第35話 四天王の1人



「私は情けない......武器がなければ何もできないのか......!」


「そうだ、お前たちエルフや人間がいくらスキルを持っていても弱い生き物だとやっと分かったか。しかし先程の威勢の良さはどこ言った? まるで女のようにウジウジして情けない奴だ」


「うるさい! 私が死んで魂だけになったとしても貴様の喉元に食らいついて殺してやる!」


「遺言はそれだけか......僕に喰われて死ね」



 もう終わりだ......私は本当に食われて死ぬんだ━━。





















 ドスッ━━!



「うっ......! なんだ......!?」



 ドスッ━━!



「何......この音......」


 衝撃音と共に私に伸びていたドラヴィロスの手が止まる。

 私もその音にびっくりしたがどうやら音の発生源はドラヴィロスの腹の中から響いていて、音に連動して内側から腹が激しく伸び縮みする度にドラヴィロスは悶え苦しんでいた。


「うぉ......おぇっ......! 何が......起こっている!?」


 ドラヴィロスは口から血を吐きながら爪を立てて腹を掻きむしるけど内側からの衝撃は収まるどころか更に勢いを増して余計に悶えていた。

 

 

「クソッ......! ヤメロォォォッ!」



 ドスッ......ドスッ......。





 ズドンッ━━!



「ウ゛ォ゛ェ゛ェ゛ェ゛ッ!」



 ドラヴィロスは口から噴水のように血を吹き出し、目の前に立っていた私はその血を浴びて血生臭さを感じた。



「ウ゛ォ゛ォ゛ァ゛ァ゛ッ!」



 ズシャァッ......!


 肉と骨を引きちぎる音と共にドラヴィロスの腹に大きな穴が空き、中からソフィアさんの姿をした男が準備体操でもしたかのように肩を振り回して出てきた━━。



「ふぅ......今日の主演男優賞は俺が頂きだな」


「ジュノ......!」


「お前は......我の一撃で死んだはずでは......」


「確かにすごい生臭......じゃなくてすごい一撃だった。おかげで体がベーグルみたいになっちまったよ」


「バカ......な......」



 ドラヴィロスは驚愕の表情を見せながら穴が空いて血に染まる腹を押さえて倒れた━━。



*      *      *



 トカゲの腹から出てきた粘液まみれの俺にパトラが下を向きながら怒った顔で迫ってきた。



「ジュノ、また私をからかったの......?」


 顔をあげたパトラは目を赤くしていた。


「違うよ。アイツにわざと食べられて中から腹をぶち破れば流石に食欲が湧かなくなるだろうと思ってね。だからワザと煽って文字通り汚れ・・役を引き受けたんだ」


「そういうことだったの......。本当に心配したんだから......!」


「俺があの四天王相手にふざけるように見えるか? ぴったりした七三分けが似合うほど真面目な見た目でしょ」


「いや、ジュノはふざけてるようにしか見えないよ。それよりその穴の傷大丈夫なの?」


 パトラは生臭いはずの俺の身体の心配をしてくれた。

 優しい人だな......さっきまで目を赤くしておっかない顔してたけど━━。



「そうだ......なぜお前......その傷でピンピンしているんだ......」


「毎朝スムージーを飲んでるからさ。みてみてパトラ凄いでしょ? この穴に嘘吐きが腕を通すと抜けなくなるらしいよ」



 俺は内臓と血の塊が見える穴をどうだと言わんばかりにパトラに見せびらかす━━。



「うわぁぁぁっやめてよ! そんなグロテスクなもの見せないで! 早く傷塞いでよ! うおぇぇっ......!」


「そんなにドン引きしなくても......」



 零━━。



 俺に空いていた穴は瞬時に塞がり元に戻り、変身を解除した。



「お、お前らエルフじゃなかったのか!? 騙しやがって......肺を抉り出して跡形もなくなるくらい消し炭にしてやる!」


「おっかないねぇ......コレだからオツムが弱い爬虫類は困る。パトラは鎧着て周りのトカゲを殺しといてくれ、俺は今から四天王のオケツを引っ叩いてやる」


「任せて、そっちは四天王なんだから今度は死なないでよジュノ!」



 亜空間から排出された刀と鎧は自動的にパトラに装着された。


 リザードたちはパトラの本当の姿を見て全員馬鹿にした表情で対峙する━━。



「おいおい俺たちを殺すだってよ!? 女がたった1人で俺たち全員に何ができる!?」


「フン、舐めるな......神速の焔刀で貴様らを刹那に切り刻んでやる」



 パトラは俺に華奢な背中を預けリザードたちに刀を構えた━━。



「全く頼もしい背中だよ、さてこっちもトカゲの調理を始めるか」


「僕を馬鹿にするのも大概にしろよ。たかが餌の分際で僕を傷つけた事を後悔させてやる!」


「たかがに煽られただけであんまり胃をムカムカさせるなよ......まあそののせいでムカムカする胃は無くなっちまったけどな」


「さっきは油断しただけだ! 僕が本気を出せばお前のような竜を殺す剣を持ってない、それどころか防具すら装備してない奴なんか簡単に殺せるんだ!」


「え? ちょ待って......竜を殺すには専用の剣が必要なの......? パトラ知ってた?」


「うん、言い伝えでは専用の剣がないと竜の鱗に傷一つつける事は出来ない。でもジュノは現に腹を掻っ捌いたから多分殺せるでしょ」


「四天王に対して多分で片付けるなよ! こっちは命掛かってるんだぞ!? ちょっと家に下痢止め忘れたから帰るわ......」


「ふん! 僕を傷つけておいてすんなり帰すわけないだろ! 《スケイルヒーリング》」



 俺が裂いたドラヴィロスの腹は緑色の光を放ちみるみるうちに傷が塞がり完全に治癒された。



「お前の攻撃など元通りさ。僕の必殺技でお前の仲間ごと焼き尽くしてやる! 《ヴィロスインフェルノ》」


 ドラヴィロスは翼を広げ一瞬で空を舞い、青黒い炎が口から轟音と共に俺とパトラに向けて吹かれる━━。



「アイツ空飛びやがった! このままだとパトラに直撃する......!」



 創......泡沫の風━━。



「うわっ...! なに!?」


 パトラは下から湧いた泡にギュッと押されながら取り込まれた。

 そのお陰で間一髪青黒い炎から守られ泡の表面が少し燃えるだけで済んだ。

 その代わりパトラと対峙していたリザードが全員燃やし尽くされ灰になった━━。


「ありがとう助かっ......ジュノ! あなた燃えてる!」


「あーあ、セルフ焼肉になっちまった」


 俺は奴の炎が直撃して腕や肩など身体の一部が燃え、その部分は肉が灰となり骨が剥き出しになっていた。


 それを空中見ていたドラヴィロスは勝利を確信したように声高らかに笑う━━。



「ふっ......はははっ! 無様な姿だな! この炎はあらゆる治癒魔法が効かない攻撃だ。いくら大穴を治癒したお前でも体を治すことは不可能だ!」



 そんなもん燃えたリザードの姿を見ればわかるんだよ、俺はワザと直撃したんだ━━。



「そうかい、ならすぐにマスコミに知らせないとな」


「減らず口を......お前の命はもう燃え尽きるんだ。もう一度燃やし尽くしてやろう」


「燃ーやーしーてーくれー......イェイェ......」


「鎮魂歌か? ふざけた事を......死ねぇぇっ! 《ヴィロスインフェルノ》!」


「流石に2回目は避けないと丸焦げになっちまうな......」



 奴が放ったブレスを俺は瞬間移動で避けて奴の元へ跳躍した━━。



「何っ!? お前にまだそんな力が! だが空中戦でドラゴンに勝てる生物は居ない!」



 ドラヴィロスは次のブレスに備えて力を蓄える━━。



「一つ良い事を教えてやるよ四天王。相手の実力を見誤り自分の勝ちを疑わなくなった時に一番隙が生まれるんだよ。さぁ喰らえ......お前自身の技だ......!」



 創......堕天使の業火アバドインフェルノ━━!



「なぜお前が! しかも僕より......ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!」



 俺の左腕から放たれた闇のように黒い炎は一瞬でドラヴィロスを燃やし尽くし、顔だけを残して後は灰になり地面に落下した━━。



「どうだ? 自分の技で炭火焼きになった気分は?」


「クソ......下等な人間如きに竜殺しの剣以外で僕が殺られるなんて......。しかしお前はなぜその状態で生きている......回復魔法が効かないはずだぞ......!」


「俺はアンタと違ってそもそも魔力なんて持って無いんだ。だから回復魔法は使えない、ただ炎を無くして体を創っただけだ」



 零......創━━。



 俺を燃やしていた青黒い炎は消えて身体は元に戻った。



「バカな......これが魔法じゃないならなんというんだ......。その上僕の技をコピーしてさらに強く......」


「俺は昔からモノマネが得意でね、よく宴会で無理矢理やらされるんだ......モノハラってやつさ」


「何をバカな事を。それより......僕を殺すという事は魔神様を敵に回すんだぞ......? 殺さなければ今回の件は見逃してやる」


「おいおい命乞いかよ情けないな.....お前散々人間殺してきただろうに。まあいい、延命サービスするから一つ教えろ。アンタなら勇者の情報を一つくらい知ってるだろ? アイツの能力はなんだ?」


「それは......知らない......僕は何も知らない!」


「そうか、じゃあ始末するよ」



 俺は残ったドラヴィロスの顔を持ち上げて眼球を握り潰す動作に入る



「ちょ、ちょっと待ってくれ話すよ! 僕が唯一知ってる勇者の能力の一つを!」



 ドラヴィロスは情けない声を出しながら語り始めた━━。



*      *      *

後書き


いつもお読み頂きありがとうございます!

イイネやブックマーク本当に感謝しております!

コメントも一つ一つ有り難く、すべて読ませていただいておりますが中々面白い返しが思いつかなくて返せずすみません(ノ_<)

これからもよろしくお願いします、

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る