチオン王国の場合、貴族が婚約する時期は非常に速い。


 現世界で小学生低学年の頃には婚約者がいるくらいなのだ。


 ということは、自由となった彼女と釣り合う格式を持った男子というのは大抵婚約していることを意味していた。


 そして、婚約破棄はされる側にとっては大抵の場合不名誉なことである。


 つい先日、成人の儀式で聖女になった貴族籍の女性が、同じく成人の儀式で恵まれないクラスになった男子を婚約破棄したが、その程度の理由は少なくとも必要であった。


 そんな中、同じ成人の儀式で勇者となった者がいる。


 その勇者も貴族籍だということで婚約者がいたのだが、どうやら死別したらしい。


 そんな勇者が学園に短期で入学するというニュースは、貴族学園の中においてはすぐに広まった。


「くそっ。狙っていたのに」


「お前は婚約者がいるだろう」


 そんな会話が陰でささやかれる中、勇者は学園の歩道を歩いている。


 完全に聞こえていた。


 だが、そう思われるのも無理はないだろう。


 事実、勇者は王女を狙っていたのだから。


「あら? こんにちはぁ」


 その学園の片隅にある庭園で花を愛でていた王女は、勇者に気が付くとにっこりとほほ笑んでぽあぽあとした声を返すのだった――





 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・





 はい。私の名前はファビョリーヌ王女ちゃんです。きゃは☆ミ


 いやー。前の世界じゃアラサーの喪女とかやってきたわけですが、やってきました乙女ゲーの世界? 異世界転生とかいうやつ?


 あのくそむさい豚やろー将軍も魔王軍にやられて失脚し、婚約破棄してやった瞬間から、なんだか私、いわゆる前世の記憶が蘇ったみたいなんだよねッ。


 この世界のベースとなっているのは、どうやらセイクリッド・ハートフルオフラインという乙女ゲーで、通称は西鳩セイ・ハートと呼ばれているヤツだと思うのだよねー


 人当たりの良さそうな女性主人公のこの、ロリ巨乳の娘とか、周りの男どもの名前とか見る限りそう、絶対そう。


 というわけで今日も今日とて勇者を攻略に庭園にやってまいりました。


 この勇者、隠しキャラの一角で、庭園をランダムなタイミングでいるとやってくるのだよね。


 ――で、隠しキャラゆえか攻略もそんなに長くも難しくも無くすぐ落ちるちょろいん系なのが良いのです。


 これで全6キャラ全員恋に落として逆ハーレムルート、通称逆ハ―を狙らっちゃうんだからッ。


 この勇者のパートでは魔王軍が攻めてくるんだけど、ベターなエンディングだと先に船に乗って魔王城に攻めに行き、返り討ちで死ぬんだよねー。――で、帰ってきた勇者を慰めて落とすと。


 これが、ハートフルなトゥルーエンディングだと私が≪反射の水鏡みずかがみん≫スキルを習得して、魔王の攻撃を反射して倒すのだけど、そこまでやると他の男を攻略できないのでそれは止めておきました。だって魔法スキル覚えるのだるいもの。


 だから速くイベント起こして勇者慰めようと思って、深緑のドレスを購入して商会の娘イベントをおこし、シナリオ開始早々に船を渡してあげたら邪魔な聖女も魔王さんが葬ってくれたし、慰めれば勇者単純に落ちたし、順調順調だわ~。あと五人ですぅ。


 そう、この世界の貴族の人たちってみんな婚約しているのだよねー。だから私がそれに割り入るには、断罪なりなんなりをしないといけないんだー。


 そう断罪イベント! ざまぁ! 得られるカタルシス! でも、めんどくさいことこの上ないわ。

 だから、断罪イベントより速く叩き落してやるのぉ。


 イベントで私のことを階段から落とそうとする恋敵なんて、そのまま手を掴んで階段から叩き落としてあげたわ。

 えぇ、階段の下には金物かなものが偶然落ちているとか、よくあることでしょう?

 階段から落ちた彼女のその後なんて私は知らないわよねー。


 あと目ざわりのはあの、ピーチ・グリーングリーンよ。


 そう、乙女ゲーといえば必ず出てくる最悪な恋のライバル、悪役令嬢よ。


 いつもいつもあの女は私のことを邪魔してくる。


 だから、公爵家で優秀な姉に悩みを持つ公爵領の弟くんとかに取り入って焚きつけることで、ようやくその令嬢を盗賊団に襲わせてやったわッ。


 これでしばらくは彼女も黙るでしょう。なんて素敵なのかしら。


 あぁ、悪役令嬢ピーチの婚約者であるダンディなお兄様で、若くして国王派の当主であるフェノール公爵が私の一押しなんだよね。


 あとは、演出舞台用の令嬢もいるけど、王女の権威を使えばそんなのMOBだよね。

 これで後は成人の儀式で聖女の認定でも教会で受ければ、王女にして大聖女が確定するわ。大聖女祭りで。ほら、例の勇者の聖女もいなくなったし。


 あぁ、今から逆ハーで素敵な生活をまい進するのが楽しみで、楽しみで、仕方がないわぁ~

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