第24話 故郷の異変
俺の発言にパトラの目と眉毛は縦になるくらい険しくなる━━。
「ごめんよく聞こえなかったなぁ、もう一回言ってみて......?」
「その......ヒステリック......ソ女です......」
「......お前それ次言ったら殺すからな」
「ごめんなさい━━」
「ヒステリックまでは百歩譲って許す......でもクソを混ぜるなクソをっ!」
パトラは地団駄を踏んで苛立ちをぶつけている。
あの足に踏まれたら......多分俺死ぬな━━。
「まぁまぁ落ち着いて......女の子があんまりクソクソ言うのはちょっと......」
「ジュノのせいだよ! まあ良いやもう......。それで、私の恩人になぜ不名誉なあだ名を付けたの?」
「それはさっき調査隊が来た時にな、その恩人の身を案じて言葉を挟んだ調査隊の人が居てその人を問答無用でぶった斬ったんだよ。その後もキーキー訳分からん文句言ってたし」
「サーシャ様がそんなことを......何かの間違いじゃ......?」
「いや間違いなんかじゃない。それにその時の彼女の抜刀は凄まじかったよ」
あの速度は半端じゃなかった......普通の人なら速すぎて斬られた事に一瞬気が付かないだろう━━。
「サーシャ様は
「はぇー、そりゃ凄い。今度会ったらキャベツの千切りでも実演してもらおうかな? まぁキッチンごと千切りしそうだけど」
「.......サーシャ様をバカにしてる?」
パトラは鬼の様な顔で首を傾げ、整えたボブカットを片側に垂らす。
その仕草はまるで獲物に狙いを定めた獣のようだ......怖い━━。
「いえ......冗談です。とりあえず仇の情報を集めるためにパトラの故郷に行こうと思うんだけどどうかな?」
「うん良いよ。ここから街を3つ超えた先の村だから少し時間掛かるけど......」
「大丈夫、小粋なドライブトークをしてればすぐ着くよ。じゃあ行こっか」
俺達は馬車に乗ってウルティオを出立した。
* * *
パトラが住んでいた《テュシア》という村は現在の街街から馬車で4時間程で到着する小さな村とのこと━━。
「私が村に戻るのは7年ぶりかな。ジュノも知ってると思うけど7年前に私のママは魔物に殺された......次は私の番だって思った時に現れたのがサーシャ様なんだ。その後別の人に保護されてウルティオに━━」
7年前か......俺が勇者に母さんを奪われた時と同じくらいだな━━。
「ああ、後ろ姿は読み取れたけどあの人が......」
「うん。私はその日からあの人の側に立つため、そして母の仇を討つために7年間自分を鍛えながら情報を探し回った。けど結局手掛かりは見つからず今に至るってワケ━━」
パトラは少し落ち込んだ顔で目線を下に向ける。
恐らく今更村に戻っても手掛かりなんて無いから無駄足だと思っているのだろう━━。
「そっか......パトラの言いたいことは分かった、でも少し気になる事があるんだ。そんなに長居しないつもりだから我慢して欲しい、もし何もなかったらさっき馬車のおじさんが言ってた村近くの山に居るって噂の魔神四天王に話を聞くよ」
「話って......もしかしてジュノは四天王と知り合いなの?」
「いいや全く。でも最近まで魔族語の通信教育受けてたから基本的な会話はバッチリ」
「まーた適当なこと言ってる。そもそも魔族語なんて存在しないじゃん━━」
* * *
馬車に揺られて到着した村は周りが木々に囲まれ、道沿いには小さな川が夕陽に煌めくのどかな場所で村を囲うように高い木の柵が建っていた━━。
「やっと着いたぁ......。ジュノが小粋なトークするとか言ってたくせにすぐ寝ちゃって本当つまらなかった」
「揺られるとつい眠くなっちゃって。でも小粋な歯ぎしりをお届けできたから良いだろ?」
「歯ぎしりに小粋もクソも無いから。それよりまた寝言言ってたよ」
「恥ずかしっ! 今度口にテープ巻いといてくれパトラさん.......」
俺達は馬車を降りた場所から少し回り込んで村の門から中に入る。
すると20代くらいの妊婦の女性が出迎えてくれた。
「ようこそテュシアへおいでくださいました。私この村で村長を務めている《ソフィア》と申します。この村に立ち寄られるなんて少し珍しいですね」
「珍しいですか? 実はこの人の故郷がここで今日は帰省しに来たんです。なっ! そうだよなっ!」
俺がパトラの方を見ると少し不思議そうな顔で村を見回していた━━。
「う、うん......そうです。久々に戻ってきました」
「そうでしたか、それはそれは。ではごゆるりと━━」
ソフィアさんは挨拶を済ませると自分の家に帰って行った。
パトラはその後も周りを見回している━━。
「さっきからどうした? マイナンバーカードでも落としたんか?」
「何それ? そんなことより村の雰囲気が昔と全然が違っててさ......それに私の知り合いが全く居ない━━」
「そうなのか? 確かにこれだけ小さい村なら居ても良いはずだけどな」
「うん、私と同じ世代の知り合いだけならまだしもその親世代ごと消える事なんて中々無いよね......。あと直感なんだけど村の人の雰囲気、何かおかしくない?」
見回すと確かに少し不自然だった━━。
すれ違う女性は皆20代くらいでお腹が大きくなっている人が多いがその数に対して男性の数が圧倒的に少なく、稀に見るその男性も生気が無いような雰囲気でボーッとしている人が多く見えた。
だがそんなことよりさっきからすれ違う村の女性達は妊婦の人以外何故か明らかに俺の方を品定めでもするかのようにジッと見てくる━━。
「確かに変だ━━」
「でしょ?」
「ああ、俺が男前すぎるのか皆こっち見てくる......。ここで握手券付きのビジュアルファンブックでも販売しようかな」
「はぁ? 何バカな事言ってるの、さっさと私の家行くよ」
パトラは少し頬を膨らましてプンスカしながら俺の前を歩いていると━━。
「あれ? トラちゃん?」
すれ違った女性の中でパトラを呼ぶ声がした。
「やっぱりトラちゃんだよね? 久しぶり!」
その女性は俺たちより少し年上に見える落ち着いた雰囲気で癒し系の顔をした巨乳のお姉さんだった。
しかしトラちゃんて......。
「もしかして......ルシア姉!? ルシア姉だ! 会いたかったよぉ!」
パトラは《ルシア》と名乗る女性の胸に思いっきり抱きついた━━。
「トラちゃん大人になったねぇ。あの日から居なくなって私心配してたんだよ? でも元気そうで良かったぁ......」
「ごめんねルシア姉......ママが死んじゃった後この村を抜け出したくてさ」
「そっかぁ......私もパトラのお母さんが亡くなった時は悲しかったものね。そうだ、久々の再会も兼ねて今夜はウチに泊まっていかない?」
「いいの!? 泊まる泊まるっ!」
俺の知らない間に勝手に話が進んでいく......。
あるあるだけど知り合いとその知り合いが2人だけで盛り上がってる時ってその他の人は気まずいよね━━。
「お連れのイケメンさんも良かったらどうぞ?」
「え!? 良いんですか? すみません......! グスッ......いつも僕パトラといる時は僕だけ野宿させられてたもんで......っ......!」
「いちいちちっちゃい嘘つくな! 大体昨日は私に野宿させようとしてたくせに!」
「そんな事俺は一言も言ってませーん、ドッグハウスを勧めただけですぅ」
「最低! けどルシア姉良いの? この人こんな適当人間だけど━━」
「ふふっ......大丈夫だよ。男の人が居た方がいざって時安心だもの」
俺たちのやりとりにルシア姉は愛想笑いをしてくれた━━。
「いや......何かを起こそうとしてる奴を泊めようとしてるんだよルシア姉は......」
「そんな事ないでしょ? 良い人そうだし」
優しげな目つきでルシアさんは俺を見つめる。
これは俺も良い顔で応えないと━━!
「お姉さん......男は誰だって女の人にナニかを巻き起こしたいモノです」
「は? きもっ......」
「見た目は素敵なのに残念ね......」
2人は俺を置いてそそくさと家に入って行った━━。
* * *
「ルシア姉に聞きたいんだけどこの村の私の知り合い達は皆んなどこに行ったの?」
「それが私にもわからないのよ......だんだん居なくなっていって気がついたら昔からの人間は私1人に」
「そうなんだ、それとお腹が大きい女の人が多かったけどあの人たちは新しい住人なの?」
「ううん、あの人たちは魔族によって里帰りする場所が無い人たちで出産までの間ここに居るみたい」
「そうなんだ、いろいろ変わったんだね......」
「そうね......昔は皆んな仲良く暮らしてたんだけどあの魔物が出てからはね......」
2人の間に沈黙が流れる━━。
俺はその気まずさとパトラの手掛かりを聞くために沈黙を破った。
「その魔物ってその後は出てないんですか?」
「ええ、パッタリと消えたわ。その魔物が何処へ行ったのかもわからなくて......ごめんなさいね」
パトラはその知らせを聞いて少し下を向き落ち込んだ。
「そうだ、2人ともコレを食べて元気出して? この村の特産品で生ハムよ」
テーブルに出されたのはルビーの様に真っ赤な赤身と白い脂身が輝く宝石の様な生ハムと赤ワインだった━━。
「うわぁ美味しそう! 久々にここの生ハム食べるかも、頂きまーす!」
パトラが一口食べるとほっぺを抑えてニンマリとした笑顔で食感を味わっていた。
そしてスイッチが入ったようにバクバクと生ハムを食べている。
「まぁ、子供みたいに食べちゃって。コホッ......コホッ......ごめんなさい少し咳が...」
ルシアさんはキッチンの棚から薬を取り出して水と一緒に飲み干してこちらに戻ってきた。
「ごめんなさいね......貴方も一ついかがですか?」
「いえ俺は......それより咳大丈夫ですか?」
「ええ、たまに出るけど大丈夫よ」
何を隠そう俺は生ハムが大嫌いだったので話題を逸らした━━。
* * *
ルシアさんの家で夜を迎えた俺達━━。
風呂などを終えた後俺とパトラは同じ部屋のベッドとソファでゴロゴロしていた。
「結局手掛かりはなさそうだったね......」
「ごめんね。何かあると思ったんだけど無駄足だったかな」
「いい......の......。ごめん......少しトイレ」
パトラは急ぎ足でトイレに行ってしまった。
やっぱ落ち込んでるのか......?
パトラが居ない間俺は目を瞑って少しこの村の状況を考えていた━━。
閉鎖的な村で女性が多い......それも臨月に近い妊婦の数が圧倒的に。
だがそれに比べ男の少なさとあの異常なまでの無気力感。
そしてパトラの知り合いがルシアさん以外いないこの村の現在━━。
「まさかね......」
そんな事を考えている内に時間は大分過ぎたが一向にパトラは部屋に戻ってこない。
まさかあいつ何かに巻き込まれたか......?
俺は音を立てずに部屋を出てリビングに向かったが誰もいなかったが玄関の扉は開いていたので外に出て様子を見る事にした。
「パトラー? おじいちゃんは少し田んぼの様子見てくるぞー」
俺が声を出すと人がこちらにやってきた。
「ジュ......ノ」
正体はパトラだった━━。
「パトラか、トイレは見つかったかい? ってお前━━」
パトラは下着姿で俺に向かって抱きついた。
「ジュ......ノ。抱い......て」
「何言ってんだお前。早く離れろ! てかクサッ!」
パトラの口から紫色のオーラが吐き出ておりそのオーラは物凄い悪臭が鼻に漂った。
パトラに拘束されている内に村の女性達が次々と俺の元へ押し寄せて来る━━。
「おいおいこりゃ一体なんだ? 鼻の穴に小枝ぶち込んで匂いフェチハーレムでも楽しんじゃおうかなぁ━━」
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