【2013年編】蒼い夜①

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 2003年10月


 その日は10月だというのにも関わらず、夜の冷え込み具合が異常だった。


 5限まで授業を受け、その後は古着屋でアルバイト。ほぼ終電での帰りが当たり前になっていた。

 電車を降りると青黒い空で覆われていた。

 びゅうと吹く風に、今日はもう一枚羽織れる物を持ってくるべきだったと後悔していた。


 地元方面の電車に乗り換えるため、途中の乗り換え駅で下車する。すると、反対側のホームでナオが電車を待っている姿を見掛けた。


 ---あのホームから出てる電車って、ナオん家方面じゃないしどこ行ってんだ?っつか何でここに?


 普段、ナオが使っている電車はこの駅は通らない。ナオの様子もおかしい様に感じ、気になって電話してみた。


「---もしもし。」

 電話に出たナオは半泣き状態だった。


「---ナオ、お前なにやってんの?」

 ナオは私に気付いたらしく号泣しだした。


「---ドギぐんっがえでっっなぐっっ、なっだ----」

 あ、いや分からん。


 仕方なく、ナオ側のホームに行くと、少し落ち着いていた。


 何があった?と訊ねたところ、学校からの帰り、本来乗り換える駅で寝過ごしてしまい、起きたら知らない駅(終点)。引き返すもまた、寝過ごしてしまい知らない駅に到着。かれこれ五時間以上、行ったり来たりさ迷っており、不安になってたところで私の声を聞いて号泣した。

 だいたいこんな感じだった。


「---終電、もう出てるっぽいぞ。お前ん家方面。」

 時刻表を見ると23時20分以降、ナオの地元方面は電車が無かった。


「あー、やってしまったぁー。お母さん達、今日は法事で帰ってるんだった。」

 ナオは愕然とし、膝を折り頭を垂れていた。


「---仕方ない。とりあえず俺ん家来い。そこから車で送るわ。」


 遠慮するナオを半ば無理やり引き連れ、私も終電ギリギリで乗車した。


 母に電話をし、事情を話すと「とりあえず、ご飯あるから帰っておいで」との事だった。

 うちの家族、そういう所が割と緩い。


 駅から家までは、30分程歩く。

 道中、ナオは「こんな時間に---失礼じゃないかな」と心配していた。


 予想に反し、母は「いらっしゃい、とりあえずお腹空いたでしょ」とナオをダイニングへ引っ張って行った。


「いや、母ちゃん。もう送って行かないとかなり遅くなるし。何落ち着かせてんの?」

 部屋から薄手の上着を引っ張り出し、出られる準備をしていたのだが。

 そこに寝ていたはずの父が起きてくる。


「--なんか騒がしいが---ん、お?チカちゃん?久しぶり、ゆっくりしてってな--」

 そういうと、また寝室に戻って行った。父は素でチカだと思っていたらしい。

 まぁ、父には別れた話はしていなかったので仕方ない。


「明日、土曜日だし泊まっていけばいいじゃない。アンタも1階で寝れば良いだけだし。」

 母は料理を温めなおす手を休め無かった。


「いや、でも---」

 ナオが何か言いかけたが

「だって、最近のカップルってそんなもんなんでしょ?」

 母は微笑んでいたが、私も「いや、カップルって訳じゃ---」と声を漏らしていた。


 お互いに意識している雰囲気はあったが、まだどちらからも言い出してはいなかった。


「あら--お母さん、早とちり?まだお友達だったのね----」

 母がそういうと、被せ気味にナオが---

「いや、私を彼女にしてください!あ、ちがう。彼氏になって下さい!あれ?何言ってんだろ。あ、いやっ、付き合って下さい!」

 と、少しテンパり気味に発した。

 何を言ったのか分からず、母と二人して吹いてしまった。


 母はナオの事を一目見た時から気に入っていたらしく、私が寝たあとも私の幼少期の写真を見せたり、ガールズトーク?で盛り上がったと言っていた。


 私の兄弟は、もう独立した七歳上の兄と私の二人兄弟で、母はずっと娘が欲しかったとのこと。初対面の時から随分とナオを可愛がっていた。


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 朝、目が覚めると、母とナオが台所に並んでいた。

 たった一晩で何があったのか。


 女二人でキャッキャと何か話しながら朝食の準備をしていた。


 父は先に起きており、母からチカとは違う子だと説明されていたらしい。

 すんなりと、朝はと呼んでいた。


「ナオちゃん、手際が良いわ。家でもやってるの?」

 母が白米をよそいながら言った。


「私、一人っ子で両親が共働きなので---。昔から土曜日なんかは自分でご飯作ってたので--」

「あら、それじゃあこれからは一人の時はウチに食べおいで。」


 母も娘が出来たようで嬉しそうだった。

 実際、結婚式の時もナオの花嫁姿を見て一番最初に泣いていたのは母だった。

 母の涙につられてナオが泣き出し、ナオのお母さんもつられ泣きするという、ある意味地獄絵図だった。
















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