第25話 村の真実

 

 女性達は俺に目掛けて押し寄せる。

 見た目は何故か全員下着姿でパトラと同じ紫色のオーラを口から吐いていたが、その中に妊婦は何故か誰1人いなかった━━。



「うひょー! モテ期って良いね! いつでもお手合わせしたいが......あいにく俺は追られるより迫りたい方なんでねっ」



 創━━。


 俺は少し離れた位置に分身を作り、自分と分身の位置を入れ替えた。



「ここはお人形に任せよう」



 分身は瞬間移動をこなして一人一人手加減しながら手刀で気絶させていき、最後にパトラが残った━━。



「悪いな変態女、少し眠ってもらうよ」



 ドスッ━━。



「っ......」



 パトラを気絶させた後、分身にパトラを背負わせて家の影に隠れた━━。



「パトラ戻って来い......」



 零━━。

 


 パトラに施されていたモノ・・を無くした━━。



「あれ......ここは......?」


「ようこそ天国へ。ただ美人のナースと裸の天使はあいにく留守だがな━━」


「は......? ていうかなんで私下着なの!? まさかジュノが!?」



 パトラは慌てて下着を腕で隠して恥ずしさと疑いの目で俺を見る━━。



「お前の裸を見るくらいならオークの裸を舐め回すほうがマシだよ。それに俺は同意書にサインした上でするタイプなんだ、なんなら今からペンと公証人を手配しようか?」


「なんですって!? でもジュノが何もしてないならコレは一体......」


「━━生ハムだよ」


「生ハムって......ルシア姉が用意してくれた?」


「十中八九間違いない。俺の力でパトラの体を《神の眼》でレントゲンしたら生ハムから紫色の悪いオーラがバッチリ見えた」


「そんな......ていうことはルシア姉がこんなことを?」


「それはどうかな......それよりもね━━」


「どうしたの?」













「口から香ばしい匂いがするから少し離れてくれ、俺は生ハムの匂いが大っ嫌いなんだ」


「なっ......最っ低!」


「そんな事言ったってしょうがないじゃないカァ。そうじゃなくてもオーラ自体で今臭いんだから母さんは......」


「そ、それは仕方ないじゃない! それに母さんて一体誰のモノマネよ!」


「シッ! 応援団みたいな声出すなよ、あっちに女以外のヤツが今いるんだ......」


 パトラが耳を澄ますと特徴的な獣の唸り声と何かを噛んでいる音を感じていた━━。


「この声......もしかして......!」


「ああ、魔物の可能性が高い。とりあえず瞬間移動で部屋に戻ってパトラの刀を取り行こう......手を離すなよ」


 俺はパトラを連れて部屋に戻りパトラの身支度を整えて外へ向かった。

 


 そして唸り声がする方へ俺たちは向かう━━。



「あの家だ......」


 目の前にある他より大きな家から地の底から響く低い唸り声が聞こえる。

 音を立てずに中に入ると肉をちぎる音と血の匂いが鼻に纏わりつき暗闇の中からその正体が見えた━━。



「アイツは......






















 私の仇だ━━!」



 現れたのは全身を覆う針の様な鋭い体毛、月明かりで鈍く輝く長い爪に蛇の様に長い尻尾、そしてライオンの様な顔に赤く光る瞳をした二足歩行の化け物だった。

 

 化け物は踏んづけていた男の死体の一部を貪りながら赤い瞳を揺らし、獲物を見る様に俺達を睨みつけている━━。



「初めて見る魔物だ......殺したら動物図鑑に追加しないとな」


「7年掛けてやっと見つけた......今夜ここで必ず殺す━━!」



 キメラは地獄の底から響くような唸り声を上げて俺達に襲いかかる━━。



「ウ゛ゥ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ゛!」



 興奮した猛獣を思わせるようなガムシャラな動きで長い爪を振り回し、魔物はパトラに攻撃を加える。



「あれ? 前より刀が軽い......もしかしてジュノが?」

 

 パトラは俺が創った刀でヤツの攻撃を受け止めるが、パワー差が大きいため踏ん張っているにも関わらず足が後ろに引きずられてしまう。



「くっ......なんて馬鹿力だ......!」



 なんとか刀で爪を振り払い、次の攻撃を繰り出すために鞘を刀に収める━━。



焔刀えんとう居合......煉獄斬り......!」



 鍔から火花を散らして抜刀を加速させ、以前より増したその速さでキメラの首元に向けて刀を思い切り振り抜く━━。



「やっぱり前より刀の攻撃が強化されてる......でも......!」


「ウ゛ル゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛」


「......まさか私の居合をモロに喰らって無傷とはね。流石にショックだよ━━」



 キメラは首元へ斬撃を喰らったが硬い毛の防御力で刀との摩擦による煙が上がっただけだった。



「でもまだまだ始まったばかりだ......絶対に殺すっ......!」



 パトラは火属性魔法を刀に纏わせ連撃を繰り出す。

 その攻撃にキメラは難なく対応し爪と刀の鍔迫り合いが発する金属音が何度も響く━━。


 

「クソッ! ここで7年間の復讐を終わらせるんだ! 紅蓮乱星ぐれんらんせい!」



 火属性魔法を腕の振るタイミングに合わせて放ち連撃を加速させると同時に炎でキメラにダメージを与える。

 するとキメラの体毛に炎が移り体中が燃えて暴れながら地下に続く階段の奥へ逃げていった━━。



「待てっ! お前だけは絶対に逃さない!」



 キメラの後を追って階段を急ぎ足で駆け降りる、




 そして降りた先に見たものは信じられない光景だった━━。



「なに......これ......」


「ここは......研究室だ」



 一階の内装とは全く異なる鉄の壁で覆われた部屋には液体で満たされた透明な球体がいくつもあり、その中には女性が眠った状態で保管されていた。

 

 そしてその内の1人が苦しみ出したと同時にお腹が一気に大きくなり、その女性は再びなんらかの方法で眠らされたのか目を閉じた━━。



「コレが妊婦の正体......」


「ああ、恐らくこの中で胎児の成長を早めるんだろう。そして生まれた後もこのカプセルの中で成長を続け、成熟したら外に出て男を見つけ妊娠し再びこの中に......」


「そんな......この人達に人としての意思はないって言うの......?」


「ああ、俺の推測が正しければパトラがおかしくなったあの食べ物に原因がある。この村の物を口にすると女は操られ性に活発になり、男は思考力が鈍くなる。だからすれ違った女の一部は俺を舐め回す目で見てきたし男達は対照的にボーッとしていんだ。パトラがここの一員にならなくて良かったよ━━」


「あの生ハムにそんな効果があったなんて......」


「ここの食い物は確実になんらかの魔術で作られたモノだ━━。この村の女性はこの部屋で生まれた者、もしくは俺達の様に外から訪れて此処の食べ物を口にした事により操られた者の2種類がいる。逆に男は全員外から連れてこられた人達でキメラの餌を兼ねた繁殖用のオスだろう。そして......」



 俺は部屋の隅に女性の遺体が積み上げられている方を指差した。



「アレは恐らくココの実験で用済みになった人達だ。つまり今外にいる女の人たちはその実験用のモルモットを作らされている状態だろうな━━」


「酷すぎる......。誰がこんな事を、それじゃあ昔住んでた私の知り合いは......」


「この施設の規模からするとパトラがこの村からいなくなった後に━━」


「......みんな殺されたの?」


「いや、流石に住人全員を殺すとなるとリスクがデカいからあのキメラが出た後普通に立ち退きさせられたんだろう......」


「そっか......良かった......」


「けどそれだけじゃないんだ。俺の予想が正しければこの奥にはパトラにとってキツい事実が待ってる」


「━━私はどんな事実が待っていようとママの仇を討つよ」


「分かった。だがもし躊躇するような事が有れば......俺が代わりに剣を突き立ててやる」


「剣なんて持ってないくせに......。でもありがとう」


 俺達は部屋の奥へ進んだ。

 進んだ先の部屋では例のキメラが待ってましたと言わんばかりに唸り声をあげてこっちを睨みつけている━━。



「ウ゛ル゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛」


「おーおー躾のなってない猫ちゃんだ。コレじゃチュールは没収だな」



「おや......? この中は立ち入り禁止のはずなんだが━━」


 


「そんな......あなたが何故ここに......
















 サーシャ様......」


「やぁ、久しぶりだねパトラ」



 そいつは紛れもなく勇者一行の剣神だった━━。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る