【2013年編】天を仰ぐ①

 2013年8月14日21時過ぎ---


 チカから指定されたコンビニに到着し、車を降りた。チカの家から徒歩五分くらいの場所だったので着いたら連絡する---そう伝えていた。


 私が現在住んでいる街は県内第二の都市であり、夜空はいつも明るく白んで見えていた。

 コンビニの駐車場から見える夜空は、ここからでも充分に見えそうだけどなと思わせる程、満天の星空だった。


 ---晴れて良かった。しかし、チカが天体観測が好きだったとは、当時は全く聞いたことも無かったな。


「---遅いよ、トキ。」

 まだ、連絡をしていなかったのだが、コンビニ内に入ると既にチカ達は待っていたようだった。もう一人来る予定だったが、急遽別の用事が出来たとの事で、三人で星を見ることになった。


 相変わらず、チカはな性格なんだなと思った。

 在学中、遠目で見掛けたりすることはあったが、こうして面と向かって話すことは、実に10年ぶりだった。


「---トキ、ちょっと太った?」

 チカが脇腹を突っついてくる。

「そりゃ、もう今年で30歳だし。だいたい昔がガリガリだっただけだって。」

 30歳にしてはまだ、体型は維持しているつもりだった。

「あのガリマッチョ具合が良かったのに---」


 久しく会った

 私達は古くからの友人同士の様に、会話を弾ませていた。


 チカが連れていた友人は、中学からの同級生で帰省時には必ず会う親友だと言う事だった。


「---ホント、何で別れたの?こんなに仲が良いのに---」

 道中の車の中で、チカの友人サユリさんが聞いてきた。


「んー、何と言うか。今思えばすれ違い?ね、トキ。」

 チカは軽く言葉を濁し答えた。


「まぁ、あの時に別れたからこそ、今は仲良く出来てんのかもな。お互い、いい人にも巡り会えてる訳だし。---あ、ごめん。サユリさん、高原ってこっちの道で合ってる?」


 土地勘が無かったので、サユリさんにナビをお願いしていた。これから行く場所は車のナビでは検索も出来ない程、辺鄙な場所らしい。


「---でもさ、お前、俺の話は良く聞いてくるクセに、自分の話は全くしないよな。」

「だって、恥ずかしいじゃん。」

 窓の外を見ながらチカは言った。


「あー、じゃあサユリさん。チカって昔からこんな奴なの?」

 私は話題を振るターゲットを変えた。


「こんな奴って、何さ!サユリ、何も言わなくていいからね!」


 こんな二人の会話を聞きながら、サユリさんが話し出した。


「---トキ君のことは、当時から毎日聞いてたんだ。---うん、やっぱりいい人だったんだね。あの頃、色々誤解があったんじゃないかって私は思ってた。」

「ん?どゆことっすか?」

「ちょ、サユリ---」

「まぁ、いいじゃん。もう昔の話だし。---トキ君、チカはずっと好きだったみたいよ。私達が『付き合えばいいじゃん』っていう人でも結局、友達以上にはならなかったし。それだけチカが想ってる人だったら悪い人とは思えなかったもの。」


「うー、裏切り者め---」

「何っつーか、照れるな。まぁ、しかし、アレだ。チカも良い人と結婚出来て良かったな。俺以外、チカを上手く手懐けられる人間は居ねぇって思ってたから安心したよ。」

 軽く冗談も挟めるくらい、私達は今までの時間を埋めるかのように親しみを込め合っていた。

「あたしゃ、犬か!」

 チカは不貞腐れていた。


 ---

 2004年11月


 ヒデがアレンジしてきたあの曲がようやく、バンドとして演奏しても形になって来た。

 ただ、歌詞はまだ仮歌かりうた状態ではあった。


「トキ、作詞はお前がやれよ。原曲もお前が作ったんだし、その時に思ってた事とかあるだろ。」

 ヒデはアンプのスイッチを切り、撤収作業をしていた。


 歌詞。書いたこと無いし、何かずかしいし。ヒデに丸投げしようと思っていたが、ヒデ自身がそれを許さなかった。


「---分かった。書くけどダメ出しはやめてくれよ。」


 実は、この曲を書いたのはあのBBQの日だった。


 海辺で見上げた夜空。

 放射線状に流れる流星。

 夏の暑い夜と海から吹く潮を含んだ風。

 ふと横を見ると傍らで微笑み返してくれる女の子。


 あの時の光景が、脳裏に残っていた。

 家に帰ってすぐ、ギターを引き鳴らし脳裏に浮かぶ映像に音を紡ぐ。

 インスピレーションってこうして沸くのかと、無心にギターを弾いていた。


「The star over the sea」---

 私が書いた最初で最後の曲だった。

 歌詞は照れくささを隠す為に、全英語詞で書き上げていた。しかし、私を知ってる人間からするとナオへのラブソングだと解るだろうな。


 この曲を含む全5曲入のオリジナルマキシシングルを自主製作でプレスし、製作分500枚は時間を掛けてだが、完売はしていた。

 また、ライブにおいても定番曲となり私達の代表曲としても扱われていた。


 このまま、音楽への道へ---と意気込んで居たのはこれまでで、2006年の年始にドラムのヒロシが不慮の事故により他界。

 私達のバンドはヒロシの死去と共に自然消滅していった。






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