62.【神刃/三明ノ剣】 -2
「壱号さんへのマナ供給を抑制。自己修復速度を低減し敵の攻撃を誘導するです。動きも『疲れたー』って感じで。そうですそうです」
領主軍を足止めするゴーレムは大型三体に中型四体。樹上からそれらを操るアンジェリーナは戦場をじっと見つめながら、目まぐるしく変わる戦況へと対応している。
「修復時には敵の武装を吸収し戦力削減。弐号さんは参号さんと敵火砲の背後を脅かして弾薬の守備に人員を割かせるです。肆号から漆号は……むぐぐ」
アンジェリーナはあくまで学者。戦働きは畑違いである。その場その場の判断が的確であるためにゴーレムに不慣れな敵を翻弄してはいるが疲労の色は濃い。
「死なせないのは難しいなんて思ってたですが、
押せば引き、引けば押してくる。いくらかの損害を与えて足踏みさせようとしても、大振りの一撃は全て空を切ってまるで手応えがない。『指揮』というアンジェリーナにとって未知の力が大きく立ちはだかっていた。
「足元をゆるくされて【跳躍】も封じられてるですし……。指揮してるのは一体何者で……な、なんです、あれ?」
互いに決定打に欠け、膠着状態にあった戦場。その南方で不意に立ち上がった土柱に全員の意識は奪われた。
大型ゴーレムの背丈を遥かに超える巨大な土埃は大砲などでは決してありえない。戦場は一時的に混乱状態へと陥っている。その方角にあるものを知るのはアンジェリーナのみ。
「……【
アンジェリーナの頬を一筋の汗が伝った。万が一にもないとは思うが、勝負は水物ともいう。もしものことがあれば里を守るのは彼女のゴーレムをおいて他にない。
「皆、踏ん張るですよ」
両手に意識を集中しゴーレムに指示を飛ばす。その視界の隅を、何かが横切った。
「……です?」
◆◆◆
「【空間跳躍】、起動」
「あ、ちょっと、ワタシの腕だけでも治してから――」
ゲランが何か言いかけていたが、俺とシズク、アルトラの三人はキヌイから戦場へと一足に転移した。矢と砲弾と怒声が飛び交う中、俺たちの姿を認めたゴーレムたちが一斉に崩れ落ちる。アンジェリーナの「助かったです……」という声が聞こえた気がした。
「よくやったアンジェリーナ。あとで甘いものでも差し入れてやる」
「マージ、指示を」
アルトラを引き連れ、俺の後ろに控えるシズクへの指示はひとつ。
「ついてこい」
シズクを従え、歩みだす。敵軍の目が一斉にこちらに注がれた。
「敵……?」
「敵だ!」
「敵襲! 報告にあったマージ=シウだ!」
ゴーレムを倒したと思ったか、勢いづいた敵は一斉にこちらへ押し寄せる。統率の取れた動きで見定める標的は先頭を往く
狼人族の長たる証として預かった宝刀に手をかける。鯉口を切るとちゃきりと小気味良い音がし、白刃が覗いた。そんな俺の背中に末尾のアルトラがぼそりと呟く。
「は、はは……相手は軍、軍隊だぜ……? 殺されちまえ……!」
返答はしない。事実として見せれば十分だ。自分が、自分のスキルがどこまで到達できたはずだったか、その目に焼き付けることになるだろう。
最後の一歩を踏み込むと同時、無数の剣槍が殺到した。
「――【神刃/三明ノ剣】」
抜き放つ。陽光を浴びた白刃が煌めくと同時、数多の刃は俺をすり抜けるように虚空を切った。その全てが半ばで切り落とされ、ガシャガシャと音を立てて地面へと落下する。
「ぶ、武器が!?」
「なんだ!? すり抜けたように見えたぞ!?」
すり抜けたわけじゃない。鉄の刃は人間の身体をすり抜けない。
「
一つ目の効果を確かめ、俺は宝刀を天に掲げた。
【神刃/三明ノ剣】の効果はあと二つ。これが有用なものであれば、【
「――来い」
喚ぶ。それに応えて空に満ちるは白銀色の光。星の如く輝くそれは、しかしひとつひとつが刀の姿をかたどってゆく。
天を光の刃が埋め尽くした。
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