第40話 白い目
俺達3人は宿が決まるまでの間王都の集会所にやってきた。
ウルティオの集会所より数倍大きい建屋で受付の数も飲食店の豊富さもまるで別物だった
「なあパトラ一つ言って良い?」
「ん? 夕飯はどこで食べるか決めたの?」
「いや違う...もっと大事な事なんだ」
「そ...そんな目で...見ないでよぉ...」
俺はパトラの目を真顔で見つめる...パトラは目を閉じて何かを待っているようだ。
そう、これは俺にとって本当に大事な事なんだ━━━
「...何で俺よりも早く『モロンさん一緒に行動しようよ』とか言ってるの?」
「...は?」
俺はムカついていた━━━
「だからね、雇い主である俺が言う前に何で勝手に仲間にしてんのって言いたいわけ」
「や...やっぱり僕一緒に行動しちゃいけなかったかな...ううっ...」
モロンさんはたちまち涙目になりその場で泣き崩れそうになっているが今はそれどころじゃ無い!
「ちょっと! モロンさん泣きそうになってるじゃん! モロンさんは他に行く所無いんだよ? 勇者に魅了されて傷つけられて、挙句の果てに捨てられたわけじゃん! 普通の優しさを持った人間なら行動を共にするのは当たり前でしょ!? ジュノの心はバケモノなの!?」
「ヒトノ、ヤサシサ? オレ、バケモノ...じゃねぇよ! そう言うならお前目を見開いて周りをよく見てみろ!」
俺の周囲にいる人間...テーブルで食事をしている奴や受付に並んでいる奴、はたまたウェイトレスまで俺のことを薄汚いクズなスケコマシを見るような目で睨みブツブツ小言を言っている━━━
『何だアレ...偉そうに両手の花ぶん回しやがって、俺たちに対するイヤミかあのクソ男』
『ホントヤリ○ンって最低...』
『あのショートヘアの子泣いてるじゃん...なにしてんの? ヤリ捨て?』
『いくら顔が良いからってやって良いことと悪いことあるでしょ』
『何でああいう奴には決まって可愛い子が隣に居るんだよ...』
『あの子達もしかして魅了のスキルで無理やり...? 酷い話だ...』
『あんなヤツ実際はワンナイトで女の子に飽られてそう』
『勇者様ならまだしも...あんな顔だけの男がね...』
『ハーレム気取りのクソが...死ね』
「よぉよぉ目が死んだ色男さんよぉ! 俺にも女の子紹介してくれや!」
「ほらな? アリーナから黄色い歓声が聞こえるだろ? 俺の方が泣きたいよ! ハンカチ寄越せ!」
「そんな...ただ2人女性を連れ添ってるだけなのに...」
「ハーレムかまして何も思われないのは小説の世界だけなんだよ。実際はみんな出る杭を打ちたくて仕方ないんだ。まあ男の方は
「きも...ジュノ最低」
「俺じゃねぇよふざけんな! 俺だって相手選ぶ権利はあるんだぞ!」
「それどういう意味よ!」
「俺はなぁ...包容力のあるエロい年上のお姉さんか、僕っ子にも関わらず出るとこは出てる人が好きなんだよ!」
「え...それってもしかして僕のこと...///」
「うーわ...そういう目で見てたんだ...最低...」
「だって見てみろよパトラ、童顔で小さな顔に大きな瞳! 天使の輪が出来る程綺麗な黒髪ショートヘア、極めつけに華奢な身体に巻いたサラシを取ったらなんと巨乳! そんな人間中々居ないよ?」
「ちょっと大きな声でやめてくださいジュノさん...///」
「最後にこの可愛く恥じらう仕草だ! この顔で『僕、男性が苦手で接し方が分からないんです』とか言って天気予報させてみろ! そこら辺の男なんてイチコロだぞ、掲示板は大荒れだ!」
「最悪! 今すぐ斬り刻んで今日のおすすめサラダの具材に加えてあげようか!?」
「お? 少しは言うようになったな相棒! なら最後の締めにしっかりドレッシングかけてくれよ!」
パトラは俺に殺意を込めた目で睨み刀を構え、
俺も応戦するように戦闘態勢に入ると後ろから物凄い殺気を感じ思わず振り返る
「場内ではお静かにしてください!!」
「「はい...すみません...」」
俺達2人は受付のお姉さんにガチ説教され、罵声の応酬は速攻で終了した。怖かった...
「僕...やっぱり1人で行動しようかな...」
* * *
早くホテル手配の連絡来ないかな...俺は腹減らないしこんな空気もう耐えらんねぇよ...
そんな事を思っているとモロンさんが気まずい雰囲気を掻き消すように口を開いた
「あの...二人っていつもこんなやりとりしてるのかな...?」
「え? うん...まあそうかな。ジュノは私より年下のくせに偉そうだし素直じゃないからさ...」
「なぁ、前にも言ったが俺は年下好きのロリコン家庭で育ったんだ。その家訓で年上の図々しい"おばちゃん"には素直になるなって言われてんだよ」
「あれ...さっきは年上のお姉さんが好きって...? 因みに二人は今年何歳になるの?」
「私17」
「俺16(+40)」
「僕...23...」
俺とパトラは目を見合わせ...
「「...タメ語ですみませんでした」」
同時に頭を下げた━━━
「いいよいいよ気にしないで、2人ともしっかりしてるから僕も2人が年上かと思ってたし...」
今年一番の衝撃だ...
というか巨乳僕っ子ロリお姉さん賢者ってどんだけ欲張りセットなんだよ...この人ヤベェな
「あ...ありがとう...こ...この漬物おいしいねパトラ...」
「う...うん...そうだねジュノ...」
「2人とも僕のフォローに気まずい雰囲気出さないでよぉ!」
3人に少し気まずい空気が流れる中、王都からの使者が俺達のテーブルにやって来た
「ジュノ様お待たせしました。ホテルの手配が完了したのでここにチェックインお願いします」
渡されたメモにはホテルの名称と住所が書かれていた
「ありがとうございます。マジで空気読んだタイミングで助かりました」
「はあ、ではコレで失礼します」
「よし俺達もホテルに向かおう」
* * *
到着したホテルの建屋は首が疲れるほどに高く聳え立ちオーク専用なんじゃないかと思うくらい大きな扉と床は大理石が輝いていた。
だだっ広いロビーには整った服装の貴族連中がそこら中を闊歩している
「うひょー俺の服装完全にアウェーだな、鎧でも仕立てておけば良かったよ。恥ずかしいからさっさとチェックインして部屋に行こう」
フロントには背筋がピシッと伸ばし、いかにも仕事が出来そうな受付のお兄さんが立っていた
「いらっしゃいませ...ジュノ様御一行ですね、国王様より御予約は承っております。お部屋は各一名様ずつ一部屋となっておりますので御案内致します」
「え!? 確か3人で一部屋って私がお願いしたはず...何かの間違いでは?」
「いえ、私共は確かにそう承っております」
やったぜ!
俺の要望を聞いてくれたのかナイス国王!
だが嬉しい俺とはよそにパトラは不満げな顔をしている。
なんだコイツ━━━
「ジュノ、後でそっちの部屋行くから。モロンさんも一緒に行かない?」
「なんだ? 俺の部屋でババ抜きでもやるのか? パトラは存在がジョーカーだからやる前から負けだよ」
「なに!? そんな事言って本当は寂しいんでしょ? 行こうよモロンさん」
「う...うん、でもいいの?」
「うん、モロンさん
「その
「え...ジュノくんこのアザ治せるの?」
「アザも記憶も服についたソースのシミまでバッチリ」
「にわかには信じられないよ...」
「気持ちは分かるけど私が保証するよ。いつもはふざけてるけど力
「はいお前出禁確定ー」
「それではお部屋に御案内いたします」
* * *
各々の部屋に到着した俺達は明日の朝まで自由行動を取ることにした。
でもどうせあの2人が後で来るからあまり意味は無いが...
とにかく1人になれた俺はホテルの大浴場で汗を流した後部屋に戻りベッドに寝転んでいた━━━
久々の1人は良いもんだ..
とりあえず色々と考えをまとめよう。
まず俺の味覚についてだが...
食べたもの全ての味が素粒子レベルで分かってしまい何を食べても美味しく味わうことができない。
それに合わせて嗅覚も異常なほど鋭くなってきていている。
恐らくあの村での生ハムの匂いや他の悪臭もこのお陰で分かったのかもしれない。
それと薄々感じていた事だが前回の四天王戦で痛覚が完全に消えた。
痛みを感じないのは一見メリットに思えるが、力の加減が難しくなる事と体の危険信号に気が付けないのは手痛いデメリットだ。
ただ触覚はあるのでまだマシな方と考えるべきか。
それと勇者について━━━
ヤツは神から加護を授かっている割に弱すぎる。
もしかするとヤツは加護の本質を理解しておらず、
そして村の実験も自分の弱さに焦り戦力拡大のため行なったとも考えられる。
事故が発生して一時中断になったが、ほとぼりが覚めた頃に行く当てのない人間をあの村に隔離させて再度惨たらしい事をさせていたのかもしれない。
そしてこれは予想される最悪のパターンだが四天王や魔神をワザと倒さずいつまでも《勇者》という称号を気取っていたかっただけかもしれない可能性もある...
「...クズ相手にいろいろ考えると疲れるな...2人が来るまで寝るか...」
* * *
コンコンッ...
部屋のドアをノックする音が聞こえた。
結構寝てたのか俺...モロンさんとパトラが来たか?
「今開けるから待っ...」
この匂いは━━━
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます