第41話 魅了


 ノックの音が部屋に響き俺はドアへと向かった━━。




 ガチャ......。




「なんだ? 客室マッサージを呼んだ覚えは無いぜ」


 

 ドアの隙間から見えた白く長いその脚は、ドアが閉まらないように足を引っ掛けていた━━。




























「残念ながらマッサージ師ではないわ......私は勇者の妻リーゼよ」



 そいつは俺がよく知ってる女だった━━。




*      *      *




 俺の目の前に立つリーゼは風呂上がりなのか少し湿った髪を垂らして高そうなベビードールを羽織り、その下には大きな乳房を守るためのセクシーなランジェリーが透けて見えていた。


 こりゃ普通の男なら誰でもおっ立つだろうな、だが俺には見えるよ...お前に纏わりつく黒いオーラが━━。



「へぇ......人妻がこんな時間にどうした? こんな場面をアンタのクズ勇者ダーリンにパパラッチされたら俺は慰謝料請求されちまう。離婚届けに判を押してから出直すんだな」


「そう言わずに中へ入れてくれないかな? 今日は夫に内緒で宿泊してるから問題無いし。それにどうしても貴方と直接お話ししたくて来たのだけれど......ダメなの?」



 笑っちゃうな......こんなミエミエのハニトラ。

 あまりにも時代遅れすぎるが......まあいい乗ってやる━━。


「いいや、こんな美人にそんな目で誘われたら誰だって断れないなぁ。さあどうぞ」


「お邪魔します」



 俺はドアを開けてリーゼを部屋の中に入れると、彼女は部屋に置いてあるソファに彼女は腰掛け俺はそれに対面するソファに座る━━。

 


「来客は予定してなかったもんで茶菓子やスリッパすら用意してないんだ。悪いね」


「ふふっ......面白い人。顔も良くてユーモアもあれば女性なんて引く手数多ひくてあまたなんじゃない?」


「いやいや、俺はこう見えて奥手でね。残念ながら昔から恋愛は苦手なんだよ」



 そうなったのは主にお前らのせいだけどな━━。



「そうなの? 意外ね、もっと積極的な人かと思った。でもそのギャップも可愛く見える......もし勇者様と結婚してなかったら貴方と結婚してたかも」



 なんともチープな煽て方するんだな、場末のラウンジでも今時そんな接客しないぞ。

 もしかしてコイツ勇者以外の男とまともに会話してないのか? それとも勇者はこんな臭いセリフが好きなのか? これじゃあ童貞のボーヤも落せないよ━━。



「そらどうも......さて本題に入ろう。それで今日出会ったばかりの住所不定無職の男前に一体何の用? 勇者サマの奥方で有られるアンタが俺を知る必要なんて無いと思うけど」


「必要かどうかは私が決めるわ...私は貴方を深く知りたいの。だって颯爽と現れてあの赤髪の奥さんと共に一瞬で四天王を討伐したじゃない? そんな人に興味を抱かない訳がない...私は強い人に目がないの」



 リーゼはソファから立ち上がって俺の隣に座り目線を合わせて顔を近づけてくる━━。


「なら残念なお知らせだ、あの気取ったローブ着たアホを殺したのはウチの嫁なんだよ。俺は何もしていない━━」


「ふーん、でもそれって本当? 四天王相手に防具も無しに挑んで無傷で帰ってくるなんて普通じゃないと国王様もおっしゃってたわ。それに赤髪の子と本当に夫婦かも怪しいし......」


「そりゃ国王様の考えすぎだろ。俺はただ隠れてただけさ......それに夫婦じゃないってどこがそう見える?」


「そもそもあなた達同じ部屋に居ないじゃない。普通夫婦なら一緒の部屋を取るはずでしょ? それにあの子は確実に処女だし━━」


「はぇぇ......外見だけでよく分かるな。清純派アイドルを処女かどうか査定して悦に浸ってるアイドルオタクかよアンタは」


「その例えは分からないけど間違いないわ。そして貴方が嘘をつき慣れてる事も......」


「バレたか......実は俺こう見えて童貞くんなんだ」



 その言葉言い終えるとリーゼが突然俺をソファに押し倒し、垂れた髪を耳に掻き分け淫乱な表情で更に近づく━━。



「ねぇ......私綺麗? 私貴方の好みじゃないのかな?」


「なんか......口裂け女みたいな口説き文句だな」


「ふふ、貴方って近くで見るとより一層綺麗な顔してる......本気で好きになっちゃうかも。ねぇ......もっと深い関係にならないと私を信用してくれないの? なら向こうでそうなりましょうよ」


 リーゼは仰向けになっている俺に胸を押し付けながらベッドを指差して俺を誘惑する。

 魅了されてるかどうか知らんがこんな風になった元婚約者である人妻を見てると泣けてくるね......。

 

「普段なら大歓迎なんだが......昔のトラウマで女の身体は大好きだが女自体は苦手でね。近くに寄られると震えてナニも出来なくなっちまうんだ」


「可愛い人......なら赤髪の奥さんよりも先に私がそれを克服させてあげる」


「はぁ......勇者の奥様ってのはここまで欲求不満かよ。股間の聖剣が泣いてるな」


「意地悪......んっ......」


 リーゼは俺が拒む間も無く鼻が触れるくらい近づき口付けをした。

 

 口に熱いものが入ってくる......何だこれっ。


 

 あっ━━。









 クチュッ......。












 口付けを終え俺から離れたリーゼは悪魔のような笑みを浮かべた━━。



「ふふっ......あははははっ! これで貴方は私から逃げられない! 勇者様から貰った私の魅了で貴方は私専属の奴隷よ。さぁベッドへいらっしゃい......最後の儀式をしましょう」



 俺はなすがままリーゼの柔らかい手に引かれベッドに押し倒される。



「勇者様以外とするのは罪悪感があるけど私の場合、一回交わらないと相手は永遠に魅了されないから仕方ないの。さようならイケメン君、コレでもう貴方は私の虜......死ぬまでおもちゃにしてあげる」



 リーゼは妖艶な顔で耳元に近づき淫魔のような甘い声で俺にそう囁いた━━。

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