第9話牛さんのために墓穴を掘る

 吾輩は人である。

 名前はホモ・サピエンス。


 さて、そろそろ対策をしなければいけない。


 何の対策かといえば、この世界でも存在する鳥虫獣害対策だ。


 この世界での鳥虫獣害対策といえばそれはすなわちモンスターに対するものと考えて差し支えない。


 なにしろ安い土地の価格という代償として隣にモンスターが住んでいる魔界の森がある。


 なぜそんなところに住んでいるかといえば答えは簡単、土地が安かったからだ。

 牛さんを養うには大量の牧草が必要だったので、選べる選択肢はここしかなかった。多少のリスクは許容するしかない。


 初心者冒険者などであれば「悪・即・斬」の精神で討伐することも考えれば逆に良い土地なのかもしれない。


 幸いにして、もっと東の地域とくらべここの森に住んでいるモンスターは弱い。


 大抵がウルフとか、ゴブリンだ。


 これがもっと東に行けばオークやオーガー、そしてライオンや最終的には麒麟きりんといった強大なモンスターが生息しているという。


 さらに東に行けばアンデットが跋扈する都市があり、――そのために大きな魔物の侵攻にはこのパラチオン王国は晒されていないわけだが――、それでもそれなりのモンスターはいるわけだ。かなり勇者が乱獲したらしいがな。



 ともかく、そんな場所であるので何かモンスター対策が吾輩の牛さんのためには必要だった。


 そうでなければいつ何時、ゴブリンが現れて吾輩の牛さんが持っていかれてしまうか分かったものではない。


 あいつらきっと、牛さんから牛乳をちちしぼりするとか考えずに、すぐに牛ヒレ肉と牛カルビとかで焼肉パーティをしそうだからな。味付けは塩だ。

 そしておいしい牛タンとか、牛ホルモンなどはその価値すら分からずに捨てそうだ。断じて許されるものではない。




 ――さてまずは方針だ。

 モンスター対策としては何をすればよいだろうか?


 とりあえず最初のステップは、家の周囲に柵を設けるようにする。


 さすがにひと昔流行った電気柵のようなものを用意することは吾輩でも無理ではあるが――だって電気がないもの――、しかしそれなりに丈夫な柵を作ることはできる。


 罠作成スキル万歳である。



 野武士レンジャーの訓練はクラス化はしなかったものの、それなりに役に立っているわけだ。


 師匠からは子供の頃から使いっぱしりとかさせられていたが、そのくらいの成果があるということは喜ばしい。


 だが、罠作成スキルというくらいなのだから、柵で覆うくらいだけでは終わらせたくなかった。



 柵を使って策をめぐらす。うむ完璧な所業であろう。



 その罠だが、一つだけ森側の柵に対して人が通れる程度の隙間を作ることにした。


 アホなゴブリンは、「うへへ、こんなところに隙間があるぜ」などと言いながらその隙間を通ろうとするだろう。


 あいつらは基本バカである。



 だが、その隙間の間には穴が掘ってある。


 アホなゴブリンはあわれ、その穴の中に落ちることだろう。

 一度落ちてしまえばもう戻ることは無い。


 おぉ、なんて天才的なアイデアなのだろうか。


 そんな目的で、スコップを手にした吾輩は穴を掘っていく。

 スコップ、それは人類が発明した究極の穴掘りアイテムである。

 ドイツ人であればすぐさま塹壕を形成することだろう。



 そんなところに牛さんがやってきた。

 純白の乙女、ホル・シュタインちゃんだ。


 からん、ころん。と牛さんの首に掛けてあるベルが金属音を立てるのですぐに吾輩は気が付いた。


「んー。シュタインちゃーん。ここは今穴掘ってるから危ないからねぇ~」


「もう?」


 牛さんは首を傾げた。可愛らしい。


「ほら、シュタインちゃーん。あそこを見てごらーん」

「んもう?」


「ほーら、シュタインちゃーん。草生えてるぅぅぅ」

「も、もーう!」


 からん、ころん。からん、ころん。


 牛さんは吾輩の言葉が分かるのか、分からないのか、ともかく吾輩が指示した草のところに行き、草をむしゃむしゃと食べ始めた。


 ぶっちゃけこの近くってどこでも草は生えているのだがな。


 そんな中こんなで穴を掘っていると、ヤツは現れた。



 ゴブリンである。

 ヤツは、なんと吾輩が穴を掘っている間に落ちてきたのである。上から。



 その瞬間に吾輩は押しつぶされて死んだ。

 ぴちゅーん。とむなしい音が響く。



システム『ホモ・サピエンスは死亡しました。残HP :2』


 嫌なメッセージが空中に浮かぶ。いや、死んでないけど。


(俺はギャクコメディのキャラかなにかか?)


 例えるならば欧米のギャクアニメ、トムとネズミ。

 あいつら一発で倒れるがすぐに復活しやがる。


(まぁ、クラスの特性から言ってギャクキャラとしか思えないわけだが……)


 ピコん、ピコん、ピコん、ピコん、……


 画面上に表示されるHPバーは真っ赤になり、まるでポケモ〇BWでピンチになったときのようなBGMが脳内に流れ出す。


 これは――危険だ。どう考えても。

 コミカルに復活したが状況は芳しくない。

 さすがにHPがゼロになれば死んでしまうことだろう。


 しかし、さすがにそれは予想していなかった。

 まさか、穴掘り中に待ちきれずにゴブリンが落ちてくるなんて。


 ――穴の中で作業しているのだから気づけといいたいが。


 吾輩が穴を掘っていない間であるならば、何も言わずその上から砂をかけてしまってしまうところであるが、あいにくと一緒にゴブリンが落ちている状態ではどうにもならない。そんなことをすれば自分まで轢死してしまうことだろう。


 その落ちてきたゴブリンだが、多少のダメージはあるようだが、普通に動いている。


 ゴブリン――


 それはスライムに続き、この異世界では世界最弱のモンスターの一つだ。


 だが、最弱とはいえモンスターであることには変わりがない。


 野犬と同じく武器がなければ相当に厄介な生き物である。


 あぁ、相当に厄介だ。


 そして吾輩の手にする武器はスコップ1つのみ。


 考えてもみよう。戦いの素人が襲ってくる犬をスコップで叩き殺せるだろうか。


 できるはずがない。


 なにしろ、まともな近接スキルが、このおっぱい揉みくだし師クラスにはないのだ。


 いやまて。


 吾輩には相手を見るだけで敵を倒す強力な魔眼があるではないか。


 そう、この前取ったばかりのスキル≪視姦の魔眼≫だ。


 吾輩はそのスキルを使ってゴブリンを見た。


 見るからに汚らしい粗末な恰好をしたゴブルンである。

 そんなゴブリンと吾輩の目と目が通じあい、見つめあった。


「キュィィ」


 ゴブリンは謎の叫び声をあげると、吾輩の胸を突いた。


 迸る血しぶきが暗い穴の中で広がる。


システム『ホモ・サピエンスは死亡しました。残HP:1』


 システムメッセージが残HP1を告げてきた。


 これがゼロになったらどうなってしまうのだろう。

 お笑いネタのクラスであるため、いや、お笑いクラスであるこそHPゼロになって死亡したら確定で死んでしまうに違いない。



(スキル≪視姦の魔眼≫は聞いていないのか? まずい、死ねる――)


 吾輩は焦った。


「キュィィ」


 ゴブリンは再び謎の声をあげている。


 どうやら吾輩の睨みによってどうやらかなり興奮しているようだ。


 声からして警告を発しているようだ。


 だがその声質は普通のゴブリンよりも半オクターブほど高い。


 ここで、吾輩はこのゴブリンがオスであることにようやく気付いた。

 というか、ゴブリンは基本みんなオスだ。


(――そうだ。≪視姦の魔眼≫というくらいなのだから、もっと嫌らしい視線を飛ばさないといけないのか? そう、メスを見るような視線で――)


 吾輩はただ睨みつければ≪視姦の魔眼≫が発動するものと勘違いをしていたようだ。どうやら違うらしい。


 吾輩は嫌らしい瞳をゴブリンに向けた。

 ゴブリンを押し倒すさまを想像しながらだ。


 しかし、相手は汚らしいゴブリンである。


 そんなものを性的な目で見るとか、かなり精神に来るものがある。

 しかし、これは生き残るためには仕方のないことであるのだ。


 例えば君は、JR東西線に乗ってくる汚いおっさんをいらやらしい視線でみることができるだろうか。

 少なくとも吾輩には無理だ。だが、その無理を通す必要がある。


 汚らしいおっさんのおっぱいを揉みくだす。あぁ、おぞましい。

 そんな気持ちを抑え、吾輩はゴブリンに視線を向ける。


 するとどうだろう。


 ゴブリンは急にびくりと震え、後ずさった。


 身の危険を感じたのだろうか。


 やがてうずくまり、ゴブリンは身体を震わせるだけで動かなくなる。


 HPを全て≪視姦の魔眼≫で奪うことができたのだろうか。

 どうやらこれが、≪視姦の魔眼≫の正しい使い方のようだ。


 もともとゴブリンは穴に落ちてきたときにダメージを受けている。


 少ないDOTダメージであれ、倒すことができたのだろう。


 吾輩は≪鑑定≫スキルを使い、ゴブリンのHPが0であることを確かめた。


(よし、動けなくしたぜ……)


 だが、これからどうすれば良いのだろうか。


(しかし、オスのゴブリンか……)


 吾輩はステータスメニューを開く。


 おっぱい揉みくだし師には、そういうときにおあつらえ向きのスキルがあったはずだ。


システム『スキル《擬人化》を取得しました(レベル1)』


システム『スキル《擬人化》の効果は以下の通りです。

 おっぱいを揉みくだすことにより、生きとし生けるもの全てを擬人化することができる。

 擬人化に成功すると、対象に隷属が付与される。

 ただしレベルが低いうちは対象にできないものもある。

 また、高いレベルでスキルを使用すると対象のレア度が向上する。

 既に人になったものに対しては無効である』


 そう、《擬人化》スキルだ。


 ゴブリンから人にすることができれば、話し合いにも応じることができるだろう。


 スキルを取ってから表示することができるメッセージをさっと見たが、隷属が付与されるとあるので、さらに都合が良い。


 そして今回は失敗は許されない。


 吾輩はスキルポイントを使い、スキルのレベルを最大にした。


システム『スキル《擬人化》のレベルを上げました(レベル2)』


システム『スキル《擬人化》のレベルを上げました(レベル3)』


システム『スキル《擬人化》のレベルを上げました(レベル4)』


システム『スキル《擬人化》のレベルを上げました(レベル5:MAX)』


 そして次に取るスキルはもちろんこれだろう。



システム『スキル《女体化》を取得しました(レベル1)』


システム『スキル《女体化》のレベルを上げました(レベル2)』


システム『スキル《女体化》のレベルを上げました(レベル3)』


システム『スキル《女体化》のレベルを上げました(レベル4)』


システム『スキル《女体化》のレベルを上げました(レベル5:MAX)』



 このスキルがあればどのような競走馬ですらウマのような娘にすることができ、どのような戦艦も戦艦のような娘にすることができるだろう。




(よし、これでゴブリンのおっぱいを揉むぞ……)




 吾輩的にゴブリンのようなもののおっぱいを揉みくだすのは大変に精神が病む。


 汚らしいゴブリンとは、そこらの汚ならしいおっさんと同じだ。


 いったい誰が好んで、そこらの汚ならしいおっさんのおっぱいを揉みたいなどと思うのだろうか。


「キュィィ」


 吾輩は心を鬼にしてゴブリンのおっぱいを揉んだ。


 もみもみもみ……


 ゴブリンのおっぱいを揉みくだしながらしばらくすると、ピーン。という愉快な音が響く。


 これはレベルアップ音だ。


 システムメニューはものすごい勢いでメッセージを垂れ流している。


システム『初ょぅι゛ょおっぱい揉みくだし特典:1、000の経験点を獲得しました。』


システム『初処女おっぱい揉みくだし特典:1、000の経験点を獲得しました。』


システム『JOB経験値が一定以上に到達しました。

JOBおっぱい揉みくだし師がレベルアップしました。

現在の残スキルポイントは42です』


システム『JOB経験値が一定以上に到達しました。

JOBおっぱい揉みくだし師がレベルアップしました。

現在の残スキルポイントは46です』





………





 なにかものすごい勢いでレベルがアップしたようだ。


 吾輩は楽しくなっておっぱいを揉みくだしつづけた。


 本領発揮だ。


システム『JOB経験値が一定以上に到達しました。

JOBおっぱい揉みくだし師がレベルアップしました。

現在の残スキルポイントは78です』


システム『JOB経験値が一定以上に到達しました。

JOBおっぱい揉みくだし師がレベルアップしました。

現在の残スキルポイントは82です』



 そんなゴブリンだが、徐々にその身体が変化している。そう、美少女の姿へと――


システム『ゴブリンAは進化しました。ゴブリンAはゴブリン・シャーマンAに進化します。』


システム『ゴブリン・シャーマンAは進化しました。ゴブリンAはゴブリン・ロードAに進化します。』


システム『ゴブリン・ロードAは擬人化しました。ゴブリンの魔人Aに進化します。』


システム『ゴブリンの魔人Aは旧クラスがゴブリン・ロードであるため魔王種SSRの資格を得ました。』


 さすがはスキル《擬人化》のレベル5の威力である。




 なにかとんでもないものが出来上がってしまったような気がする……




システム『ホモ・サピエンスはHENTAIの称号を得ました』



 ……なにか、聞き捨てならない称号も得たようだが。

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