【2013年編】兆②

 ---次の日


 アキオに電話をかける。

 前日、アキオから連絡すると聞いていたが、約束の時間まであと30分というのに音沙汰おとさた無かったからだ。


 大方、先日のクラス会で飲みすぎたのだろう。

 電話に出たアキオは、さも寝起きである雰囲気だった。


「---おい、あと30分だぞ。俺たち、飲み物調達を頼まれてんだぞ。それに、お前が行かないと火が起きないだろ!」

 アキオは親父さんから、携帯用のガスバーナーを借りてくる事になっていたので、火起こしはアキオ頼みだった。


「んぁー。すまん。今から用意して出るわ---。」

 アキオのこの様子じゃ、ドリンクを買って何やかんやしていたらゆうに30分はオーバーしそうだった。


「あー、分かった。じゃあ、とりあえずH小学校前のスーパーに来てくれ。俺、先に飲み物買っとくから。」

 当初の予定では、アキオが私を迎えに来た上で、近くのスーパーで買い物をして河原へ向かう予定だった。

 仕方なく、予定を変更し先に買い物を済まし、スーパーで合流することとなった。


 --------


 河原へは、やはり15分遅れで到着した。

 他のメンバーは到着し、BBQの準備が始まっていた。


「遅ぇーよ!」

 今回の主催者でもあり、地元の仲間ではいつもリーダー格だったマナブが手を振りながら言った。


「マナ、悪ぃ。アキオが寝坊してさ---。」


「アンタ達、相変わらずだね。いつも一緒---。」

 幼なじみのリカだ。


 勝気で男勝りな性格で、小学校低学年の頃から一緒に悪さしていた悪友でもあった。


 リカとは、何でも話せるだと思っていたが、それは私の勝手な思い込だったらしい。


 私が、二度もアヤコに告白したのはリカのお陰でもあった。

 リカとアヤコは、小学校からずっと仲が良かった。そして、アヤコの事を相談していた唯一の異性でもあった。


 そんな中、高校3年の夏休み。

 リカから地元の花火大会に誘われた。

 てっきり、他のメンバーも居ると思っていが、待ち合わせ場所には浴衣をまとい、いつもと雰囲気が違うリカしか居なかった。


 ---まぁ、リカも一応女の子だしな。


 なんて特に気にも止めて居なかった。

 ただ。

 二人で、という事に若干の違和感を感じていたが---。


 祭のあと、リカから告白された。

 もちろん、アヤコの事が好きだと言うことをリカは知っていた。

 高校を卒業すると、リカは地元を離れ遠方の専門学校に進学するつもりで居た。これから先、気軽に会えなくなる---これが告白の理由だった。


 リカは付き合って欲しいとは言わなかった。

 答えは分かってる。

 気持ちだけ聞いて欲しい。

 そう言うと、リカは満面笑みを向けこう言った。


「アンタもさ、後悔しないようにちゃんと気持ちを伝えなよ---?」

 リカに背中を押され、私はその夜のうちにリカが見守る中アヤコに告白し、付き合うことになった。


 あの日のことは、20年以上経った今でも明確に覚えている。

 余談だが、リカは現在、夢だったイルカショーのインストラクターとして働いた後、外国の方と結婚したらしい。

 その後、ご主人と一緒にイルカやクジラなど、海洋生物保護団体に所属しながら世界中を飛び回っていると聞いている。


 ---

「あ、トキ君。昨日ぶりー。」

 ドリンクを車から降ろしていると、後ろから声を掛けられた。


 アヤコだった。


「あれ?お前ら、もう普通な感じ?」

 私達が話していると、マナブが残念そうに入ってきた。


 どうやら、アヤコが来ることは私には内緒だったらしい。

 アヤコにも、私が来ることは伝えて居なかったらしく、所謂いわゆるサプライズ演出は失敗に終わっていた。


「なんかさ、トキ変わったなぁ。」

 肉を焼きながらマナブが言う。

 マナブとは高校は別だったが、毎年初詣やクリスマス、花火大会等は一緒に過ごしていた。


 マナブ、アキオ、私。

 高校時代、ほぼ毎日駅前のモスバーガーでたむろしていた仲間だった。


「そうか?」

 あまり、しっくり来ていなかった。


「何っつーか、お前、高校時代までカッコイイより可愛いって感じのタイプだったよなぁ?妙にピュアで。」


「何だよそれ。気持ち悪いわ!」


「なんか、今は無理してそうに見えるんだよなぁ。」


 マナブは鋭い。

 仲間内で、一番男気があり仲間思いの、産まれながらのリーダー気質。そんな男だった。

 マナブは大学を卒業した後、警視庁に入庁した。今では要人警護等を担当しているらしい。なかなか、地元に帰って来れなくなっている現在、自然と連絡の頻度も減ってしまっている。


「あ、それ、私も思った。」

 不意にアヤコが口を挟む。更に---


「だって、高校時代はトキ君、手も繋いでくれないし、告白してくれた時以外、『好き』って言ってくれ無かったし。何より、目を見て話してくれ無かったよね?今はなんか---余裕がある感じ?」


 そうだった。

 アヤコとはきちんと目を見て話すことが出来なかった。

 好きだったから---と言えばいいのか。

 彼女の目を見ると、照れるというか、緊張から言葉に詰まる事が多々あった。


「やっぱ---そう思う?最近のトキ、かなり無理してるよなぁー。ナンパとかがらじゃねぇのに。」

 アキオだった。


「ナンパ?どういう事?」

 リカが食い付いてきた。


 BBQを楽しみながら、ここ最近の私達のことをアキオが話す。

 チカの話はアキオにも詳しく話して無かったので、メインはナンパの話ばかりだった---。


「でもよ、ナンパしてもその場で話すだけで、すぐに逃げるよな。お前。まぁ、俺は女の子が寄って来るから良いけど。---そういや、昨日よ。こいつ、スカウトされてんのに断ってんの。勿体ない。」

 アキオは肉を頬張り、コーラで流し込んだ。


「アキオはともかく---トキまでチャラくなったら嫌だわ。」

 マナブが笑いながら、私の紙皿に肉を運んだ。


「---で?何があった?もう話してもいいだろ。」

 アキオは分かっていたんだと思う。

 ただ、アキオ自身がどう聞き出すべきか分からない状態だったらしく、この会をマナブに開かせた。

 大方、そのような所だろう。


「あぁ。じゃあ---」

 私は、アヤコと別れた後、チカとの出会い。

 今までのこと、これまでのことを皆に話した。

















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