【2023年編】これからの10年。-後編-

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 2014年5月--

 4人掛けの丸型テーブルに陣取り、各々の近況を話し合っていた。

 専ら、マイの子育て話がメインとなり、旦那が育児に参加してくれない等と言った内容で溢れていた。


「で、トキ達の予定は?」

 身の上話が一区切りを迎え、マイが話題の中心を私達に向けた。

 ほんの近しい人間にしか、不妊治療の話をしていなかったこともあり、と言葉を濁していた。


 チカには全てを話していた。

 お互いが別々の場所でを掴むため、と言えば聞こえはいいが、あのを見に行った日の前後で、ナオの話や結婚までの経緯いきさつを話していた覚えがあった。


「--マイ、新婚さんなんだから、今は二人きりの時間を大切にしてるんだよ。」

 意外にも、助け舟を出してくれたのはチカだった。そしてナオに対し『ね?』と同意を求めるように微笑みかける。


「あ、そうだ。結婚式の時、電報ありがとうな。」

 結婚直後、独身時代から住んでいたアパートが契約更新を迎え、これを機にと中古の戸建を購入した。リフォームや引っ越しに追われ、御礼の連絡をすっかり忘れていた。

 ユキは一度、新居に招いた事があったのだが、二人には引越しの挨拶でハガキを送ったきりで終わっていた。


「そういえばさ、大学の時チカとナオちゃんが似てるって騒がれてた時あったよねぇ。こうして見ると、やっぱり雰囲気似てるかもね。」

 ずっと引っかかっていたのだろう。マイが2人を見比べながら目を細める。


「あ、それ、実は私も思った!それがさぁ、トキの高校時代の彼女も同じ様な雰囲気の人だったらしいのね。」

 意外にもナオが食いついた。


「どゆこと?」

 チカが笑いながら話を促す。

「結婚式にその元カノの旦那さんが来てたんだけど--」

「え、修羅場?!」

 マイが大袈裟に驚いた様に口を開く。


 結婚式--

 確か、二次会の時にヨッシーが子供の写真を見せてくれた。その写真にはが一緒に写っていた。

 高校時代より大人びており、髪型が変わったせいか、一緒に見ていた仲間達からも口々にと冷やかされた覚えがあった。


「へぇ--そんなことが。でも、私は大学でナオちゃんを初めて見掛けた時はとは思わなかったよ--。と言うよりそう思うのは失礼かなぁって---。ただ、トキの表情が柔らかくなってるって感じたから、良い子と出会ったんだなぁ--って。ちょっと妬いてたかも。私より先に恋人作りやがって!って。」

 チカは懐かしむように柔らかな笑みを浮かべる。


「まぁ、アレだ。---たまたま好きになった子がそうだったって話だ。」

 有耶無耶に誤魔化すと、私はタバコを吸うために席を外す。

 私の後を追うように、マイも一本くれと着いて来ていた---。


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 2023年8月12日---

「--そっか、あの時にそんな話をしてたんだな。」

 確か、居心地良いとは言えず、タバコを何本か吸い、割と長時間席を外していた気がする。


「まぁ、トキは居心地悪そうだったもんね。--トキが居ない間、割とが弾んで。妊活の話とか色々話したのよね。--チカちゃん、子供産まれたんだ。良かったね。」

 ナオはチカの写真を見ながらしみじみと話していた。


「で、話は戻るけど、って、どういう事だ?」

 率直に聞いた。


「--んー。チカちゃんじゃないから正解かは分からないよ?--ホラ、18歳くらいじゃん。トキとチカちゃんが付き合ってたのって。」

 ナオは視線を宙に浮かべ、言葉を選びながら話している様子だった。


「多分、なんじゃないかな?」

「--輝いていた?いや、分からん。どゆこと?」


「--だから、気持ちも容姿も全部。一番綺麗な思い出のまま。多分、トキとはそういう思い出なんだよ。あの日、再会した時、隣には自分じゃない女の人を連れてるトキを見て--きちんと気持ちの整理が出来たんじゃない?だから10年間、連絡が無かった。」

 鋭い、と思った。


「---で、そのすがりたくなる気分、私にもあるから分かる。」

 ナオはフフンと鼻を鳴らし、完全なドヤ顔を見せていた。


「--って、お前もそんな時あるんだな。」

「そりゃ、あるよ?20年近くも一緒に居たら無い方がおかしいって。--何て言うか、って安心したいのよね。」

「へえ、そんなもんなのか。」

 私には分からない感覚だった。結婚後、仕事に躍起になっていた。

 とにかく稼ぐ。それだけを目標に休みなく働き続けた結果、一度だけ離婚の危機があった。


 今思うと、私の独りよがりさが原因だったのだが、当時はナオの気持ちを顧みずただ闇雲に働いていた様な気がする。


 結婚して、7年が経とうかとしていた頃。その年はコロナが蔓延し始めていた頃であった。


 世界的に感染が拡大するにつれ、人と人との繋がりが気薄になっていく。

 それは、世の中だけではなく、一家庭に於いてもそうだったと思う。


 それまで朝も昼もなく我武者羅に働いていた会社が、一瞬のうちに開店閉業状態の日々が続いた。


 このままだと会社が危うい。

 そう気付いた時には既に遅く、あれよあれよという間に事業継続が困難になり倒産してしまっていた。


 それまで家を空ける事が多かったのだが、倒産を機に家に居る機会が増えていた。しかし、私達夫婦の距離は既に遠く離れて行ってしまっていたのかも知れない。


 家に居ても、会話は少なく、いたたまれない気持ちを抱えたままハローワークに通う。

 そんな日々が続いていた。


 当時から、妻は業務委託という形でWebデザイン等の仕事を在宅で行っていた。

 間を見て、妊活のために産婦人科も通って居たが、このコロナ禍には気軽に病院へ行くことが出来ないことも不安に感じさせていたのだろう。


 見るからにストレスを溜め込み、日に日に精神的に不安定になっていくのが見てわかる。

 そんな彼女に気の利いた事も言えず、私は職探しに出ていたのだ。


 そんな日々を過ごし、2週間が過ぎた頃だった---。


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