第14話ボーイミーツガール
吾輩は人である。
名はホモ・サピエンス。
どうやら襲撃は成功したようだ。
砦を制圧し、盗賊団を全員捕まえることができた。
注目を集めるため、味方の存在を悟られないために懸命に努力した結果だ。
なんども「やってられるか」と挫折しかけたが、吾輩はやりとげたのだ。
しかしこの盗賊団はなぜだろう、不思議なことに全員が女性であった。
あー。なぜなんだろうなー。吾輩わからなーぃ。
しかし、こいつらはきっと女の尊厳を踏みにじってきた連中だ。
犯罪奴隷となって逆に踏みにじられる苦しみというのを少しでも永く味わって欲しい。
地球の平和と、主に我輩のお金のために。
さて、そんな魔界の森にある砦ではあるが、盗賊団のお約束というか捕虜がいた。
しかも女性の捕虜で貴族であるようだった。
それどころか吾輩の知っている人物だ。
社交界で高嶺の花と考えていたその女性の名はピーチ・グリーングリーン。グリーングリーン公爵家の令嬢である。
なぜ彼女の顔を知っているのか。
それは彼女が高位の公爵家の令嬢だから以外になにか理由があるのだろうか。
彼女を知らなかったらこの国の貴族なら相当にもぐりだ。
吾輩が貴族とはいえ男爵家の下の下であることとは違い、王族派に次ぐ第2グループである貴族派の門閥を形成するグリーングリーン公爵家は、その貴族派のトップにいたはずだ。知らないはずがない。逆に向こうは我輩のことを知るはずがないのも断言できる。
パルチオン王国国内では、およそ、彼女の属する貴族派と、国王派、それに、宗教系の
吾輩も派閥でいえば貴族派の男爵家の一員だ。そのために見たことがあった。まぁ、今となってはどうでも良いことだが。
ピーチ女史は異世界の知識からだと、名前からしてお姫様然としてピンクのドレスを着ていることを想像するであろうが、実際には国王派に対する貴族派派閥であるからして、見るからに悪役令嬢のそれであった。乙女小説であれば、当然のようにメインライバルに抜擢されるだろう。
まず多少釣り目である。キツメの顔だろう。
そしてものすごく美人なのは当然だろう。
さらに赤毛である。
そして、極めつけは、ツインテールでかつドリルなのである。
そう、ドリル。ドリルなのだ。
どっど、どりる! どりるったらどりる!
これで彼女を悪役令嬢と言わずして何と呼べばよいのだろうか! どん!
この世界でならば彼女に踏まれたいと思う男性貴族は星の数ほどいるだろう。
盗賊団に連れ込まれて煤けた服装。
幸薄そう可愛い。
最終的にはヒロインに男を奪われて「きぃー」とかいいそう。
吾輩はそんなピーチな姫様……、じゃなかったピーチ女史を助け起こし、目隠しを解きながら語り掛ける。
「――ということで、おっぱいを揉ませてくれ」
「何言ってるのよ。このHENTAI!」
当然の、心暖まるご褒美が返ってきた。
張り手である。
さすがは悪役令嬢であった。
「えー。盗賊団の捕虜になっていた女の子を助けた救世主の吾輩には、そのくらいの役得があってもしかるべきじゃね?」
「そこで、『えぇ、良いですわよ』なんて言う訳ないじゃない! 痴女じゃあるまいし。痴女じゃ」
「え、言うでしょう? おーぃ、リナちゃーん」
吾輩はそこらで盗賊団の
「ん? どうしたの? おっぱい揉む?」
「ほら? これが普通の反応というものだ」
「いたいけな幼女に何教えこんでんだ、称号からしてHENTAI持ちの、ホモ・サピエンスさん? あぁ、あの聖女に婚約破棄されたサピエンス男爵家の……」
いきなり吾輩のことを知られていて吾輩はたじろいだ。
絶対に知るはずがない情報をなぜピーチ女史は知っているのだろうか。
これは、光栄なことだろうか。まさか、気がある?
「う……。いかにも。聖女に婚約破棄されたサピエンス家の三男ですが? なぜそれを?」
そういえば、グリーングリーン公爵家には鑑定系のスキルが継承されていると聞いたことがある。
というか得てして上位の貴族とはなにがしかの便利なスキルを保有しているものだ。それで看破したのだろうか?
「HENTAI、ロリコン」
ピーチ・グリーングリーンは吾輩の称号を的確に挙げていく。
やはり、何らかの鑑定系スキル持ちなのだろう。
「人々を新世界へと導く白い悪魔 ┌(┌^p^)┐ 異世界?? ん? なんかよく分からないやつ!」
「ぐは……」
この女、吾輩の心の傷をグイグイと削ってきやがる。
「うぅ、なんだ、せっかく助けてやったのにその言い草……」
「う……、それは……」
「ここの奴らを倒すために吾輩はスキルを使ってやりたくもない事を重ねたというのに……。その称号の能力で――」
「ま、まぁ、わたくしを助けくれたことには感謝するわよ?」
はい、罵倒からのデレが来ました――
これが、これがあの有名なツンデレというやつか。
頬を染めるピーチ女子の顔を見て、吾輩まで顔が赤くなってしまう。
吾輩ながらちょろい、ちょろすぎるのではないだろうか。
「えぇ、もしもわたくしが婚約していなかったら、すぐにでも婚約を申し込むくらいには……、ね」
ちっ。既にヒモ付きかよ。
まぁ、吾輩ですら婚約していたくらいであるから、上級貴族である彼女であれば当然の結果ではある。
だが、婚約を申し込まれるほどとは。吾輩、いつからそんなイケメンになったのだろうか。相当なHENTAIでロリコンなのに。
「だって、あなた『聖女に婚約破棄されまくりし者』でしょう? こんなのが知れたら下手をすると世界中の女の子から婚約を申し込まれるに決まってるわよ」
「え?」
なんですと?
意味が分からない。
『聖女に婚約破棄されまくりし者』でなぜ、婚約殺到という流れになるのだろうか。
「気付いていなかったようね。『婚約破棄≪されまくり≫』ですのよ。あの騒動は面白可笑しくわたくしは聞いていましたけれど、だからこそ名前を憶えていたのだけれど、婚約破棄されたのは1回だったはず」
「当たり前だ。そんなに何度も婚約なんてできるか――。あッ」
「≪されまくり≫と複数形ということは後最低2回は貴方は婚約破棄されるベキはずよね。聖女に」
「なるほど。だから成人の儀式で聖女化することを狙ってを吾輩と婚約をしようとする子女がざっくざっくと……、ってそれ最後に我輩は婚約破棄されるじゃねぇか!」
「うふふ」
「うふふ。じゃねぇ!」
とても楽しそうなピーチ女史はとても悪役令嬢らしい腹黒さだった。
調子を取り戻してきたみたいで良いことだ。
吾輩の精神はさらに大きく削られたが。
「でも、例えばわたくしが貴方の婚約者になりたいって言ったら受け入れるんでしょう?」
「もちろん全力でお願いします」
「ふふ。考えておくわ」
「その時は全力でおっぱいを揉まさせていただきます」
「(冷ややかな目で) へ――」
「あぁ、ご褒美がっ。ご褒美がっ、来た――」
「(だめだこいつ……)」ピーチはあきれた。
――と、そんな会話をしていると、リナちゃんが身体を摺り寄せながら吾輩の服の袖を握ってきた。
「ところで、あの
そこで、吾輩はピーチ・グリーングリーン女史に向き直った。
「あー。すまない。ここらで捕まえた犯罪者奴隷どもを売りたいのだが、公爵家で良い販路は無いかね?」
これだけ大量の犯罪奴隷だ。我輩だけで売りさばくのはきついが公爵家の販路があれば楽勝だろう。
「あーー。ここにいた人たちがなぜか女性だったのはあなたのHENTAIの称号に誓って聞かないことにしてあげるけど、そうねぇ……」
ピーチ・グリーングリーンは冷たい視線で倒れている盗賊団を見た。
吾輩はその時は知らなかったが、
「わたくしの販路を持って――、この世の地獄を見せてやりますわ」
その硬質で冷たい言葉に、吾輩はゾクゾクした。
「彼女たちにはこんな盗賊団ではなく、幸福になってもらいたいからね」
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