46.無限水源
「ヴリトラの卵を『蒼のさいはて』最奥に設置し、新たな『王』とした。この里は白の龍と、そしてダンジョンとともに生きる」
ダンジョンが成熟しきると『
「問題はヴリトラが人間と共存する意思を持てるかだが……。もし不可なら俺が責任を持ってダンジョンを再攻略する」
そうなるとしても数年は後の話だ。それだけダンジョンが長持ちするなら、探させた資源も機能するはず。俺は報告を聞くべく捕虜の剣士に向き直った。
「それで、探させたものはどうなった?」
「見つけましたとも。これが見本であります」
ちなみに彼の名はベルマンという。脱走前のメロに聞いたところでは『騎士かぶれな人』。
亜人の里に住まわせるには少々危険な思想だが……。仲間だったメロが寿命を犠牲にして自分たちを蘇らせたと知ってからは、彼女の意思を完遂すると言って日々ダンジョンを駆け回っている。
そんなベルマンたちから受け取った壺には透明な液体が満たされていた。
「アサギ、これをどう思う?」
「これは……水、ですな。質は里の水源とさほど変わらぬ様子」
資源とは『水』だ。
第四層の湖でコエさんが確かめた水質は良好だった。それと同等のものが第一層にもないか探させたところ、入口からさほど遠くない場所に見つかったという。水質が里の水と変わらないのもありがたい。
「なぜ水を? 麦畑を作れる程度の水であればすでにありますが」
「
「おそらくですが、麦が育つために必要なものが土から吸いつくされたのでございましょう」
同じ作物を同じ畑で作り続けると、育ちが悪くなったり病気になったりすることがある。これを『連作障害』と呼ぶ。
そこまでは分かったのですが、とアサギたちは表情を暗くする。
「他の作物を作るなどして工夫をしても、土の寿命は延びて数年。休耕地を作る余裕もない里では限界がありました」
「……教えてくれる者もいない中で、よくそこまで」
「生き残るためですので」
里の外ではもう少し進んで、一年ごとに小麦、根菜、大麦、そしてマメの仲間を順に育てる方法などが見出されている。
家畜を育てるにも向いた優れた方法らしいが……。土地ごとに相性がある上に検証にかかる年数が長い。他の作物を試しても駄目だったのなら固執すべきではないだろう。
「俺も連作障害が気になってな。そうしたら以前、狭い土地でも何百年と連作できる作物について聞いたことがあったのを思い出した」
「なんと、そんなものが?」
「名前は『イネ』。水を張った畑に苗を植えて作るんだ。水が土を洗って新しくするから、土の中のバランスが一定に保たれるらしい」
「確かにそれは水が多く要りますな」
本来なら雨が多くて水の豊富な土地でやるものだ。この周辺地域では難しかったろうが、
「ダンジョン式灌漑農業、ってとこだな。当分の間はダンジョンで得たものをキヌイで食糧に変えて食いつなぐ。その間に農法を確立させて自給自足を整えようと考えてる」
「そこまで考えてらしたとは……。して、その作物の種はあるのですか?」
「今はない。だから、これからシズクに王として初めての命を下す。お前が一番適任のはずだ」
シズクが一歩前へ出て、地に膝をついた。
「なんなりと」
◆◆◆
「くくく、かなりの損失を被りはしたが……。まだまだワタシの時代は終わらんぞ」
帳簿の数字を見つめながら、キヌイの事業主ゲランは顔を歪めて笑う。マージ、シズクとの抗争で現金を全て失い、町では子供にまでバカにされるようになってすっかり頭が薄くなってしまった。
それでも残った財産をやりくりして事業を再開し、どうにか軌道に乗り始めたところだった。
「この調子なら来年には……ぐふふふふ」
「だ、旦那。お客様です」
修繕された跡のあるドアをノックしたのは部下のエルドロ。筋肉の塊のようだった身体もこの数週間で少ししぼんだように見える。
「客ぅ? 聞いとらんぞ」
「で、でも会わせろと」
「ワタシは忙しいのだよ。一体誰なんだ」
返事の代わりにエルドロの横に現れたのは、亜麻色の髪と尾を持つ
「ボクだ」
「……出たああああああああああああああ!!」
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