【2013年編】跳動②

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 2013年8月14日


 この日は朝から墓参りに行っていた。

 昼過ぎに自宅へ戻ると、既にナオが来ていた。結婚式の件で話し合う約束をしていたのだ。


 ナオにはチカとの約束について、特に話すつもりは無かったのだが、ふとしたきっかけでバレてしまっていた。


 事の次第を全て話したところ、複数人で天体観測にいくこと、特段 やましい事もないため、LINEの履歴等を見せるとナオは特に何も言わなかった。


「--何かいいなぁ。その子。私の知らないトキを知ってるんだ---ちょっとだけジェラだわ。」

 ナオはウェディングドレスのパンフレットを眺めながらつぶやいた。


 チカからは21時に家の近くのセブンイレブンで他2名の友達と待ってるとLINEが来ていた。


「---チカちゃんから?」

「あぁ、もう他の人らとは合流してるから21時に近くのセブンで---だって。」


 壁に掛けている時計を見上げた。

 19時か---社会人になって引っ越した事もあり、チカの地元までは車で1時間と少しかかる計算だった。

 しかも、10年以上前に行ったきりだったので、道に自信が無かった。


 ナオはキッチンから紙袋を持ってきた。


「---はい。コレ。持ってって。」

「何これ?」

「午前中、暇だったからパウンドケーキ焼いてたの。トキ、甘い物嫌いでしょ?余っても勿体ないからさ。---それに、女の子達に気が利く男って思わせたいじゃん。」


 ナオは見た目に反し、どこか男前な性格を持っていた。

 付き合い始めの頃は、穏やかな優しい子---と思っていたが、多少の事では動じない、ある意味肝が据わったと言った方が適切な気がする。


 社会人になったばかりの頃、先輩からキャバクラに誘われ、彼女が居るからと断って帰った事があった。それに対し、ナオは「先輩から誘われてるのに行かないなんて社会人失格だ」と、逆に啖呵たんかをきったこともあった。


 また、5年ほど前に生死の境を彷徨う程の大きな事故に逢った。

 後遺症が残り左半身が動きにくくなり、更に長期の入院、リハビリ期間が約1年半と連なったが為に、新卒から在籍していた職を失った。その際も「例え身体が動かなくなったとしても構わない。私が働くから」と勇気付けてくれたのも彼女だった。


 だが、一度だけ別れの危機もあった。

 1年前、職場での健康診断で女性特有の病状で引っ掛かり、検査や治療を行なった結果、子供が出来る可能性が10%に満たないと医師から告知された。


 彼女は別れを選択していた。


 泣きながら謝る彼女に、私はその場でプロポーズをした。自分が瀕死の時にずっと傍に居てくれた彼女をそんな理由で離すことは出来なかった。


 ---俺は、いつ産まれるか分からない子供より、お前と結婚したいんだ


 訳が分からないまま、意味の分からない言葉でプロポーズしていたが、彼女は泣きじゃくっていた。

 嬉し涙なのか、何なのかはその時は分からなかったが、あの日を境に私たちはより、お互いを気遣える良い関係になったと思う。


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 2004年9月---


 三年に進級し、単位を順調に取得出来ていたため、授業数も減ってきていた。

 平日のほとんどが、昼からということもあったが、平日は週に3日と土曜日に1時限だけという状況もあり定期代が勿体ないと感じていた為、大学へは車で通っていた。


 この日は、ナオの学校は創立記念日で休みとなり、私の大学に遊びに来ることとなっていた。私たちが付き合い始めて一年近くが経っていた。


 一年近く--と、濁した理由はハッキリと「今日から付き合いましょう」と言うような、所謂いわゆる、記念日は無かった。

 気が付けば常に一緒にいて、居ないと落ち着かない。そんな関係から始まっていた。


 この時期より少し前から、ヒデも含めナオと3人で遊ぶことも多くなっており、この日も学校帰りに3人で、街へと買い物に出掛ける予定だった。


 学生ホール外の喫煙所には、先客がいた。

「おぉ-トキ。おや、今日はナオちゃんも一緒かい」

 マイがタバコを吸いながらナオに絡みだす。


 以前、街でナオと二人で歩いていた際にたまたま出くわし、流れで一緒にランチしたことがあった。

 何故か意気投合し連絡先を交換しており、割と頻繁に連絡し合っていたようだった。


 マイ曰くとのことで会うなりナオにハグをしていた。


「んー。ナオちゃんサイズの抱き枕欲しいわ。」

「馬鹿なこと言うな、離せ。」

「トキも抱きついてみな?気持ちいいから。」

 ナオはだいたい、成されるがままだった。


「それより---聞いた?就活の話。ガイダンス出席してた?」

 その頃は誰と会っても就活の話ばかりだった。就職氷河期真っ只中、三年の夏から就活を始める。この頃は一般的な話だった。


 ナオは既に地元にある中規模のデザイン事務所での内々定を取っていた。元々、商用デザインや広告デザイン等に興味があり、的を絞って早々と就活していた。


 私はと言うと---

 地元の企業優先で探していた。

 地元を離れるとナオとも離れてしまう。

 しかし、私たちの学部卒者は営業職、若しくは事務職系への就職者が多く、よっぽどの大手でなければまだ企業側も採用要件を出していない事が多かった。


「---何か、就活、就活で毎日つまんないよねぇ」

 マイは気だるそうに煙と一緒に吐いた。


 2023年現在

 マイは結局、社会人2年間を親父さんのコネで地元企業の事務職として働いていた。

 そこで知り合った先輩社員との間に子供が出来、寿退社---。現在は3人の子を持つママになっている。専業主婦として家計と戦っている---らしい。







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