5.『人類最大の発明』 -2
【処理が完了しました。 スキル名:【鷹の目】 債務者:アルトラ】
【実質技利116,144,339,796%での回収を開始します】
「ぐっ……」
扉に押し込まれた直後、俺の身体に四人分のスキルが流れ込んできた。一番古いアルトラの【鷹の目】に始まり、貸しっぱなしになっていたスキル群が文字通り桁違いのスキルポイントを伴って俺へと返ってくる。
衝撃すら感じるほどの圧倒的数値。頭が破裂するが如き痛みに意識が遠のく。口元に感じた生温かさに手で触れると、べっとりと赤いものがついていた。
「が、は……!」
【安全機構を起動します】
………………。
…………。
……。
「ここは……」
気が付くと、俺は真っ白い空間に立っていた。服を着ていないことに驚きはしたが、不思議と寒さも心細さも感じない。
【保護領域への移動を確認しました】
「保護、領域? 俺はどこかに移動したのか?」
聞きなれない言葉に首を捻る。空間転移魔術のようなものだろうか。
【いいえ。ここはあくまで貴方の意識の中。スキルの情報量が膨大であり脳に損傷の恐れがあったため、意識のみを安全な領域へと保護しました】
「それって俺の脳みそは?」
【いったん破裂して原型を失いますが、高度の治癒系スキルにより修復します。お気になさらず】
「気になるが?」
脳がグチャグチャに壊れたのに意識がそのまま、というのが逆に怖い。
「それにしても会話ができたんだな。てっきり一方的に喋るだけの機械のようなものと思っていたよ」
【人格は設定されておりますので。肉体はありませんが】
設定されている、ということは設定した誰かがいるということだ。それが何者かは、尋ねても答えは返ってこなかった。
【まもなく返済処理が完了します。脳の修復が済み次第、貴方は覚醒します】
【貴方が日々積み上げた研鑽が、これからの未来を明るく照らしてくれますように】
「……見ていてくれたんだな」
S級パーティにいても、誰も俺のやっていることを見てなどいなかった。必死に考えて、積み上げて、練り上げてきたものに気づく人などいなかった。いないと思っていた。
でもどうやら、その人は意外に近くにいたようだ。
【見ていました。誰よりも近くから。誰一人気づかずとも、貴方の目を通して私は見ていました。貴方が奪われ続けた年月が正しき力となること。それが私の望みです】
「最後に教えてくれ。君に名前は?」
【ただ単に、『コエ』と】
「いい名前だ」
借り物でギラギラと着飾っただけの人間はもう見飽きた。このくらい素朴で飾り気がないほうが、今は心地よい。
次第に意識が薄れてゆく。現実へ戻るのだろう。
【破損器官の修復が完了しました。脳神経系との同期、ヨシ。覚醒に入ります。覚醒に入ります。覚醒に入ります。それに伴い――】
【貸与スキル全種の回収が完了しました】
◆◆◆
ダンジョン『魔の来たる深淵』最奥、石扉前。マージのささやかな抵抗を見送ったオレに、エリアが青ざめた顔で何やら訴えかけている。
「アルトラに意見具申。至急突入を」
「突入ゥ?」
この扉の向こうではマージがバラバラの肉片にされているはず。そこに突入しろとは、まさか今になって情でも湧いたのか。
「なァに言ってんだお前。あんなの助けてどうすんだ」
「否定。救助ではない。一刻も早い殺害を強く推奨」
ますますわけが分からない。どうせすぐに死ぬのをなぜわざわざ殺さないといけないのか。前々からエリアは何を考えているのか分からないところはあったが、今日はいつも以上に言っていることがおかしい。
「いいかエリア、お前は頭がいい。知恵のスキルだもんな。でもな、世の中にゃ常識ってもんがあるのよ。分かるか? じょ・う・し・き?」
「マージならボスがそのうち殺してくれるとも。焦ることはない」
「そうですよ。一刻も早く殺害なんて、そんな残酷なこと言っちゃいけません」
三人に諭されても食い下がるエリア。その額に、それまでの焦りの汗とはどこか質の違う汗が浮かんだ。
「否、否、りそ……く……が……!」
「なん……だ……!?」
視界が反転した。息ができない。強烈な耳鳴りが頭を揺さぶり、手足が痺れ地面に膝をつく。この感じ。生命が吸われていく感覚は久しく忘れていたが……。
「ど、く……!?」
「【天使の白翼】が……きか……な……」
エリア、ティーナ、ゴードンと次々に倒れて泥にまみれる中、オレも意識を失った。
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