【2013年編】跳動③
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2004年10月
いつものように、学生ホール外でタバコを吸いながらマイと話していた。
お互い、次の授業まで空きがあったことで暇つぶしという感じだった。
そんな時だった。
学生ホールから一見派手な一人の女学生が出て来て、こちらに向かって来た。始めはマイの友達かと思っていたが、彼女はマイを
「---アンタさ、まだチカの事、未練がましく想ってんの?---この間一緒に居た子、チカの代わり?」
---何コイツ?何を急に。
「ちょ、ユカ!アンタいくら何でも失礼じゃない!?」
マイが
ユカと呼ばれた彼女は、「ふん」と息を鳴らし、それだけ言うと立ち去って行った。
「何だアイツ?意味分かんねぇ。」
私は咥えたばかりだったタバコを灰皿に押し潰した。
「--あー、トキにはすっごい言い難いんだけどさ。前にナオちゃんが来てたとき、割と色んな人に見られてたみたいなのよ。---もちろん、---チカにも。」
「へぇ。それで?」
不思議と動揺はしていなかった。
「何か、ほら。言い難いんだけど、ナオちゃん、雰囲気がチカに似てるじゃん?---で、チカの周りの子達が騒いじゃってんの。ホントくだらない。--しっかし、ユカの奴、前にトキに振られたからって八つ当たりも良いとこだわ。」
「---ん?待て、全く覚えてないぞ。多分初めて見た気がするし。」
「あー、そんなんだから要らない恨み買うんだって!」
マイの話を要約すると、ユカという女学生は、私がまだチカと付き合っていた頃に告白して来ていたらしい。通りで覚えていないはずだ。
割と裕福な家庭育ちらしく、気が強くプライドが高い。マイは彼女を「女帝」と呼んでいた。
そんな女帝様にターゲティングされ、チカはこの一年程、彼女に振り回されている--との話だった。
「---へぇ、女ってめんどくさいな。」
「そうなのよ。だから私はアンタとこうしてタバコ吸ってるくらいがちょうど良い。」
「間違いねぇ。」
「トキせーんぱーい!」
向こうから、一学年下で中学時代の後輩でもあったユキが駆けてくる。
「---おぉ、ユキ。」
「あ、マイさんも、こんにちは。」
ユキも最近、この場所の馴染みになっていた。人懐っこい性格な為、マイからも可愛がられていた。
「あ、先輩。先輩の元カノってチカ先輩なんっすねー。先週、サークルの飲み会に初めて参加したんですけど、その時に色々恋バナしてて---まさかチカ先輩がトキ先輩の元カノだったって初めて知りましたよ!」
ユキはケラケラと笑う。
「お前、チカと同じサークルだったのか?」
初めて知った。
「そっすよ。チカ先輩は『トキは元気?』ってケロッとしてる感じだったんすけど、ボス--あ、ユカ先輩がトキ先輩の女性遍歴とか色々根掘り葉掘り聞いて来て面倒くさかったっす。」
---お前か、犯人は!
マイと顔を合わせ、吹き出していた。
まぁ、ユキには悪気が無いから責めることはなかった。
もちろん、ユキはナオの事を知っている。
ユキはおそらく、私とナオは上手くやってる、理想的な二人だと言いたかったらしいが酒も入っていた為上手く伝わったか不明だったらしい。
そうこうしていると、次の授業開始時刻が迫っていた。
マイとユキも同じ授業を履修しており、これから教室へ向かうため、腰を上げた。
「おろ?トキまだ行かないの?」
マイがタバコを消しながら尋ねた。
「あぁ、いや。ヒデも同じ授業のはずなんだけど、まだ来てないみたいだから、ちょっとここで待ってるわ。先行って席の確保だけ頼む。」
マイは片手を挙げ、ユキと教室へと向かって行った。
『喫煙所で待ってる。』
ヒデにメールだけ飛ばした。
すると即座に電話が鳴った。
「---悪ぃ。寝坊した。今駅に着いたからもうすぐ着く。---トキ、今一人か?」
「--あぁ、一人。どうした?」
「直ぐに聴かせたい曲がある--。授業行く前に5分くらい付き合えるか?」
「---分かった。」
ヒデは、到着するなり一枚のMDを私に渡した。
プレイヤーに挿入し、一曲しか入っていないMDを回す。
「----!何だこれ。ところどころ聴き覚えはある気がするけど、コレ、作ったのか?」
聴いた瞬間、今まで聴いたあらゆる曲よりも自分たちらしい素晴らしい曲だと感じた。
ヒデの適当な歌詞の仮歌も、儚くとも感じ、幽玄な世界観を醸し出していた。
「あぁ、昨日から徹夜で仕上げた。昔、お前が初めて作って来た曲。あの時は単調で稚拙なメロディだと思ってたけど---昨日ふと聴き返したらアイディアが浮かんでアレンジを加えてみた。」
「---なんだよ、めちゃくちゃカッケーし。これ、いいな。」
「--だろ?次のライブまでに仕上げるぞ。」
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