第3話勇者と伝統の剣

 ≪勇者≫≪女騎士≫≪聖女≫という中国料理の満漢全席ようなクラスを引き当てた勇者パーティは、当然のように自国パラチオン王国はおろか周辺各国にもまたたくまに話題となった。


 そんなイベントを見逃すパラチオン王国ではない。


 国王である、ジメチルパラニトロフェニルチオフォスフェイト国王は勇者たち一行をすぐさま王城へと召喚した。


「勇者キリッカート、女騎士セリーヌ、聖女ミーコには男爵位を与える」


「はは、ありがたき幸せ」


 謁見の間でかしづく3人・・は、王の謁見直後の第一声からの発言に表面上は取り繕っているものの、内心では驚き、そして興奮していた。


 周囲の人々からの視線はさまざまである。


 嫉妬、ねたみ、それとも純粋な尊敬か――


 勇者クラスを与えた名の知らぬ神殿も話題となり、すでに再開発の話まででてきているという。


 そんな興奮の中、ジメチルパラニトロフェニルチオフォスフェイト国王は続ける。


「此度は我がパラチオン王国から3人もの有力スキル者、さらには勇者を得ることができるとはまことに愛でたい」


「ありがとうございます」


「さて、おぬしらはいずれも元は男爵家の三男二女であるそうだな。であればまずは学園に通うのはどうかね。もっとも強制はしない。同学年が全員年下となればいろいろと不都合もあろうからな」


 国王は、勇者と女騎士を見ながら学園に通うことを勧めてきた。


 求めることは勇者たちの取り込みを図ることだろう。


 学生生活で将来の貴族社会への繋ぎとしようといったところだろうか。


 勇者は女騎士と聖女の両方に視線を向ける。


 彼女たちはその視線に気づき頬を赤らめた。


「いえ、勇者となったからには、モンスター討伐により少しでも早くレベルを上げようかと――」


「そうか……」


 勇者は考えた。もしも学園に行けば特に独り身・・・である聖女に対して貴族学生からの強力なアプローチをしようと手ぐすね引いているところだろう。


 国王は、勇者が彼女たちに送った意味を考えて――、学園に引き込むのは無理だと判断する。


「ならばパラチオン王国の勇者に我らが至宝の剣を与えよう」


「はは――」


 騎士らしき男が厳重に布で包まれた剣を勇者に手渡した。

 ずっしりとした重みを感じる。


(木剣――?)


「これは?」


「我がパラチオン王国で育った樹齢100年を超える木で作られし、木剣『ひのきの棒』である!」


「はは――。ありがたき幸せ」


 勇者は、『ひのきの棒』という単語にこの国の伝統をあらためて思い出した。


 ――かつて、魔界だけでなく人の世界でもドラゴンが跋扈していたころ、ドラゴンを倒せと試練クエストを与えられた勇者は、国王から最初に『ひのきの棒』を与えられて旅にでたという。


(あぁ、国王はその故事を再現しようというのか――)


 攻撃力としてはたいしたことはないのであろうが、総天然で丹精こもった職人の手により造られし伝説の木剣は、勇者が使った剣として売ればその故事も合わさり大変な額になることは予想は付いた。


 まさに家宝級のシロモノである。

 攻撃力はない。だが権威力は非常に高いしろものだ。


「あぁ、それとな。箪笥たんすも用意したぞ」


「? 箪笥たんすですか?」


 謁見の間にパラチオン国の騎士たちが持ってきたのは、大きな総天然の、金のきり箪笥たんすだ。


「なるほど。故事いわく、ドラゴンの試練クエストを受けた勇者が、しかし貧乏であったため、国王があるカギの掛かっていない箪笥たんすにこっそりお金を隠して勇者に渡したというアレですか――」


「うむ。英雄箪笥たんすだな――。勇者から金を持ち出された箪笥たんすの保有者ともなれば、家格が一ランクはあがろうともいうもの。ぜひ中身を持って行ってもらいたい」


 勇者がその箪笥たんすを開くと光が煌めいた。


 そこには大判小判がざくざくと入っていたのだ――



 そんな感じで勇者たちがJRPGの世界観を満喫する、その一方――


 そんな勇者パーティの中にサピエの姿は、なかった――

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