【2013年編】焦燥③


 2013年5月


「うん。近付いたよ---。」

 彼女は私を試しているのか。

 目的も、何も分からなかった。


 もしかしたら、私が年内に結婚すると何処からか聞きつけ、ののしりたかったのか。

 もし、そうだとしても。いや、そうだったとしたらどれだけ気が楽だったか。


 ハッキリと等と罵倒ばとうされた方が気持ちに踏ん切りがついたはずなのだ。


 ---分からない。

 これ以上の事は思い出せない。


「じゃあ、質問を変えます。---別れた後も、?」

 彼女は試すかのように問うた。


「---どういうことだ?そりゃあ、色々考えたよ。寄りを戻したいとも思ってたけど---。何より、あの時はチカの姿を見ると辛かった。あの笑顔がもう俺に向けられねぇって理解してたし、俺と別れた後、知らない男と一緒にいる所も見ていたし。」


 素直に悔しかった。


 自分で言うのもおかしな話だが、彼女がよく一緒に居た男子学生は、タイプ的に私に近い姿だった。


 背が高く、細身。パーマヘアー。顔が似ている訳じゃ無かった。

 しかし、彼女の好みとする系統は全てクリアしていた。


 ---あぁ、あれがチカの新しい彼氏か。


 そう理解した時から私は壊れ始めていた。

 そうと知ってか、知らずか彼女は続けた。


「残念。その人、ただの友達だよ。私の周りの子達も皆彼氏が出来て、一人ぼっちになってたの。その時に可愛がってくれてた先輩だよ。」


「---は?じゃあ。俺は何を---」

 ライバル視していたのだろう。


「ずっと、卒業して社会人になるまで彼氏はいなかったよ。」

 彼女は少し寂しそうに話した。


 そして---


「ねえ、覚えてない?あの時---。トキ、私の事を嫌いになっただとか、それ以外も文句を言ってたでしょう?」


 ---待て。何のことだ?

 俺が、チカを?

 いや、絶対に、ない。


「友達から聞いたのね。それ聞いて、落胆らくたんした直後、トキの悪い噂ばかり聞くし。結局誰でも良かったのかって。身体目的だったのかって---思ってた。」


 違う。

 ちがう。

 チガウ。


 私は本気で彼女とやり直したかった。

 もし、恋人としては無理だとしても、普通に話せる間柄あいだがらには戻りたかった。


 そのため、共通の友人に相談したこともあった。その友人等からは相当嫌われてるみたいだから諦めた方がいい、と言われていた。


 今思えば、彼女を狙っていた男だった。

 今思えば、後から告白してきた女だった。


 もう、意味が解らなくなり叫んでいた。


「そんなこと!ある訳ねぇだろ!!俺はずっと好きだった。変に伝わってたかもしれねぇ。俺がお前に直に嫌いって言ったかよ?---むしろ言ってくれよ---あんたなんか嫌いだったってよ。」


「---ありがとう。私もね、トキから嫌いだって直接言われたかった。そしたらきっと楽だったから。」

 もう、哀しくは無いのだろう。彼女は明るい声で、吹っ切れたように話した。


 彼女の話では、私のあの日の行動は、今後の在り方を考えるきっかけに繋がっただけでしか無かったとのこと。彼女として求められていることは素直に嬉しかったが、まだお互いを深く知らなかった事もあり躊躇ちゅうちょしたと---。


 そんな折に、友人から私が彼女の文句を言っている現場を見たとの話を聞き、距離を置く事を告げた。

 しかし、今思えば、その友人は私の顔を見た事が無い人だったらしく、冷静に考えれば人違いだった可能性が高いと彼女は言っていた。

 それ以降、私の周りには取り巻きが増え、段々と取っ付き難い雰囲気に見えていた---と。


 もっと早く勇気を出していたら。

 素直になれていたら。


 誰も傷つかないがあったのかもしれない。遊び感覚で流した仮初かりそめの恋人達も存在しなかった。


 私は、大きな過ちを犯していたと初めて気が付いた。


「---でさ。どうやって立ち直ったの?」

 彼女が不意に聞いてきた。


「ん?何が?」


「だってホラ。私のこと、引き摺ってたんでしょ?その辺聞いておきたいな。」


 ---なんだよ。恋バナか。


 友人と、恋バナに興じる。興味津々な様子で彼女は聞いてきた。


「あー、長くなるよ。」


「うん、いいよ。聞かせて。」


「---どこから話そうか、、、。」















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