【2013年編】芽①
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「で、そのチカちゃんと別れて今に至る---かぁ。」
マナブはため息混じりに言った。
「でもさ---」
口を開いたのはアヤコだった。
「トキ君って優しすぎるんだよ。良くも悪くも。私も、確かに引き
そこに居た全員が黙ったまま私を見ていた。
「---別にそういう訳じゃないし!つか、アヤコはどうなんだよ?ヨッシーと。別れたとかだったら、マジで俺、振られ損だし。」
照れ隠しのつもりだったが、彼等が二度と別れることは無いと理解していた。
ヨッシーが元親友の気持ちを踏みにじるような奴じゃない。
私はそう思っていた。
「うん。なんかもう、家族みたいな感じかな?向こうじゃだいたい、どちらかの家に居るし---実は今日も来るんだよ。ここ。お墓参りが終わったら来るって言ってたから多分、もうそろそろ---」
河川敷を降りてくる一台の軽自動車に向かってアヤコが手を振りながら駆け寄って行った。
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BBQを終え、私はアキオの家にいた。
一通り片付け終わり、マナブも後程合流予定だった。
「トキさ、もうそろそろマジで吹っ切っていいんじゃね?」
アキオは冷蔵庫から取り出して来た缶ビールを手渡しながら言った。
「吹っ切るも何も--こういうのってタイミングだろ?しかし--ヨッシーとアヤコがまだ続いてて良かったな。」
小さな満足感を感じていた。
過去とは言え、好きだった人。親友だった人。彼等の話を聞いて、少なからず幸福感があった。
「---その、タイミングの話なんだけどさ。俺の学部の子が、マジでお前の事を一目惚れしたらしく紹介してくれって言ってんのね。」
「いや、いいよ。ナンパと変わんないし、それ。」
「全然違う!上手く行けば、君も僕も可愛い彼女が出来るかもーな、素晴らしい計画なのだ!」
アキオはビールを掲げ、雄叫びをあげた。
「な、頼むよ。ホラ、前に話したあの---俺が狙ってる子からの依頼なのよ。マジでお願い!」
---あぁ、あの語学教室の隣の子か。
私はすぐに理解をし、アキオに
「分かった。考えとく。」
とだけ伝えた。
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2002年11月
アヤコ達と再会し1ヶ月以上が経っていた。
その頃は自身の大学へ通い始めていた。
いつも通り、私は学生ホール外の喫煙所で一人タバコを吸っていた。
この頃は、極力一人でいる事が多かった気がする。
地元に戻れば、親友と呼べる奴らがいる。それだけで充分だ---無論、ナンパも飽きてきており、アキオとも週末に時間が合えば会う程度に落ち着いていた。
「トキ---元気かぁー?ちょっと、タバコ一本頂戴。」
ゼミで一緒だったマイが声を掛けてくる。
マイは唯一、良い意味で女ということで気を遣わなくて良い相手だった。
「お前さ、タバコは良いけど、その格好---座ったらパンツ見えてっぞ。」
マイが咥えたタバコに火をつけてあげながら、私は呆れ気味に言う。
毎朝のルーティン化した会話だった。
「ははっ。見えた?何色?」
煙を吐きながらマイは言う。
「ピンク。っつーことは、勝負下着か---」
マイは破天荒な一面があった。
下着が見えてようが、「別に減るもんじゃないし」と気にしない女だった。
「ってかさ、最近チカちゃんと話した?」
唐突に出た名前に、動揺を隠せない。
「いや、別れた後は一度も話してないけど。」
「ふーん。そっかぁ。」
「チカがどうした?」
別れたとは言え、やはり過敏に反応してしまう。
それを知ってか知らずか、マイは続ける。
「まぁ、私から聞いたって事はオフレコで---マイさ、気になって本人に聞いちゃったのね。こないだ飲み会で。」
いつの間に、マイはチカと飲みに行く程の仲になっていたのか。
自分が学校に来ていなかった間に、周りの環境も変化していたようだ。
「なにを。」
平静を装ってはいたものの、やはり声は上ずっていた。
「いや、ほら、チカちゃんってやっぱ男から見たら可愛らしい、守ってあげたいってなるタイプじゃん。色んな人から告白されてるみたいだけど、全部断ってるみたいなのよね。ガードが固いって言うか。」
「---へぇ。いや、よく男と一緒にいるじゃん。アレ彼氏だろ?」
「まだ彼氏じゃないと思うよ。私もよく分かんないけど、相手かチカちゃんか、どちらかが一方的に好きーみたいな?---で、それもあって聞いたの。実はまだトキの事気になってたりするー?って」
「馬鹿な。ねぇよ。」
タバコを吸い終わったので、半ば強引に離席した。「じゃあな」とだけマイに伝え、次の授業へと移動した。
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