第33話 緊張感の無い男
エルフのお姉さんは徐に口を開いた━━━
「...今回の生贄は四天王『ドラヴィロス』から私達"エルフ"が指名されたと領主様から直々に言われました。なのであなた達"人間"では見た目の違いも含め私たちの代わりは出来ません...」
「姉さんの言うとおりです。もし下手な事をしてドラヴィロスの機嫌を損ねたら貴方を含め街の人は皆殺しにされます。それになんだかあなたの話しは虫が良すぎる」
確かに疑いたくなるになるのも当然だ、外から来た人間が突然自分たちの身代わりになるなんて話がウマすぎて普通信用出来ないもんな...でもこの手を使えば━━━
「...では今目の前で匂いすら同じように変身すれば少しは認めてもらえますよね?」
「そうですけど...匂いもコピーする変身魔法はかなり高度だと思うのですがあなたに可能なのでしょうか...?」
「その点は心配いりません、忘年会で上司に無茶振りされても堂々と披露するくらいモノマネが得意なんでね」
━━━創
俺の全身に光の粒子が集まると姿が変わっていき、光が収束すると目の前に居るエルフのお姉さんと瓜二つになった
「どうでしょうお二人様。オプション料金を払えば際どい衣装も披露できますけどいかがです?」
唖然としているの2人に対し俺は挑発的なポーズを取ってアピールする
「なっ...私の姿で変な事しないで下さい!」
「すごい...姉さんに瓜二つで綺麗だ! 確かにこれなら大丈夫かもしれません!」
耳を赤くして怒るお姉さんとは対照的に弟さんは俺の姿若干乗り気だったので少し遊んでみた
「でしょ? ねぇ弟くん...今からお姉ちゃん弐号機と2人でイイ事し・な・い...?」
「えっ...///」
「お客様。これ以上私の姿でふざけると魔法で土に還ししますよ」
「すみません...戻ります...」
先程耳を真っ赤にしていた人とは思えない程ドス黒いオーラを放つお姉さんに俺は目を合わせられなかった...
「本当にこんなふざけた人が私の代わりで本当に大丈夫なのかしら...」
お姉さんが俺に呆れていると宿屋の扉が開いた━━━
「すみませーん、ここに銀髪で死んだ目をした男の人が来ませんでし...ジュノ! やっと見つけた!」
「やあパトラ、宿の確保と明日四天王のビーフシチューにされる人見つけたよ」
「その言い方やめてください...」
「やあじゃないよ全く...ってエルフさん!? 森の精霊と呼ばれる方が宿屋さんを営んでるなんてビックリ...初めましてパトラって言います」
パトラはお姉さんに丁寧に会釈をした。
コイツ俺の時はそんな仕草一度も無かったぞ!?
なんなんだこの扱いの差は!
「初めまして私はエルフのソフィア、こっちは弟のリアム。貴方の仲間のジュノ...さんが私達の代わりに生贄になるって話をしてまして...本当に信用して大丈夫でしょうか?」
「はい、確かに飄々とふざけた態度に加え死んだ魚の目をしてますが悪魔のように強いのは間違いないので安心してください。決して無駄死にはしません」
「死んでて悪かったな、あんまり評判を下げるとエルフさんが俺を汚物だと認識して俺は森の肥料にされるんだぞ」
「そんな事しませんよ、死んだ魚の肥料なんて何の栄養にもなりません」
なかなかキツイ事言うねお姉さん...
「そんなことより先程の変身はジュノさん本人にしか効果が無いのでは...?」
「それが違うんですよ、便利なもんでこの赤髪も変身させる事が出来ますからちょっと見ててください」
━━━創
パトラが光に包まれ徐々に姿が変わっていく。
尖った耳にサラサラの髪、今以上にすらっとしたスタイル、そして━━━
「これは凄い...! 完璧ですよ! もうそのまんまです!」
イケメンにベタ褒めされたパトラは顔を赤くして手を下半身の付近でモジモジさせている━━━
「そ...そうかなぁ...そんなに綺麗です? 恥ずかしいよリアムさ.......へ?」
「ああ綺麗だし似合ってる、弟さんに瓜二つのイケメンだよ━━━股間も」
パトラの股にはリアムさんのエルフがガッツリぶら下がっていた。
それもそのはず、俺が変身させたのは弟のリアムさんだったからだ。
パトラの顔はみるみるウチに赤くなっていく━━━
「い...いやぁぁぁぁっ!! 最っ低!! なにしてくれたのよジュノ! 早く元に戻してよ!」
「なにって...ナニがついたエルフだけど? それより最低なんてリアムさんの
「ジュノくん...貴方の股についてる
パトラは虚無の顔で刀を抜いて俺の首元に刃を突き立てる
「2人とも...あまり私達の総称を馬鹿にしないでもらえますか?」
俺たちのやりとりにソフィアさんはハイライトが消えた目とドスの効いた声で凄んできた。おっかねぇ...
「すみませんこの男のせいでつい...明日はちゃんと仕事しますのでお許しください」
「ごめんなさい...ちゃんとするんで今晩泊めてください...」
「はい...ただ一部屋しか空いてませんので2人で仲良く寝てください」
「うーわ...またかよ」
ソフィアさんの目元に影が残ったまま俺達は部屋に案内された━━━
* * *
━━━翌朝
「ゴミエルフ! ここに居るのは分かってるんだ大人しく出てこい! 今日はお前達をドラヴィロス様へ献上するためやってきた! ゴミのお前達からすればこれは大変光栄なことだ! ここを開けろ!」
宿屋の前では魔物の怒声が響き、ドアの前に魔物が大勢いる気配をロビーのカウンターに隠れていた俺達は感じていた━━━
「おーおー肝っ玉母ちゃんの起こし方より激しいな。これがもし休日なら確実に親子喧嘩勃発してるね」
「こんな時によくそんなこと言えますね...それより本当に大丈夫なんですか? 相手は四天王なんですよ...」
昨日の怖い表情とは打って変わりソフィアさんは俺たちに小声で心配してくれた
「安心してください、これでも魔族語検定2級なんでコミュニケーションは完璧です。口八丁手八丁でなんとか切り抜けますよ」
「その姿で手八丁するのはやめてください...とても心配ですいろんな意味で━━━」
「ジュノ...一ついいかな?」
「なんだ? そろそろ敵陣に行くから手短頼むぞ」
「ねぇ、なんで私がまたリアムさんの姿なの? 去勢の続きをしたいの?」
昨日のお試し変身と同様に俺がソフィアさん、パトラがリアムさんの姿にそれぞれなっていた
「なんだそんな事か...これには考えがあるんだ、恐らく後々意味が分かるさ」
「全く...もしふざけた理由だったら後で斬り落とすからね」
「ああ、好きに斬り落として俺を女の子にしてくれよ」
「あの...一応もうなってますジュノさん」
「あ...行ってきます」
俺とパトラが宿屋の扉を開けると目の前には槍を持ったリザード族が大勢で横並びしており、その中のリーダー格と思われるトカゲがイライラを爆発させながら俺たちに迫った
「遅い! 貴様ら何をしていた!? まさか逃げるなど企んでいた訳ではないだろうな!? もしそのような事をすれば女は我々の慰め物にした上末代まで皆殺しにするぞ!」
「違います! どっちが先にドアガラス様のハンバーグになるか相談してたんですよぉ...ふぇぇ...」
「
一応ソフィアさんの真似をしてみたがあんまり意味はなかったな...
「ひぃっ! すみませんでしたぁ! 食べやすいように今から脱げば良いですか? 服があると歯に挟まりますもんね!? わかりました!」
「バカ! なにやってるの!」
「痛っ...」
ソフィアさんから借りた上着に手を掛けるとリアムさんに変身していたパトラにぶん殴られた
「ふん、ふざけた女だ今から苦痛を味わうというのに...。くだらない話は終わりだ! コイツらを拘束しドラヴィロス様の元へ帰るぞ!」
俺とパトラは身体を縄で縛られリザード族が乗ってきた馬に乗せられて山奥に運ばれた。
領主といい四天王といい生贄に対するツッコミどころしか無いが俺には関係ないから良いか...
それに今回は勇者達にダメージを与えないモノだしさっさと四天王とトカゲをすり下ろして帰ろう━━━
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