第21話 箸休め②

 

 俺は湯船に浸かり色々なことを考えていた━━。


 勇兵団については恐らく明日か明後日には王都に壊滅の通達が行き犯人が誰か調査に入るだろう。俺自身は身バレしてないが、パトラに関しては生きている事が関係者にバレると面倒な事になるはず......なので今後多少の変装は必要かもしれない。


 次にパトラの仇討ちの情報を集めよう。

 しかしあの記憶で見た魔物......今まで見た事が無い種類の魔物だった、一度パトラの故郷に行って調査する必要ありそうだ。


 そして勇者について━━。

 明日なんらかの方法で王都に例のお中元を送りつける。

 基本的に勇者の位置情報は外部の人間にはシークレットとなっているのだが、それは詳細な位置情報が魔族に漏れると奇襲される可能性があるためだ。


 だが王都へ勇者宛の不審物を送ることにより魔族以外にも命を狙っている者が居ると王都から勇者へ必ず通達が行く筈だ。それによって差出人の調査が入り必ず何処かで奴の大まかな居場所が漏れるはず......。


 奴の現在位置がもし魔神かその幹部が近くに居る場所だったらそいつらも纏めて殺せるのでラッキーだけどそればかりは運次第だな━━。



「とりあえず煽れるだけ煽ってみるか━━」



 俺は湯船から出て風呂場に設置されている大鏡で自分の顔をまじまじと見る。



「うひょー男前......でも━━」



 いくら顔が変わってもつまらないジョークを言っても、目が死んでるのは変わらないものだと自分を嘲笑った━━。



*      *      *



「ふぅ......サッパリ」



 俺は風呂から上がり、パンツ一丁で冷えた飲み物を探していると━━、



「ちょっといつまでお風呂に......きゃっ!」



 パトラが咄嗟にしゃがんで耳を赤くしながら顔を手で覆っていた。



「ち、ちょっと服着てよジュノ!」


「ごめんごめん、つい癖で」


「どんな癖なのよ......」



 ルキと過ごした40年では、拷問終わりのシャワーを浴びた後はすぐ出来るように毎回パンイチだったのを忘れていた。

 

 それにしてもこの反応は......?



「あのさ、パトラって幾つ?」


「17だけど? それが何?」


「いや......俺は16(+40)だからパトラの方が少し歳上だし見慣れてるのかと思ってたよ。意外となんだね」


「そ...そうよ悪い? じゃあ私お風呂入るから...」


 パトラは俺の方を見ないで足早に浴室へと向かっていった━━。



*      *      *



 は、初めて男の裸見た! あの顔で脱ぐと凄い体してるなんて反則じゃん! しかも私より年下なのにあの余裕はなに!? そうか......きっと今まで綺麗な女の人がいっぱい彼に寄ってきてたんだろうなぁ......。



 この時の私は彼が過去に受けた壮絶な悲劇を微塵も感じ取る事が出来なかった━━。



「お...あった! やっぱ風呂上がりは牛乳だよな」



 この時の俺は彼女が現在邪なことを考えているなんて微塵も感じ取る事が出来なかった━━。




*      *      *




「これは戦争だ......あの頂で最後にふんぞり返るのはこの俺だっ!」


「ダメだ。私はお前より歳上なんだぞ? 年長者を敬い席を譲ると親から習わなかったか━━?」


「口調が変わってるよお姉さん。あいにく俺は年下好きのロリコン家庭で育ったんでね、特に年上の図々しい"おばちゃん"には容赦するなって言われてんだよ。口を慎め、口から加齢臭が匂うぞ」


「おばちゃん......だと......? 貴様口が減らないな。だが何と言われようと、最後の最後に━━━」




「「このベッドで寝るのは(俺)(私)だぁぁぁっ!」」




 俺達はダブルサイズのベッドを挟んで火花を散らしていた━━。



「お前ふざけんなよ! 宿代まで俺に払わせたくせに何でお前がこのベッドで寝ようとしてるんだよ! シッシシッシッ! 帰れハウスっ!」


「はぁ!? そもそもそのハウスを壊したのは誰だと思ってるの? 紛れもないジュノだよ? それにジュノはその創る力とやらでベッドを作ればいいじゃん!」


「この部屋のどこにもう一個ベッドが入るんだよ! じゃあこのベッドの上にもう一個ベッド創ってサンドウィッチしてやるからお前ハムの部分な! 挟まれて窒息な!」


「はぁぁっ!? 最っ低! そんなことしたら仇を討つ前に貴方を討つわ! 仕方ない......ここはフェアにアレで決着つけましょう!」


「上等だよゴルァァァァッ! かかってこいや!」



「「ジャン! ケン! ポン!」」



















「━━勝ちだな......俺の!」



 俺の勝利に対しパトラは絶望のあまり膝から崩れ落ちていた。



「さぁ......向こうでふかふかのソファ・・・が待ってるぜお嬢さん━━」

















「待ってぇぇぇ......! 私も寝たい! そこで寝たい! 今後の人生で二度と寝れるか分からないそのふかふかのベッドで寝たいよォォォ......!」


「残念。負けは負けだ"お姉さん"」


「いやだぁぁ......寝かせてぇぇぇっ! ジュノ様お願いします! 一生のお願いです!」


 物凄い勢いでパトラは土下座している......。


 アレ? なんか......この女おかしいぞ? ちょっと昔を振りかってみよう━━。



 『勇兵団二番隊隊長パトラがお前を処刑しに来た! 姿を現せ!』


『聞ける耳が残ってれば良いがな。私の焔刀からは誰も逃れられない......一瞬で終わらせる━━!』



 コイツ初登場の時こんなカッコつけた事言ってなかったっけ?

 それが今やホテルのベッドに寝れないから号泣してるただの赤髪女に成り下がってる......なんか可哀想になってきた。



「はぁ......分かったよ、もうベッドで存分に寝てくれ」



 俺の発言に赤髪女はまるで女神のように輝く満面の笑みを浮かべる━━。



「ありがとうジュノ優しいんだね! じゃあおやすみ!」



 俺は部屋から勢いよく放り出された━━。



「俺やっぱ女嫌い......! さっさとアイツの仇を討って1人で行動しよう......」



*      *      *



「あぁ......よく寝た......」



 俺がソファから目を覚ますと何やら温かいものが隣に感じる。

 目をそっちに向けると昨日俺からベッドを奪い取ったはずの奴が隣で寝ていた━━。



「コイツ......! おい起きろ!」


「ふぇぇ......もうビーチボールの中に私入れないよぉ......砂が......」


「どんな夢見てんだこの女......さっさと起きなさい!」


「ふわぁ......なに......どうしたのこんな朝早く......」



 目に涙を浮かべて欠伸をしながらパトラは眠そうに起き上がった━━。



「どうしたの......じゃないよ。お前は何でここで寝てるんだ」


「はっ! ジュノの寝顔見てたらつい寝ちゃった......えへへ」


「えへへじゃねぇ! せっかく高級ベッド譲ったんだからそっちで寝ろよ! とりあえず朝ごはん食べたらすぐ出発するからな」


「分かったよ......でも出発ってどこへ?」


「壊滅した本部の偵察とパトラの仇の手掛かりを追う。でもその前にパトラにしてもらう事がある━━」


「してもらう事......?」




 俺達は食事と着替えを済まし部屋を後にした━━。

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