第26話 本当の姿


「何故サーシャ様がここにおられるんですか......!」 



 パトラの質問にサーシャは冷たい表情を見せる━━。



「貴様の質問に答える必要はない、それよりもこの場所を見られたからには全員死んでもらう。さあ殺れ!」


「ク゛ル゛ゥ゛ゥ゛オ゛ア゛!」



 サーシャの呼びかけと共にキメラは再びパトラに襲いかかった━━。



「何でコイツはサーシャ様の指示に従ってるの......。サーシャ様は命の恩人......だけどまさか......!」



 パトラの剣筋がわずかにブレる━━。



「パトラ迷うな! そんな暇があったら目の前の敵を倒す事に集中しろ!」


「っ......! うおぁっ!」



 俺の檄で集中力を取り戻したパトラは紙一重でキメラの爪を刀で受け止めるが、衝撃波で肩に傷が入り血が吹き出す━━。



「くっ.......本当に一撃が重い! 長期戦は分が悪いわね......こうなったら!」



 キメラの重撃に対し傷を庇いながら捌きつつ刀に纏わせた火魔法を利用して相手の爪に熱を与え続ける。


 伝わった熱の温度に耐えられなかったキメラは鍔迫り合いから一瞬身を引いた━━。



「ク゛ゥ゛ゥ゛ア゛ア゛!」


「隙ができた......! 奥義━━、焔之三日月ホムラノミカヅキ!」



 居合の構えから火花を散らし抜刀に入る。

 キメラが間合いに入った瞬間、居合斬りに火属性が加わった連撃をキメラに与えダメージを負わせた━━。



「ク゛ァ゛ァ゛ァ゛!」



 パトラの連撃は硬い毛皮の鎧を突き抜け分厚い肉を斬り裂き、真っ赤な血がキメラから吹き出した。



「まだまだ......! お前が死ぬまで切り刻んでやる! はぁぁっ!」


 パトラはキメラに更なる斬撃と炎で無数のダメージを与え続ける。

 血を全身から吹き出し毛皮を燃やしながらもキメラは辛うじて立っていた━━。



「はぁ......はぁ......まだ立ち上がる......元気があるとは......!」


「ク゛......ル゛......ル゛」



 キメラはフラフラの状態でパトラに向かって歩き出すが、最早爪を振り回す力など残っていない様だった。


 満身創痍で一歩一歩迫るキメラにパトラは力を振り絞り最後の居合を放つ準備に入る━━。



「やっと果たせるよママ......コレで最期......!」


 パトラは目を瞑り集中する。

 あの日の惨劇を脳裏に浮かべ刀に最期の力を込めた━━、





















「トラ......チャン......」











「え......?」









「トラチャン......」




「嘘......まさか......」



「そうだ......このキメラはルシアさんだ━━」


「......なんで......」



 パトラは力が抜けたように膝から崩れ落ちる━━。



「そんな......ママを殺したのが......嘘だ......嘘だっ!」


「残念だがこれがキツい事実の正体なんだ......」


 キメラは崩れ落ちたパトラに膝をつき首を差し出す。

 キメラの赤い瞳から血の涙が溢れた━━。



「トラ......チャン......ワタシヲ......コロ......シテ」


「ルシア姉......私......できないよ......」



 パトラは堪えきれず目からは涙が溢れるが、パトラに朦朧とした声でルシアさんは呼びかける━━。



「オネガイ......トラチャン......」


「そんな......そんなのって無いよ......! やっと仇を見つけたのに......あれだけ殺したかった仇がルシア姉なんて......!」


「俺だって信じたくない......でも事実なんだ。その惨劇がルシアさんの意思でやっていない事も」


「それって......もしかしてルシア姉は無理やりキメラにさせられたって事......?」


「ああ、恐らくここでは7年前から人間と魔物を合成させる実験をしていて最初の適合者がルシアさんだったのだろう。だからパトラの記憶の時はまだ子供の状態で変身していたから体が小さかったんだ。そしてキメラの時は自我を失って━━」


「そんな......」


「この村に来てルシアさんだけ違和感があった、妊娠していないのに他の人と違って紫のオーラが見えなかった事や俺に対する視線。そして家で世話になってた時に飲んでいた薬が恐らくキメラ化を制御する薬━━」


「ソウ......ワタシは7年前コノ部屋デ.....バケモ゛ノニ......」


「モウ......ダレモ......コロシタクナ......イ......。オネ......カ゛イ゛」



 ルシアさんの声が少しずつ獣の唸り声に戻っていく━━。



「私......出来ない......ルシア姉を殺す事なんて出来ない! だってルシア姉も被害者なんだよ......こんなの仇討ちじゃないじゃん!」


「トラチャ......コ゛ロシ......ワタシ......ナク゛ナル......マエニ゛......!」


「パトラ......ルシアさんを楽にしてやるんだ。君がどうしても出来ないなら俺が代わりに━━」



 俺の言葉にパトラは崩れ落ちた膝に力を込めてパトラは立ち上がる━━。



「いや......私がやる......!」



 涙を堪えて刀を構えた━━。



「バイバイ、ルシア姉......大好きだよ......」


「アリ......ガ......トウ......」












「ヤツの実験は失敗だったな......死ね化け物っ━━」





 グシャッ......!






 冷徹な声と共に肉と骨が切断される音が部屋に虚しく響いた━━。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る