第20話 箸休め①
勇者に首を送りつける前━━。
俺が落とした雷により本部は崩壊し、その轟音で街の住人達が次々と本部に押し寄せてきた━━。
「いっぱい人が集まってきたね......」
「とりあえずここから離れよう。ステルススキルを創ったからこっちに来て」
俺達は現場から離れ街の郊外までやってきた。
そこは俺が今まで住んでいた家に近い場所だ。
「ここまで来れば大丈夫だろ。さてこの後どうする? 俺は宿に泊まるけど......パトラは野宿でもする?」
「はい!? 私の部屋を木っ端微塵にしておいて野宿させるつもりなの!? サイテー男! ひとでなしっ!」
俺の発言にパトラは頬を膨らませ激怒した━━。
「そんな事言われてもそっちは今金持ってないでしょ?」
「うん......飛び出してきたから何も持ってない......」
「仕方ないなぁ......今回はトハチで貸しね」
「はぁ!? 闇金もビックリの金利押し付けないでよ! 宿代出してくれないなら私保安官の所へ行ってあなたに家壊されたって言って捕まえてもらうからね!」
「なんだと!? 助けたのにこの言いよう......やっぱ首切っとくべきだった!!!」
* * *
俺たちが辿り着いた場所はリーゼの親が経営してる宿屋。
久しぶりに見たが外装は一年前より明らかに豪華になっており街の景観ともかけ離れた建屋になっていた━━。
「これも勇者の恩恵か......? 俺の家は━━」
宿屋の隣に建てられていた俺の家は火で焼かれたのか黒く朽ち果てた柱が何本か残っているだけとなっていた━━。
「......そこまでやるかよ勇者......!」
再びあの日の出来事が目の前に蘇る。
母を奪われ恋人も奪われ挙句その2人に命を奪われそうになったあの日を......。
「......どうしたの?」
茫然と佇む俺にパトラが心配そうに顔を覗かせる━━。
「いや......なんでも無いよ」
「そう......もしかして疲れてる? とりあえず中に入ろうよ」
俺たちは宿屋の豪華なドアを開ける。
すると中には大理石で出来たロビーに高そうな壺に入った綺麗な花、広いエントランスの奥から気の良さそうな夫婦が俺たちを迎えてくれた。
そしてその夫婦は俺もよく知っているリーゼの両親だった━━。
「いらっしゃいませ。2名様の御宿泊でしょうか?」
夫婦は笑顔でこちらを見るが俺がフェルという事には全く気がついていない......。
リーゼ殺される前までは良くしてもらっただけにちょっと悲しくなる━━。
「はい、部屋を二つ取れますか?」
「申し訳ございません。只今一室しか空いておりませんのでそこにお二人で泊まって頂く事は出来ないでしょうか......?」
「そうですか、じゃあ僕はのじゅ......」
「大丈夫です!」
コイツは一体何言ってんだ!?
俺は夫婦に聞かれないよう小声でパトラに詰め寄る━━。
「アンタさっきから強引すぎるだろ! 一部屋しか空いてないなら俺がここに泊まるからそっちは野宿なっ!」
「はい!? 女の子を1人で野宿させるなんて正気じゃないよ! また命狙われるかもしれないし......それにあなたに聞きたいことが山ほどあるのでっ!」
「あのお客様、どうなさいますか?」
「あー......泊まります」
俺たちはリーゼの両親に部屋まで案内を受けるその間に夫婦に少し質問をしてみた━━。
「そういえばこの街に来てこの宿が1番豪華だと思うんですが何か繁盛の秘訣でもあるんですか?」
「秘訣だなんてそんな......。たまたまうちの娘が勇者様の妻になったので国から一級の宿屋にするよう資金を援助頂いただけなんですよ」
「そうなんですか。娘さんが勇者様の奥様ならさぞ鼻が高いでしょうね━━」
「え? ええ......そうですね......」
夫婦は少し苦い顔をして俺の言葉に答えた━━。
「もしかして......何かありました?」
「いえ......なんでもございません。さあ部屋に到着しましたよ」
二人に案内された部屋はまるでスウィートルームのような広さと設備の豪華さだった。
広々とした寝室にふかふかのダブルサイズのベッド、大浴場並みの風呂場、リビングには大理石のテーブルとその上に乗っている高級フルーツの盛り合わせが並んでいた━━。
「す、すごい豪華ですね! やったぁ!」
パトラは部屋の凄さに圧倒されていて、その姿はまるで初めて遊園地に来た少女のようにはしゃいでいた━━。
「はしゃぐのは結構だが俺にアンケートしたいんだろ? こっちは手帳に書ききれない程スケジュールが詰まってるんだ、さっさとしてくれよ」
力のことか?
俺の生い立ちか?
それとも勇者との関係か?
「あのさ......
名前を教えて━━」
今更名前かよ!? なんなんだコイツ......。
「あれ? 教えてなかったっけ?」
「名乗られてないし......早く教えてよ」
「俺はジュノ。チャームポイントは詰まった動脈と死んだ魚の目、趣味はゲートボール」
「ゲートボールって......そうやってつまらない冗談ですぐ茶化す。まぁ良いわ、よろしくジュノ」
「つまらなくて悪かったな。パトラだって口調おかしいだろ? 男勝りだったりじゃなかったりさ」
「勇兵団に居る時だけで本当は違うの。他のメンバーにバカにされたくなくて無理し男口調にしてただけ......」
パトラは俺の質問に対して恥ずかしそうに答えた━━。
「そうか......ならもう勇兵団は無くなったし無理する必要ないね」
「うん。それよりジュノは本当に魔神を倒すの? それに勇者様も殺すって......」
ラモンに対して言ったセリフ覚えてたのか━━。
「それは......ゆーしゃ様のイケメンフェイスが気に入らないだけだよ、あの甘いマスクを見ると壁に叩きつけたくなるんだ。簡単に言うと僻みってヤツだな━━」
「ふふふっ、何それ? そんな事言う人初めて聞いたよ。でもジュノだって......」
「ん? なんか言ったか?」
「なんでもない。それより......一つお願いがあるんだけど......」
パトラは顔を赤らめてモジモジしながら下を向く━━、
「あのね......」
んん!? もしやこれはスキル《床上手・邪な気持ち》発動か!? この人よーく顔を見りゃあめっちゃ可愛いもんな! いやダメだ落ち着け俺っ! 今は避妊具を持ってない! だが待てよ......高級ホテルならその辺りは気を利かせてあるはずだっ!
俺はベッドの方を視力全開でズームするとアレが備えつけられていた━━。
あったぁぁ! こっちの準備は万端だ! 悪く思うなよルキ......これは据え膳ってやつだ!
俺はパトラの方を振り返り、最大限カッコつけた顔でパトラをじっと見つめる━━。
「なんだねパトラ君━━。早く話したまえ......」
「え......なんか気持ち悪いんだけど━━」
「き、気持ち悪い......だと......!」
「そんなことはどうでも良いの。私が言いたいのはママの仇討ちを果たすためにこれからジュノと一緒に行動したいってこと」
「はぁ?」
正直なところ俺には行動を共にする仲間なんて必要ない。
俺には自立する分身を創れるし、そもそも勇者を復讐のためだけに殺すなんてこの世界からすれば魔神と同等もしくはそれ以上の非人道的行いだ。
そしてそんな俺の私情にこの人を巻き込むのは申し訳ない気持ちがある。
だがなによりも......女の人は信用できない━━。
「嫌に決まってんだろ」
「なんで!?」
「弱っちぃから足手纏いなんだよねぇ......」
「それは......ジュノが異常なだけで、私だって勇兵団隊長になれるくらいは強いんだよ? そしてこれから鍛えてもっと強くなるから......だからお願いします! 私には家族も居ないし勇兵団も無くなった......もう貴方しか頼れる人がいないの!」
パトラは今までにない真剣な表情で頭を下げた━━。
「.....わかったよ仇取るまでの間ね、それまではビジネスライクな関係ね、8時5時の定時ね。それと就業規則としてその奇抜な髪色と禁止ね」
「何それ!? 私の赤髪は地毛だから仕方ないでしょ? ていうかその規則ジュノも引っかかってるし!」
「うるせぇ! 俺は良いんだよ雇い主だから! 文句があるなら馬車の買取業者と一緒に街路樹に除草剤撒く仕事させるぞ!」
「最っ低......でもありがとう。これからよろしく」
「うん、じゃあ俺風呂入るわ」
さっさとサッパリして早く寝よう━━。
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