第22話 素直な少年"フェル"
俺たちがロビーに向かうとリーゼの両親が出迎えてくれていた━━。
「今回はお部屋が御用意できず申し訳ありませんでした。狭いお部屋にお二人ではお寛ぎ頂けなかったでしょう......」
リーゼのお父さんが申し訳なさそうに頭を下げた。
「そんな事ないですよ。初めて豪華な部屋に泊まる事が出来てとても有意義でした」
「ありがとうございます。またのお越しをお待ちしております」
俺達にお礼をしたリーゼの両親は少し涙ぐんでいるように見えたので俺は思わず声を掛ける━━。
「あの......どうされました?」
「すみません......貴方を見ていると以前隣に住んでいた少年を何故か思い出しまして......」
「......俺がですか?」
「そうなんです。その子はとっても素直で頑張り屋さんなお母さん想いの良い子だったんですけど一年前にその......罪を犯して処刑されてしまいましてね」
話の少年は確実に昔の俺のことだ━━。
「でも私たちにはどうも信じられなくて......だってフェルは......っ......」
俺の目の前で泣き崩れるリーゼのお母さん。
母さんが居なくなったあの日からこの人が俺の母親代わりになってくれていた。
母さんの事を思い出して泣いた夜も泣き止むまで何も言わずに優しく抱きしめてくれた人だ。
でも俺は決して良い子なんかじゃない......この2人が愛する娘とその夫をこの手で復讐しようとしているのだから━━。
「その子のお母さんが居なくなった時から私たちは一緒に暮らしていました。娘よりも年下の子がいつも気丈に振る舞って私たちに心配かけないようにしていたんです。小さい体で仕事も家の事も頑張っていた子が処刑だなんて......挙げ句の果てに家まで燃やされ付き合っていたうちの娘も......」
お母さんは溢れる涙を拭いて申し訳なさそうにこちらを見つめた━━。
「ごめんなさいね......つい長々とお話を.......。でも何故か貴方には話したくなってしまって」
俺は.....この世界でずっと1人だと思っていた、でもまだ泣いてくれている人がいるんだ━━。
「良いんです。亡くなった彼にその想いはきっと伝わってると思いますよ」
だけど引き返すことは出来ない......。
「はい......そう願ってます」
「では僕達はもう行きますね、ありがとうございます.....お父さん......お母さん」
俺達は宿屋を後にした━━。
* * *
俺はある場所にパトラを連れていくため街中を歩いた。
その間パトラには身分がバレないようフードを被ってもらっている━━。
「あの夫婦の話に出てきたフェルって子がジュノが似てるって言われてたけど......」
「あぁ、それがどうかした?」
「素直で頑張り屋さんの良い子ってジュノに全然似てないのに変だなと思って......」
「はぁ? それは俺が卑屈で怠惰な奴だって言いたいのか!?」
「うん。でもね......何かを1人で背負ってるっていうのは似てる気がした」
「いやいや、パトラは俺のこと何も知らないだろ?」
「そんなことない。だって昨日寝言で......」
「寝言? そういえばパトラも朝言ってたなビーチボールがどうたらって...」
パトラは夢の内容を思い出したようでみるみる顔が顔が真っ赤になる━━。
「ちょっ! 恥ずかしいからやめて! 本当に怖かったんだもん......」
「おいおい一体どんな夢みたんだ......」
「なんかね、海でスイカ割りしてたらそのスイカが実はビーチボールの怪物で......そいつが口から出した巨大なビーチボールの中に閉じ込められてそのまま漂流した夢━━」
パトラってやっぱ心に闇抱えてるのか......?
「その......パトラはとても素っ頓狂な夢見るんだね」
「そんな哀愁の目でこっち見ないでよ......! それより私にやることってなに?」
「それは、ここでイメチェンする」
「え......?」
俺がパトラを連れてきたのは美容院。
その扉を開け出迎えた店員に俺たちは早速待合席へ案内された━━。
「本日はどのようにしますか?」
「今日はこの人のカットをお願いします」
「えっ...ちょっとどういうこと?」
「パトラは勇者側に面が割れてるでしょ? 特にその特徴的なボサボサポニーテールの赤髪、だからヘアカットしてちょっとした変身をしてもらおうと思って」
「でもそんなんじゃすぐバレるんじゃ......」
「意外とバレないもんだよ。俺が感じた初対面の印象は釣り上がった人殺しの目に片目が隠れたイタイ前髪、無駄に男勝りの口調だったから多分かなり変わる」
「......それ私をバカにしてる?」
「してないしてない! あとカットメニューはパトラに似合うスタイルで店員さんに伝えてあるから安心して行ってらっしゃい」
「ではお客様ご案内致します」
「ちょ、ちょっとジュノ!?」
店員に引っ張られているパトラを無視して勇兵団の跡地へ向かった━━。
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