第36話 加護の能力と王都
「奴は......神から授かった加護の効果であらゆる人間や魔族を殺した後、その魂を吸収して自分の力に変えることができる。特筆すべきはその能力を付与された人物が愛する者を殺した時に抜けた魂を吸収するとヤツの能力は大幅に上がるそうだ、その想いが強い程に......!」
なるほど......俺にしか見えないあの黒いオーラは加護を付与された者が発するのか......?
「随分と物騒な加護だな......どっちが魔神だよ。それで?」
「勇者に殺された者は奴の力の一部となり、神であれどんな者でも生き返らない。だから言い伝えでは不死の命を持っているとされる魔神様を唯一殺せる存在だそうだ」
「俺の知り合いが傷を無くしても魂が元に戻らなかったはそういう意味か......その能力で人は洗脳出来るのか?」
「それは違う、加護の付与は相手が希望しない限り付与する事は出来ないはずだ......他に魅了や洗脳のスキルがあれば別だがな。お前はこんな事知ってどうする? 魔神様でない限り勇者には絶対に勝てない......確実に殺されるぞ! ふふっ......はははっ!」
ドラヴィロスは全てを結末を知ったかのように俺に嘲笑う。
「よし、聞きたい事は聞けたな」
俺は右腕を振り上げる━━。
「おい......質問には答えただろ!? 僕を見逃してくれよ! おい!」
「悪党って死ぬ前はみんな同じ事言うんだな、どっかの元剣神も同じこと言ってたよ。心配されなくても勇者は確実に俺が殺す......先に逝け━━」
ザシュッ......。
ドラヴィロスの顔は真っ二つになり地面に転がった。
「勇者の加護か......魔神を殺してなかったのは殺せるようになるまで力を蓄えていたのか?」
俺が考え事をしていると泡に閉じ込められているパトラが膜を叩いて俺を急かす━━。
「ちょっとジュノ......! いい加減ここから出してくれない?」
「あ、ごめんごめん今出すから」
俺は指を鳴らし泡を弾けさせたがパトラは受け身が取れず地面に倒れた。
「いたたた......四天王の1人を倒すなんて凄いよジュノは」
「えへへよせやい! 褒められると俺はケツが緩くなるんだ」
「それはマジでやめて。こんな洞窟で漏らされたらそれはもうテロだから」
「わかったよ。とりあえず通路にあった遺体を埋葬してから下山だね」
「うん、領主様にも報告しないとね。あーあ結局剣神のスキル発揮できなかったなぁ」
「近々発揮できるようになるさ」
俺達はドラヴィロスの残骸を持って街に降りた━━。
* * *
「おかえりなさい! 本当に無事に帰ってくるとは思いませんでした!」
俺達は宿屋に戻りソフィアさんとリアムさんに再会した。
「ただいまです。口八丁手八丁でなんとか倒しましたよ。いやーキツかったー!」
「ジュノ、嘘は良く無いよ。その手八丁で最後ドラヴィロスの顔を嬉しそうにサクッと引き裂いてたじゃん」
「えっ......」
ソフィアさんの顔が引き攣る。
そりゃそうだよな......そこだけ聞くと俺がまるで快楽殺人者みたいじゃん。
コイツに空気を読むスキルを付与したい━━。
「そんな解体ショーみたいな事してませんよ。それよりソフィアさんと部屋でショーを楽しみたいなー」
「本当に冗談は顔だけにしてください......火の精霊よ、この者に━━」
「あぁぁぁっ! ちょっと待ってソフィアさん! ジュノ! ソフィアさんを怒らせないで!」
ソフィアさんは俺のジョークに目を糸みたいに細めて今にも攻撃魔法を放とうとしていた。
「ひぃぃぃっ! 今日はもう一回丸焼きになったんだ! もうバーベキューは勘弁してください!」
「なんて冗談ですよ。ふふっ」
いや完全に目が本気だったよこの人......!
俺この人に変身出来てもこんな怖い顔できる自信無いな......。
「とりあえず領主様の元に行こうよ。また後で帰って来ますね」
「はい、いってらっしゃい」
* * *
領主邸内にて━━。
「初めまして、君たちがドラヴィロスを討伐したとは本当かい......?」
俺の目の前に居るのは綺麗なコートを纏いブーツを履いたいかにも高貴そうな若い領主の男性だった。
彼の右手からは義手がチラリと顔を覗かせていた━━。
「はい、これを見れば御納得頂けると思います」
領主は俺が討伐したことに疑問を持っていたので
「これはまさしく......本当にありがとう! 君たちが来てくれなければ私の街は終わりを迎えていたよ」
「もう少し早ければ被害者が少なく済んだ事は悔やまれますけどね......それより一ついいですか?」
「なんだい? 質問にはなんでも答えるよ」
「何故一日に生贄を2人差し出す提案をしたんですか?」
「それは......一気に襲われて壊滅するより少しでも引き伸ばして早く勇者に来てもらうよう王都に願い出した上でドラヴィロスに交渉をしたんだ。けど苦肉の策だった......私の右腕と左足はドラヴィロスに持っていかれ、多くの人が亡くなったしな。本当に申し訳ない......」
義手はその時の代償だったのか......。
結局勇者は来ず王都は物資を支援しただけで根本的な解決にはならなかった訳だ、酷い話だな━━。
「そうでしたか......痛み入ります」
「お嬢さんも本当にありがとう、ドラヴィロスに恐れず立ち向かってくれたこと本当に感謝する。その綺麗なお顔に傷がつかなくて良かった」
「ひょっ....../// 綺麗ってそんな......へへへ、私は何もして無いですよ」
領主の言葉にパトラは目を丸くして顔を赤くなり、髪の毛を弄ってモジモジしている。
「そうなんですよコイツ何もしてないですからね、刀持ってメソメソ泣きながら突っ立ってたただけですからね」
「ちょっと! 余計なこと言わないでっ!」
俺の言葉にパトラは目を三角にして顔は鬼の形相になり、俺の髪の毛を引きちぎろうとしている。
「いだだだだっ! 首持ってかれる! 俺がドラヴィロスになる!」
「まぁまぁ落ち着いてお嬢さん。それでこの件を王都に伝えなければいけないんだが討伐した君たちの事を伝えても良いかな?」
悩みどころだ......フェルという名前でドラヴィロスの首を送りたかったが━━。
「伝えると何か王都から通達とかありますか?」
「今回は四天王討伐だから恐らく王都からは勲章の授与と報酬があると思う。もしかすれば実力を認められて勇者一行と次の四天王に向けて行動を共出来る可能性があるぞ」
なるほど......それはそれでいろんな策が思い付いてワクワクするね。
ついでに母さんとリーゼの顔も
俺が悩んでいるとパトラが小声で話しかけてきた。
「ねぇ、私の正体は大丈夫かな? 一応勇兵団に入っていたし面も割れてる可能性が━━」
「そこは俺の力で同一人物と思わせない迷彩をするから大丈夫さ」
「は? そんな事できるなら私の髪を......」
「何を相談しているんだ? 王都に知らせて良いのか?」
「あ、はい大丈夫です」
「では明日の朝にこの首を王都へ届けるように手配しよう、その時に君たちも同行してもらうが構わないか?」
「構いません」
「ところで......君たちの名前は?」
「僕の名前はジュノ、こっちのおっかない方はパトラ。そして本当は3人目が居たんですけどさっきソイツを倒した後居なくなってしまって......」
「3人目? その者の名前は?」
「フェルという僕と同い年くらいの男でした」
とりあえずここは嘘をついておこう。
ぽっと出の男女がいきなり四天王を倒したとなれば確実に怪しまれるからな......それに俺の正体がフェルだという事はまだ悟られたくない━━。
「わかった、居ないのは残念だがその事も書面で伝えよう。ではまた追って連絡する、宿屋はどこに泊まっているんだ?」
「エルフのソフィアさんが経営している宿屋です」
「あそこか......良い宿屋だ。彼女が今日の生贄になる予定だったが、無事で本当に良かった」
「本当にそう思います。では失礼します」
* * *
俺達は領主の家を後にしソフィアさんの宿屋へ戻ってきた━━。
「おかえりなさいませ、ジュノ様パトラ様」
「どうも、今日は疲れたからもう部屋に行きます。それと明日2人で王都に行く事になったので明日チェックアウトしますね」
「承知しました。ではごゆっくりお寛ぎください」
俺達はまた2人で1つの大きな部屋で朝を待つ事になった━━。
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