6.『人類最大の発明』 -3
………………。
…………。
……。
「……ん」
【保護領域】から意識を取り戻し、俺は周りを見渡す。現実にはほんの一瞬の出来事だったらしい。修復されたばかりの頭に痛みはなく、口元を濡らしていた血もすでに消えている。
扉の向こうには大理石の空間が広がっていた。光はほとんどない。壁のところどころに埋まった天然の夜光石だけが、青白くぼんやりと辺りを照らしている。
ここはダンジョンの王がおわす場所。その姿は、暗闇の向こうに溶け込んで未だ見通せない。
「そうだ、スキルは」
スキルの回収は完了していた。俺が六年間で習得してきた数々のスキルは俺の中へと返ってきている。いや、返ってきているだけじゃない。大量のポイントを得たことで、ほとんどのスキルが次々に進化を遂げていた。
【斬撃強化】が【亜空断裂】へ進化しました。
【鷹の目】が【神眼駆動】へ進化しました。
【高速詠唱】が【詠唱破却】へ進化しました。
【魔力自動回復】が【無尽の魔泉】へ進化しました。
【腕力強化】が【剛腕無双】へ進化しました。
【剛腕無双】が【阿修羅の六腕】へ進化しました。
【瞬足】が【空間跳躍】へ進化しました。
【範囲強化】が【超域化】へ進化しました。
【超域化】が【森羅万掌】へ進化しました。
【持続時間強化】が【星霜】へ進化しました。
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「耐毒系スキルも返ってきてるな。この階層の毒気だと、耐性がなければ数分ともたない」
溶血毒耐性、痺毒耐性、狂毒耐性……取り返した各種耐性スキルが機能していることを確認し、まずは自分の置かれた状況を知るべく知覚系スキルを起動する。
「【神眼駆動】【斥候の直感】、起動」
視覚を強化するスキルと、見えないものを見通すスキル。そこには確かなシナジーがある。俺の視界に、自分を取り囲む空間の全貌が描き出された。
「玉座……?」
大理石で刻まれた広大な玉座の間。それが『魔の来たる深淵』の最深部の姿。荘厳なる地下建築のその中央、凝縮された力の気配を【神眼駆動】が捉えた。大きい。
「蛇龍ヴリトラ、か」
敵の名前とともに、その情報が記憶に刻まれる。曰く、武器でも素手でも、魔術でも神蹟でも、そして昼にも夜にも殺せないと定められた白き邪龍。軽々に襲って来ないのは王の威厳か。
「なるほどな。猛毒に満ちたダンジョンで、棲息する魔物も毒に秀でる。アルトラたちのように何も知らずに踏み込めば毒に倒れ、毒さえ対策すればと考えて最奥に待つのは最強の龍種。なかなか悪意のある作りだ」
だが倒さねばダンジョン攻略は終わらない。今の所持スキルがあれば金を稼ぐのもわけはないが、先立つものとしてまとまった現金は欲しいところ。攻略報奨金を捨てる理由はない。
【警告します。非常に危険度の高い敵性生物です】
コエさんの警告が頭に響く。一度きちんと会話したからだろうか、今までよりも距離が近く感じる。
「大丈夫だよ」
答えた直後、ヴリトラの気配が小さく揺らいだ。
「――ッ」
音は無かった。【神眼駆動】で強化された動体視力が捉えたのは、音速に等しい速さで迫りくる白い巨体。その先端からは毒気が絶え間なく吹き出す。
「【空間跳躍】、起動」
自分の座標をずらし牙を空振りさせる。空間を移動した先、それを察知したヴリトラの尾が唸りを上げて振り下ろされた。
「【阿修羅の六腕】、起動」
ゴッ、と。猛烈な重低音とともに衝撃が伝わる。不可視の六本の腕が尾を受け止め、そのまま巨体ごと広間の反対側へ放り投げた。並の魔物なら決して無傷ではないはずだが……やはり殺せずの龍。何のこともなくこちらに敵意を向けている。
「
だが問題はない。今、ひとつの処理が完了した。
【貸与した全スキルの回収及び最適化処理を完了しました。次段階に移ってよろしいですか?】
「ああ、頼む」
先程、俺は貸していたスキルを全て回収した。
だが、貸したスキルのポイントは最大116,144,339,796%の利息になど到底届いていない。ならば、債権を回収するために次の標的となるものは決まっている。
【ユニークスキルのスキルポイントを差し押さえ、債権額に充当します】
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