第31話 王都と勇者


 ジュノが村を出た翌日の王都にて━━。


 1人の兵士が青ざめた顔で王室の扉を勢いよく開けた。


 

「失礼します! 国王様、只今城内に勇者様は居られますしょうか!」


 慌てる兵士に国王は少し不機嫌な表情を見せる━━。



「騒がしいぞ、勇者殿は今日四天王の1人『マレフィクト』討伐のため転移魔法で『メディウム』に向かい一行の者達と合流しているはずだが......」



「では城内に居られないのですね......」


「どうしたのだ、王都騎士団団長のお前がそんなに慌てるなど......何かあったのか?」



 騎士団長は少し呼吸を整えて国王へ報告を始めた。



「実は......たった今勇者様宛に届いた荷物の中に目を疑う物がございましたので御報告に上がりました。そして残念なことに勇者様御一行の1人はその合流場所に現れないと思われます......」


「ん? どういう意味だ! 早く申せ!」


「はっ! 届いた荷物の中に......剣神サーシャ様の頸部が発見されました......」


「なに!? それは本当か!」


「間違いございません。遺書も同封されておりましたので......」


「信じられん......遺書にはなんと......?」


「簡潔に申しますと《テュシア》という村で勇者様に頼まれ村人に人体実験を繰り返してしていた事。それをフェルという少年に見つかり殺そうとしたところ、逆に説得され罪の意識を感じ自分で首を刎ねるといった内容でした......」


「人体実験!? そんな非人道的なものは私の耳に一切入っていないぞ......勇者殿に一度話を聞く必要があるな。使者を送って剣神が亡くなった事と四天王討伐後王都へ帰還するよう勇者殿に伝えよ。それとフェルという少年も探すのだ!」


「はっ! 承知致しました」



 国王は勇者が現在居るメディウムに使者を遣わせた━━。



*      *      *

 


 メディウム内勇者拠点施設にて━━。



「なんだとっ! サーシャが死んだなんて......そんな......。ありえない......誰が......誰が殺したんだ!」



 サーシャが亡くなったという衝撃の事実に勇者は整った顔を激しく歪ませ頭を抱えていた。



「それが......自害したそうです。王都に遺書とサーシャ様の頸部が入った箱が届きました」


「頸部だと! 誰かに首を斬られたんじゃないのか!?」


「いえ、遺書の内容によると自分で刎ねたそうです。剣神様ですから自らの首を落とすくらい恐らく可能かと......」


「自らの首を切り落とすなんてそんなバカな......遺書にはなんて書いてあったんだ?」


「その件で国王様から勇者様に話があるそうです。剣神サーシャ様が不在の中で四天王討伐は大変な苦難かと思われますが、討伐後王都へ御帰還をお願い致します」


「分かった。しかし不自然な点だらけではないか? そもそも誰が遺書を届けたのだ? それに頸部も」


「それについては遺書の中ににフェルという名前の少年が記載されており、サーシャ様の最期を看取って王都に届けたと思われます」


「フェル!? この前勇兵団の首を届けた奴と同じ名前じゃないか......どう考えてもそいつがサーシャを自殺に見せかけて殺しただろ! クソッ!」


「それは分かりません。しかしその事より重要な事が書いてありましたので何度も申し上げますが王都へ御帰還お願い致します」


 使者は勇者の動揺に若干ひきながらも再度帰還を念押しした


「ああ......。分かったから......もう帰ってくれ......」


 勇者の一言に使者は施設から去った。

 そして勇者は使者を見届けたあとすぐに膝から崩れ落ちた━━。


「あのサーシャが死ぬなんてありえないだろ......アイツは最強の剣士なんだぞ......! それにもしあの事がバレたら遺書の内容によっては......」



 不安定な仕草を見せる勇者に美人な女性が抱きしめる━━。



「落ち着いて下さいませ勇者様。全てサーシャ1人のせいにすれば良いのです......死人に口無しというやつですよ。それに魔神を唯一倒せる者とされる勇者様を処分しようなどとは国王様も思ってはおりません」


「そ、そうだな......! ここ最近でかなり力も増してきたしサーシャが居なくても四天王を倒せるだろう。それよりフェルとは何者なのだ! 一体俺になんの恨みが! クソッ!」


「━━フェルとは昔居た私の息子と同じ名前ですね」


「息子か......。俺の力によって出会った時から歳を取らないエレナに慣れていたから忘れていたよ。でも俺の記憶が正しければそいつはリーゼが絶望を与えながら殺したはずじゃ......」


「ええ、リーゼは間違いなくフェルを殺しました。死体もありましたし...名前の一致は偶然でしょう。んっ......」



 大聖女エレナはトロンとした目で勇者を見つめ妖艶な笑みを浮かべながら勇者に口づけをする━━。



「ふっ......無様に死んだ息子を思い出して昼から興奮しているのか? あの時母親のお前を奪った時のガキの顔を思い出したら俺も興奮してきたよ......」


「ふふっ勇者様ったら...私にはもう息子なんて居ません...この不老の肉体は全て勇者様の為のもの。さぁ続きを始めましょう? 私そろそろ勇者様との愛の証が欲しくて欲しくて堪りませんの......」


「良いだろう、いくらでもエレナの奥にくれてやる。リーゼにも昨日同じ事言われてな、アイツにも俺の証を奥深く刻みつけてやったよ」


「リーゼとの事を言うなんて意地悪......私の方が勇者様を愛していますの。早く私にご奉仕させて下さい......」


「ああ、他のメンバーが来る前にな、今日はいつも以上に熱く激しいものになりそうだ......!」



*      *      *



 同時刻━━。


「私の村から馬車乗り継いで来たけど四天王全然遠いよね......」


「ウルティアにいた馬車の親父め話盛りやがったな。村の近くに居るっていうから殺そうと思ったのに......」



 村の近くの山に四天王が居るという情報を得ていたので村に被害が出る前に殺そうと山を探したが一向に見つからず俺たちは少し離れた街の近くまで馬車で来てしまっていた。



「今日は宿屋に泊まりたいよぉ! 街で買い物したいよぉ! 早くシャワー浴びたいよぉ! ジュノぉぉ......!」



 パトラは馬車の中でうずくまりながらブツブツ文句を言っている。



「もう少しで着くから我慢してよ。街に着いたらバケツの水をたっぷり掛けてあげるから」


「そんな動物チックな水浴びじゃなくて普通にシャワー浴びたいの。というかジュノはなんでも創れるし消せるんでしょ? そこら辺にホテルとか作って欲しいなぁ」


「良いよ別に創っても。でもそしたら俺はホテルを拠点に街を広げて畑耕してエルフとかいろんな種族が何故か”女限定”で住み始めるハーレムなスローライフを送るよ。討伐についてはそうだなぁ、なんやかんや五の次くらいになるけど良い?」


「それは絶対嫌。ジュノがスローライフして女を侍らせる光景なんて見たくない......」


「でしょ? 俺もそんなの冗談じゃないね。だから創らないんだよ」


「ふーん.....でも意外だね、いつもはすぐ口説くような軽口言うのにさ。そういえばルシア姉を断ったのもちゃんとした理由だったよね。でもジュノの事だから本当は他にも理由があったりして......///」


 パトラはモジモジしながら頬を赤らめて下を向いた。

 その質問には正直に答えないといけないよな...


「うん、あるよ」


「えっ! なになにそれってまさか私と......2人で? キャッ......///」




















「ヤリ◯ンハーレムゴミクズ男って目で俺は周りに見られるのが死ぬほど嫌で断った」


「......は?」


「いや死んだ方がマシかな? 俺は勇者サマみたいな取巻き女が多いパーティが死ぬほど嫌いなんだよ、その中心で悦に浸ってる男もね。アレ見てると神様から眼球に唾吐かれたような気分になる」


「そ、そんなしょうもない理由だったの!? でも取巻きにも戦力になる人は居るはずだし、ジュノはスキルを分け与える事できるから足手纏いにならないと思うけどなぁ......」



 パトラは俺の意見に納得言ってないようだ。

 だが俺にも言い分はある━━。



「あのね、そういうクソ女の大概はその男と行動したいんじゃない......その男の見た目や能力肩書きと行動したいんだよ。そんなアクセサリ気分の連中にパトラは命を預けられるの? 俺ならレンタル彼女雇ってスマートに体を預けるね」


「なんかジュノって性格捻じ曲がってるよね......」


「ねじ曲がってて悪かったな取巻きその1」


「誰が取巻きよっ! そもそもレンタル彼女に体を預けるのは禁止事項だからね」


「え......そうなの? 四天王討伐キャンセルしてそこら辺のエルフ引っ掛けてスローライフ送ろうかなぁ」


「絶・対・ダ・メ! さっきと言ってる事矛盾してるしそもそも彼らは奴隷にでもされてない限り簡単に見つからないよ?」


「それはわからないぜ、もしかしたらそこら辺の森に生えてるかもしれないじゃん」


「エルフは森の守り人であって植物そのものじゃないよ! それにそんな死んだ魚の目じゃエルフなんて絶対落とせない。冗談は終わりにして夕飯と宿屋を探しましょ」


「えぇぇぇ......」


『全く......。でも私が一緒に居てもいいのは私には命を預けられるくらい信用してるって事なのかな......? もしそうならちょっと嬉しい』


 俺はパトラの言葉に憂鬱になりながら馬車を降りて次の街に足を踏み入れた━━。

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