第23話 勇者一行のひとり

 

 勇兵団の跡地には人集りとその奥に王都の調査隊が停まっていた。

 俺は人混みをかき分けて調査隊の話に聞き耳を立てると調査隊長と思わしきオジサンが部下と話していた━━━

 

「ダメですね...建屋も中にいた人間も跡形もありません。これじゃあ証拠が...」


「誰が一体こんな惨たらしい事を...目撃者は?」


「目撃者によると激しい落雷が起きた事以外わからなかったそうです」


「落雷...この巨大な建物を塵にできる人間なんて上級魔法を使える者でも限られる。とりあえずそっちの線で捜査に当たるか。では引き上げるぞ」


「承知しました」


 間違った方向に捜査が進むのはいい事だ...

 さてこのお土産をどうするか━━━


「おい、もう調査は終わりか?...」


 調査隊の奥から現れたのは白く輝く鎧に大太刀を背負った顔面偏差値とプライドが高そうな長髪の女だった


「勇者と私が創った勇兵団を壊滅されて手掛かりの一つも掴めないなんて全く情けない。お前達調査隊は本当に使えん奴らばかりだ! さっさと犯人を見つけて私の前に首を差し出せ! 私は今から例の村に行く...馬車の準備だ!」


「申し訳ありません《サーシャ》様! ですが...」


「貴様如きが口答えするのか? 死ね」


 女が太刀の柄を持った瞬間に口を挟んだ調査隊の男は血を吹き出しながら真っ二つになった。


「口答えなど笑止千万。私は勇者一行にして勇兵団団長の《剣神》サーシャであるぞ! 貴様ら下民とは全てが違うのだ。殺されたくなければ早く勇者の下へ今回の件を報告しろ!」


「はっ! すぐ王都に!」

 

 おーおーおっかない女だな、語尾に必ず"斬る"がついてそうだ。

 にしても勇者一行ってのは碌な奴が居ないのか? 

 

 だが剣神と呼ばれるだけあって抜刀の速度が普通の人では抜いたことすら見えない正に神速の領域だったな。

 

 そんなことより調査隊にアレを渡さないと━━━


 俺は黒い髪色の分身を自身の背後に創り調査隊に話しかけた


「あのーすみません...」


「何だ君は。ここは立ち入り禁止だよ」


「今向こうに走って行った黒い髪色の男が調査隊の方にコレを渡してくれって言われて...」


「コレは?」


 調査隊のおじさんは怪しい目つきで俺を見る


「その人が『勇者様とその奥様に見せればとても喜ぶモノ』とおっしゃっていましたので何かの上級アイテムかもしれません」


 嘘です生首です...


「そうか。もしかしてあの黒髪は...分かった必ず届けよう。ではここから立ち去りなさい」


「ありがとうございます。では失礼します」


 彼らは俺の荷物と斬られた遺体を持って王都へ帰って行った━━━



*      *      *



「どう? に...似合う...かな?」


 俺の目の前にいる女はパッチリな目にふんわりとしたボブヘアの毛先を弄りながら恥ずかしそうにこっちを見ている


「...すみませーん店員さーん」


「はい何でしょう? お連れの方のカットモデルの件ですか? お綺麗ですからぜひ写真を...」


「いや、俺の連れはもっと目つきが悪くて3度の飯より殺し合いが好きそうな怖い奴なんだけど...まだ改造手術が終わってないのかな?」


「...は? おい」


「お客様、目の前の方がお連れの方です...」


 恐る恐る目を向けるとその女は拷問初日のルキが見せた顔よりも怖い悪鬼のような表情で俺を見ていた


「ジュノ...この物語終わらせよっか?」


「うっそ...」


 俺の顔は今真っ青になっているであろう━━━



「それとお客様、お会計がこちらになります」


「うっそ...」


 俺の顔は更に真っ青になっているであろう━━━



*      *      *



「と...とりあえず俺ですらぱっと見分からなかったんだからうまく変装できたって事で結果良かったよ!」


「うるさい! 少しは褒めてくれても...」


 ━━━俺は女の人を褒めるのが苦手だ。

 褒めると母さんやリーゼのように俺の元から離れていくジンクスがある


「まぁ高い金払っただけあったよ。似合ってるし...」


「それ褒めてるつもり?...そういえばジュノの方は無事に終わった?」


「うん、調査団は上級魔法使いの仕業で捜査するってさ」


「ふふっ...思いっきり路線ズレてるね」


 パトラは少し笑いながら調査団の捜査方針に反応した。

 まあアレを見れば普通は魔術師の路線だよな...

 俺なんて魔力0だから仮に検問されても引っかからないし完全犯罪成立だ━━━


「それと...勇者の仲間のサーシャっていう女を見た」


「...サーシャ!?」


「知ってるのか?」


「知ってるも何も...サーシャ様は私の命の恩人だよ!」


「あのヒステリックソ女が!?」


「...今なんて!?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る