【2013年編】天を仰ぐ②

 ---2013年8月

「トキ、家から持ってきたCD、流して良い?」

 チカはカーナビを操作し持参したCDを挿入した。


「--これって」

 流れる曲に聴き覚え-いや、これは私達が作った曲だ。


「2曲目が良いんだよね--。--She smiles when see a shooting star reflected on the surface of the water-♪」

 チカは口ずさんでいた。


「何でチカがコレを---?」


「へぇ、綺麗な曲--誰の歌?」

 サユリさんが後部座席から身を乗り出してきた。


 チカは微笑みながら

「いい曲だよね--」

 と、ずっと口ずさんでいた。


「お前、ライブ来てたのか?」

 このCDはライブハウスで手売りでしか販売していなかった。


「どういうこと?」

 サユリさんは理解出来ていない様子だった。

 もちろん、私にも疑問だった。


「---ライブには行って無かったけど、CDはユキちゃんに聴かせて貰ってて、聴いた瞬間に私も欲しい!って。ユキちゃんにお願いしてもう一枚買って来て貰って---」

 確かに、ユキには一枚タダであげたのに、後日もう一枚くれと金を渡された気がする。

 その時は地元の誰かに頼まれたもんだと思っていた。


「え、これトキ君たちの?凄くいいね。」

 サユリさんはチカにもう一度頭から流すよう指示していた。


 車内であの頃の曲を流すと、気持ちまであの頃へと戻る気がした。


 サユリさんの案内で、自然公園の駐車場に到着すると、周りは拓けており面前には夜空が拡がっていた。


「---すっげ」

 私達は暗闇に包まれていた。

 だが、街中で見る星空とは比べ物にならない輝きを放っていた。


「---She smiles when see a shooting star reflected on the surface of the water----♪」

 チカはまだ口ずさんでいる。

 そして---


「この曲って、好きな人と星を眺めた時の思い出?」

「--あぁ、だな。」

「ふーん。そっか。私も星見ながら聴きたかったんだぁ。」

 そう言うと、チカは私に微笑みかける。


「あっ---」

 北東の空を眺めていたサユリさんが声を上げた。


 この日、一番の特大流れ星だった。

 長い尾を引き、星は下方へ向かい落ちていく。


「---トキの結婚がぁー幸せなものになりますようにぃ---!!」

 私の隣でチカは叫んでいた。その声は星に聞かせるかのように、彼女にしては大きめな声だった。

 祈り終えると、彼女は私の方を振り返り微笑んだ。


「---絶対、幸せになるんだよ!」


 ----

 2013年12月


 大安吉日。

 今日は私達の結婚式である。


 あの日から、チカとは連絡を取っていなかった。

 あの日、何故天体観測に行きたがったのかは神のみぞ知る。だが、彼女は私の背中を押すためにあの場所へ連れて行ったのでは無いかと思っている。


 ---過去の気持ちを清算し、新たにゼロの精神状態でこの日を迎えられるように---

 彼女からのはなむけだと私は思っていた。


 式には、アキオを始めマナブ、ヨッシーも来てくれていた。アヤコは今、2人目を身篭みごもっているらしく家で留守番しているとの事。リカはその頃、海外に移住しており先日電話で祝福してくれていた。


 そして、友人代表スピーチはヒデが引き受けてくれ、皆から祝福された結婚式だった。


 高砂に居る私達の所へ友人達が集まって来る。代わるがわる写真を撮り、終始和やかな雰囲気だった。


 司会が祝電を読み上げた際、チカの名前が出て驚いた。

 マイやユキ達と連名での祝電だったが、チカらしいメッセージが込められていた。


 --トキ、結婚おめでとう。いつまでも最高にカッコ良い、奥様思いのイケてる旦那様でいてね!奥様とお幸せに---


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 2023年2月

 ナオとの結婚から10年が経とうとしている。

 私達は変わらず幸せに過ごしている。


 変わらず、だ。


 何も変わっていない。


 家族も2人から増えることもなく、2人きりでの生活にも随分と慣れてきた。


 最近では、目下もっかキャンプや車中泊しながらでの遠距離ドライブ等、二人共通の趣味に休日は時間を割いていた。


 結婚後、様々な治療を行なった。

 腕の良いと評判の医者と聞けば、遠方だろうと訪ねて行ったりしたが、10年の間、私達夫婦は子宝に恵まれなかった。


 覚悟はしていたつもりだったが、治療中のナオはやはり精神的に不安定にもなっていた。

 治療を辞めようと言い出したのは私からだった。

 これ以上、ナオの身体に負担やストレスを感じさせたくなかったからだ。


 この共通の趣味達も、そんなナオを元気づけるつもりで始めたものも多かった。

 私としては、ナオが元気でいてくれればそれで良い。そう思っていた。


 ただ、趣味に没頭していても、私達より後に結婚した知人からの「家族が増えました」と年賀状が届くことには、多少なりとも見るに辛そうな雰囲気は感じていた。




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