第34話 有口無行


 俺達は四天王と魔物が棲む山奥に運ばれていた━━。


「はぁ、せっかく防具買ったのに装備できずこんな事になるなんて...」


「まぁそう言うなって、トカゲが来る前におじさんを叩き起こして防具持ち帰れただけマシさ。それにパトラの刀を含めた装備は創った”亜空間”にしまってあるからいつでも取り出せるし」



 俺は昨日の夜にパトラの装備や飛び道具を収納出来るように亜空間を創造しておいた。

 その時に敵をこの空間に閉じ込めて餓死させられるんじゃないかと考えたが空間内には時の流れが無く、そのまま保存されるだけなのでとりあえず物入れに使うことにした━━。



「まあそうだけど......それよりジュノが収納魔法も使えるなんて知らなかったよ」


「ん? まあ少し違うけどね。帰ったらこれ駆使して引越し業者のバイトでも始めようかな」


「この状況でよくそんなこと言えるね。私なんて四天王が怖くて仕方ないのに......どんな神経してるのよ」


「そんなの怖いに決まってるだろ! もう怖くて怖くてオシッコチビりそうなんだよ! なぁ頼む! お前が後に喰われてくれ! 先に喰われてグロいのを見た後に死にたく無いんだ!」


「なにそれ最っ低......この意気地無し! ていうかその姿で顔赤くしてモジモジしないでよ!」



 もうソフィアさんのモノマネをすることなんて頭から抜けてたわ......。



「おいさっきからうるさいぞお前ら! 喋れないようにその喉をここで掻き切ってやろうか!?」



 俺達の言い争いに痺れを切らしたリザード族はブチギレて槍を俺の喉元に向けた。



「「はい......すみません」」


「まあ良い、ドラヴィロス様を前にすればその元気な声もそのうち悲鳴に変わるさ━━」


 俺たちを乗せた馬は洞窟へと入る。

 入り口からは長い通路になっており天井からつらら状の石がいくつも垂れていた。

 そして通路の隅には一瞬人間と判断できないほど欠損した死体がいくつも乱雑に放置されており腐敗臭が通路に漂っていた━━。



「みんな文字通り食べられたんだ......。ねぇ、あそこにあるの子供の足よあれ......うっ......」



 パトラが戻しそうになるとそれ見たリザード族の1人が嬉しそうに聞いてもない事を語る。



「ニンゲンなんざ俺たちにとって食料でしかない。ある程度食い終われば能力が上がるから残りは用済みだ、そこに転がってる奴らは俺たちの目の前で悲鳴をあげたり子供を庇ったりして泣きながら惨めに喰われていったぜ? 情けねぇなぁ!」


「酷い......私たち人間をなんだと思ってるの......!」


「栄養ドリンク程度だろ。まあ今のうちに好きなだけ言わせときゃいいさ、どうせ今日で全員炭火焼きになるんだ。今の内にタレか塩か決めようぜ」


「こんな奴ら私は絶対食べないよ。普通に焼肉行きたい」


「じゃあこれ終わったあと焼肉行っちゃおうか」


「はぁ......生きて帰る事出来ればね」


「さぁ着いたぞ、馬から降りろ!」



 俺達が降ろされた場所は洞窟内の広い空間だった。

 そこは火で灯されているだけの暗い視界、そして奥に鎮座していたのは頭から小さいツノが生え、龍のような鱗が肌の一部に浮き出て背後に尻尾が見える中性的な顔をした背の小さいヤツだった。



「やっと来たか、お前たちエルフを喰えば僕は更に強くなれる......もう人間を食べるのは飽きたし丁度良いタイミングだった。さぁ2人の縄を解いてやれ」



 俺達は縄を解かれリザードに手で押し出されて無理やり竜人の前に立たされた。



「僕はドラヴィロス、竜人族最強の存在にして最恐の者。これはサービスだ......最期に言い残す事はあるか? そっちの男から答えよ」



 パトラは突然の質問にびっくりしながらも目には怒りを込めて答える。



「私たちはあなたたちの食糧なんかじゃない、ここで殺され洞窟の通路で無惨に放置されている人たちの恨みも込めて貴様を絶対に殺す」


「殺す......この僕を? はっ、気が強い男だ。僕を前にして恐れずそんなこと言う奴は魔物も含め初めてだよ......お前のようなプライドが高い奴は痛めつけてじっくり食べてやる。次にそっちの女、お前は食べるのが勿体無いくらい綺麗だな......最期に何か言うことはあるか?」


「よく喋るトカゲモドキですこと。カビ臭い洞窟でビビってるよりサーカスに入った方がみんなの人気者になれましょうに」


「なんだと......お前から喰われたいか女」


 ドゴォォォッン━━!
























「うそ......だろ......」


「ジュノ!」


 ドラヴィロスが翳した手から黒い光線が放たれ俺の身体を貫通し、洞窟の壁が崩れ身体には大穴が空いた。

 そして俺はソフィアさんの姿のまま血を吹き出しながらその場に倒れ、パトラが急いで駆け寄ってきた━━。



「ジュノ! 冗談だよね......? ジュノがこんな一撃で死ぬわけないよね...?」



 パトラの涙が俺の顔に当たり少しひんやりとする━━。



「ごめ......ん......パ......トラ」


「謝らなくていいからいつもみたいに冗談で返してよ......ねえジュノ!」


「これ......ドッ......リ......」



 パトラが握った俺の手は滑り落ちた。



「何言ってるかわからないよ......ねぇ......目を開けてよジュノ! お願いだから!」



 暗くなる視界の最期に見えたのは目に涙を浮かべ怒りの表情をドラヴィロスに向けるパトラの顔だった━━。


「よくもジュノを......ぶっ殺してやる......今すぐ貴様を殺してやる!」


「はっ......武器もないのにどうやって僕を倒すんだ? 女は死んだ、それまでだ。その死体をこっちに持ってこい」


「ジュノは食べさせない! 私は絶対に貴様を殺す......ジュノの仇は私が取る!」


「どけ男! その女はドラヴィロス様の体の一部になるのだ! お前もしっかり見届けておくんだな!」



 パトラはリザードに蹴飛ばされた衝撃で床に倒れ口から血を流していた。

 そして俺はリザードに抱えれながらドラヴィロスの元へと運ばれる━━。



「私から先に食べなさいよ......!」


「心配するな...後で食べるさ。僕はこれでまた一つ強くなれる、四天王の頂点を超えて魔神様唯一の右腕となるのだ!」


 ドラヴィロスは黒紫のオーラを全身に纏い姿を変える。

 身体は大きくなり人間の姿から黒い鱗が光る四足歩行の竜が姿を現す。

 その姿を目の当たりにしたパトラは絶望の表情を浮かべていた━━。



「これが本来の姿......やっぱり私達に四天王討伐なんて無謀だったんだ......。こんなのに勝てっこない......!」


「この姿じゃないとこの美しいエルフの身体を切らないといけないからな。では頂くとしよう、私の肉となれ女エルフ......」


「やめて......やめてぇぇぇっ!」


 パトラの叫び声は洞窟内に響き渡るがそれも虚しく俺の身体はゆっくりとドラヴィロスの口から飲み込まれ、竜の細い首から体のラインが見えるくらいぎゅうぎゅうにされながら通過していき竜の首から膨らみが消えた。



「ううっ......ジュノ......」


「この女ジュノという名前だったか。そう泣き喚くな、お前もすぐに後を追わせてやる」


 ドラヴィロスは膝をついて泣き崩れるパトラにゆっくりと手を伸ばした━━。

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