第30話 出立の準備


 ルシアさんの雰囲気に俺は言うべき事をすぐに察した━━━


「ルシアさん...ベッドシーツのシワなら伸ばしておきましたよ」


「はい...?」


「こらジュノ! どうしたのルシア姉?」


「あのね...私もあなた達と行きたい...一緒に旅をしたいの...」


「ルシア姉!?」


 ルシアさんの目は本気だった。

 そして俺の気持ちは決まってる━━━


「うん...ジュノくんダメかな...?」
























「━━━ごめんなさい」


 ルシアさんは困惑と納得がいかない表情で俺に迫る


「やっぱり私じゃ足手纏いだから...? トラちゃんと違ってただの一般人だから...?」


「いや...それは...」


「ジュノくん...理由を教えて欲しい」


「...ルシアさんにはここで保護対象になる人たちと平穏に過ごして欲しいです。俺は魔神を倒して世界平和とか勇者サマと違って立派な理由で行動してる訳じゃないので巻き込みたくありません。なのでお気持ちは嬉しいですが今回は━━━」


 俺が理由を述べるとルシアさんは少し悲しそうな顔をして下を向いた


「...分かった。本当はトラちゃんへの贖罪を兼ねて一緒に行動したかったんだけど...ジュノくんがそういうならこの村でやれることをするね」


「ルシア姉...。私必ずこの村に帰ってくるからさ...その時は出迎えて欲しいな」


「トラちゃん...ありがとう」


「俺も本心ではルシアさんに毎晩...裸エプロンで出迎えて欲かったんですけどね」


「は? 死ね」


「......やっぱついていかなくて正解かも」


「俺...もう寝ます...」


 俺は逃げるように先程まで過ごしていた部屋に戻った



*      *      *


 

「ジュノ入るよ...」


「なんだ? ルームマッサージを頼んだ覚えはないけど」


「気を遣ってノックしただけだよ...他に部屋が無いの知ってるでしょ?」


「雇用主に気を遣って道端で寝るかと思ったよ」


「最っ低...それよりスキルの件なんだけど本当に私貰えるの?」


「うん...ちょっと袖捲って腕出してもらって良い?」


「分かった......ひゃっ!」


 俺はパトラの腕を手で掴むと体温差で冷たく感じたのか少しびっくりしていた


「冷たかった? 手が冷たいと心が温かい証拠だから悪いな」


「そ...そういう事じゃなくて...さぁ早くやってよね」


「分かったよ、少しむず痒いかもしれないけど我慢してね」


 ━━━創...神能伝授かみのでんじゅ


 力の発動と共に青白い光が俺の手からパトラの腕に流れ込む━━━


「んん...あぁ...なにこれ...変な感じ...んっ///」


「本当は別の方法が手っ取り早いんだけどコンプライアンスに引っ掛かるからこれで我慢してくれ」


 光はさらに大きくなりパトラの顔もそれに伴い赤くなる


「んん...あぁ...あん...///」


「おい! あんま大きい声出すな御近所迷惑だろ!」


「そんなこと言ったって...んんっ!...ダメ...!」


 パトラは部屋に響くくらい大きい声を一瞬上げてしまった
















 バタンッ!


「トラちゃん大丈夫!?」


 勢いよく扉が開きルシアさんが真っ青な顔をして部屋に入ってきたが━━━


「あ...ごめんなさい2人はそういう...お邪魔しちゃったわね...」


 ルシアさんの目には俺がパトラの腕を掴んでこれから事を始めるように見えたんだろう...


「ち...違うのこれは!」


「そうです違うんです! パトラには俺の渾身のスキルを奥深くまで授けようと!」


「おい変態教祖みたいな言い回しやめろ! ルシア姉これは違くて...!」


「そうです! よよよよかったらルシアさんにもスキルを...」


「余計に事をややこしくしないで! 殺すわよ!」


「いいの...私は耳栓して寝るからごゆっくり...ただあまり家を揺らさないでね...」


 俺の必死な弁解はルシアさんの心に全く届かず引き攣った顔で部屋に戻っていった...



「おいジュノ...」

 


 その後パトラにはルキの一撃よりキツいビンタを受けたが無事に剣神のスキルはパトラに受け継がれた━━━



*      *      *



「あの...おはようございます」


「お....おはようジュノくん...顔腫れてるよ?」


 顔の腫れを力で無くす事も忘れて寝てたんだった...


「ふん...ジュノが悪いんだから仕方ないよね」


「パワハラだ...何もしてないのに...」


「ま...まぁ2人とも朝ごはん出来てるから食べてね」


「「生ハムじゃないよね!?」」


 俺達にあの恐怖がよぎる━━━


「違う違う! ちゃんとした何も入っていないご飯よ。ただこれ以外は汚染されてるからこれしかなくて...ごめんなさいね」


 目の前に出されたのはこんがり焼かれたパンにバターが乗っており食欲をそそる香りが鼻をくすぐる


「気にしないでルシア姉、いただきまーす!」


 パトラは余程腹が減っていたのか大きく口を開けてパンを頬張った。

 サクッと音を奏でてパンが口に入る度にパトラは頬をおさえている


「ジュノは食べないの?」


「ん? ああ...俺は...」


「ふふっ...あまり無理しなくても良いわ。また今度ゆっくり食べに来てね」


 ルシアさんは俺の反応に気を遣ってくれたのか会話の間に入ってくれた。


 そう━━━俺は集会所でオレンジを飲んだ時食べ物や飲み物をまともに味わう事が出来ない事に気がついた。

 これがルキから与えられた力の副作用なのか分からないが、もしそうであれば他にもなにか影響を受けている事があるかもしれない...


「ごちそうさまでした」


「じゃあ俺は行くよ」


 俺は昨日言った通り施設に向かった━━━



*      *      *



 施設内の球体に閉じ込められている人を全員救出して魔薬の効果を解いた後、中途半端に施設を破壊をした。


「...これが本当の首ったけだな剣神サマ」


 あらかじめ用意していた遺書と剣神の首を包んだ布を箱に纏めた後、村に訪れた配達屋に王都宛で届けさせた。


 そして他の村人も治した俺は再びルシアさんの家に戻った


「おかえりジュノ。もう出発する?」


「ああ、仕事は済ませたしな...パトラはどうする?」


「どうする? ってついて行くに決まってるじゃん。他の仇はまだ生きてるんだし...」


「えぇ...スキルあげたんだからもういいよ帰れよハウス!」


「何それ最低! 私をここで捨てる気?」


「ジュノくん...ヤリ捨てはダメだよ...」


「そんなことしてませんから! パトラ弁明しろよ!」


 パトラは俺に向かってニヤリと笑った後、

 涙を流し始めその場にしゃがみ込んだ。

 

 コイツまさか━━━!


「ふぇぇ...私...初めてだったのに...ぐすっ...うわぁぁん!」


「おい嘘つくなよ! 違います俺は...!」


 ルシアさんは癒し系の顔からは想像出来ない氷のような目で俺を見下した


「ジュノくん、責任は取ろうね?」


「...はい」


 女怖ぇ...。

 結局俺はパトラとお別れできず一緒に旅を続けることになった。

 

 そして翌日王都に届いたとあるモノによって王都内で騒動が起きた━━━

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