第27話 剣神の慢心

 

 剣神サーシャの大太刀が真っ赤な血に染まる━━。





「っ......!」




「殺させねぇ......アンタにだけはルシアさんを殺させねぇよヒステリック女......!」



 ルシアさんを斬り落としたはずのサーシャの剣技は、間一髪で俺の腕を切断していた━━。



「ジュノ!」


「ク゛......ル゛......ル゛」


「ルシアさんは大人しくしててください。すみません━━」


 

 ドスッ━━!



 俺は残ったもう片方の腕で自我を忘れたルシアさんを気絶させる。


「なんとかって......一体どうするの!?」


「その話は後だ。それよりルシアさんを見ててくれ」



 パトラにルシアさんの事を頼んだ後、サーシャを見ると俺の行動に激怒していた━━。



「貴様ぁ......邪魔をするな! その弱々しい体を切り刻むぞっ!」


「おーおーおっかないねぇ。アンタはその腐った鎧と大太刀よりもボンテージと鞭の方が似合ってるな」


「ヘラヘラとふざけた事抜かすな軟弱男! 少しは脚に自信があるようだが私には勝てん......《神至地カムイタチ》!」



 サーシャは大太刀の柄を持つと同時に周囲に竜巻を発生させ、それを俺に向かって放つ。


 恐らく神速の抜刀によって発生させたモノなのだろう...まさに剣神にしか出来ない芸当だ━━。



「おっかねぇ...こりゃ藁の家だったら完全に吹き飛んでるな。子豚が中で震えてるのが目に浮かぶよ」


「レンガでも吹き飛ぶぞ......! 死ねぇぇっ!」


「さて、それはどうかな......?」



 零━━。



 部屋で猛威を奮っていたかまいたちは俺の力で一瞬にして消えた━━。



「なっ! 技を消しただと!? 一体どんな力を.......貴様魔術師か!?」


「残念ながらただのドMだよ女王様。次は蝋燭でも垂らすのか? 悪いけど手錠と目隠しは今持ってないんだ」



「ふん......! 減らず口はもう仕舞いだ......《神廼瞬カミノマバタキ》!」



 サーシャは一瞬で俺に詰め寄り、完全に俺の首を刎ねた。

 そして床に俺の首が落ちた音を聞いたサーシャは太刀を鞘に収める━━。



「油断したな、私の間合いはこの部屋全てだ。私の技を消した時はなかなかの実力だと思ったがゴミに変わりはなかったようだ。さて━━」














「へへへ......それはどうかな?」


「なっ......!」



 創━━。



「冗談.....だろ......」



 ドSによって斬られた首は煙のように消え、失った首上と腕に光の粒子が集まり俺は一瞬で元の姿に戻る━━。



「痛かったー、いくら目隠しが無いからって首ごと斬らなくてもいいのに......」


「き、貴様何者だ! 斬られた首を一瞬で蘇生など聞いた事がない.......! あの女でも不可能な魔法をどうやって!」


「知りたいか? それは毎朝パンを欠かさず食べているからさ。それよりアンタ達は何故こんな非道な実験をしているんだ? どうせ俺たちは生きて帰れないんだから冥土の土産に教えてよ」


「良いだろう死ぬ前に教えてやる。全ては魔神を倒すため、世界のため、そして勇者のためだ! そもそもこの実験にはものすごい成果が望まれていた......ヒトに対してとある魔力が混ざった魔薬を注入することによりその者は魔物以上の戦闘力を獲得できる、ただの下民が我々のための戦力になるのだ。そしてそいつが万が一死んだ時、薬の効果は消滅してただの人の死体となり証拠も残らない。それを見た他の下民共は魔族の仕業と勘違いして更にに魔神討伐への士気を上げるのだ。ありがたいと思わないか? 勇者や私達に魔神討伐を託して何もしない下民が勇者の役に立てるのだ! 私がその立場なら勇者のために喜んで死ねる!」


 

 この極秘情報をよっぽど誰かに話したかったのか女王様はご満悦の表情をしている━━。



「よっ大統領! さすがの名演説だ。アンタは刀よりマイクを持った方が性に合ってるよ」


「畜生すぎる......私は今までこんな人を恩人だと思っていたなんて......!」



 サーシャの発言にパトラは怒りと呆れが混ざった表情を見せる。



「やはり下民の脳みそではわからないか......。なぁパトラよ、あの日助けたのはたまたまではない━━」


「それはどう言う意味......?」


「実を言うとお前もこの実験に適合していたんだよ......だから助けた。まあヤツが騒ぎを鎮火させるために研究は一旦中止となってお前の実験は流れたがな━━」


「そんな......」


「そういうことだったのか。ところで何故人類最強の勇者サマはそんなに戦力を欲しがっているんだ? 勇者の『加護』とアンタ達一行の選ばれし『スキル』があれば魔神を倒せるんだろ?」



 俺が言うとサーシャの顔は一瞬強張る━━。


「......質問タイムは終了だ。今度は細切れになって死んでもらう、下民にはお似合いの死に様になるさ!」



 サーシャを大太刀を鞘から引き抜き俺に向かって太刀を構える。


 引き抜いた大太刀の刀身は青白い輝きを纏い、サーシャの瞳も青白く変化し全身からオーラを放っていた━━。



「これが勇者一行サーシャの本気......ジュノはこんなヤツに勝てるの......?」



 パトラが心配そうにこっちを見ている。

 どうやらあのオーラを見てサーシャに畏怖の念を抱いているようだ━━。



「上級魔族以外にこの姿を見せるのは初めてだよ。神に選ばれし《剣神》のスキルによって輝くこの刀身を貴様の血で染めてやる━━!」


「剣神のスキルねぇ......赤や緑にも光ってくれればクリスマスのイルミネーションにはもってこいだな」


「ヘラヘラと......剣神のスキルは身体能力の神速化に加えどんなモノでも斬ることが出来る、あの魔神さえもな。そしてスキルの真骨頂『捌きの眼』によって貴様の攻撃など止まって見えるようになる」


「そりゃ凄いネタバレだ、早速明日の朝刊に載せないとな。床上手スキルが1番の目玉な俺にはとても敵わない能力だよ」


「当然だろ! そんなクソみたいな能力しかない貴様とは何もかも出来が違うんだよ! 気がついた時にはお前はもう死んでいるんだ!」



 サーシャはスキルを発揮して俺の視界から煙のように消え背後から太刀を振り翳す━━。



「終わりだ......軟弱男っ!」



 神速の太刀が今まさに炸裂しようとしていたが━━、



 ピタッ......。



「確かに......出来が違うよな━━」



「何っ...!?」



俺はパトラの時と同じくサーシャの刀身を指で受け止めた━━。



「クソッ! 何なんだお前は......!」



 異常な行動に少し怖気付いたサーシャは神速を生かして俺から距離を取る。



「こうなったら私の最大奥義で沈めてやる! 奥義......《龍神奏一閃りゅうじんそういっせん》!」



 サーシャが天に大太刀を掲げると周りから風が集まり太刀に雷と竜巻のようなものが纏わりつき、部屋の床は竜巻の影響で捲れ上がる。

 そして周囲に衝撃波を発生させながら神速の一振りで纏った力を俺に目掛けて放った━━。



「この部屋を頑丈にしておいて良かったよ。でないと部屋ごと吹き飛ぶからなぁ! 塵となって死ねぇぇぇっ!」


「うわぁぁぁ〜〜!」



 放たれた技によってサーシャの視界からは俺が跡形もなく消え去った━━。


 

「ふん、塵すら残らなかったか......。神に選ばれし剣神である私に楯突くからこうなるのだ! 地獄で私に殺されたことを嘆くがいい」



 サーシャは勝利を確信して太刀を鞘に収める。



「そんな......ジュノが......。私が巻き込んだ所為だ......ごめん......ごめんなさい......!」


「残念だなパトラ、お前の"恋人"は跡形もなく消えた。すぐにヤツの元へ送ってやろう」



 サーシャは再び太刀を抜きパトラに刃を向ける━━。



「勇者のため、そして世界のために死ね━━━」











 パシッ━━!










「やあ女王様......地獄から蝋燭を取りに舞い戻ってきたよ」


「なにぃっ!!」



 動揺をしたサーシャの表情に笑いが込み上げるのを我慢しながら俺は拳を構える━━。



「さぁしっかり歯食いしばれよっ女王様!」



 ト゛コ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ン━━。



「ク゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ......!」



 残像が見えるほどの速度で繰り出した俺の拳は鎧の防御を無視してダメージを与えた。


 手には肋骨の一部が粉々になる感触が伝わる━━。



「んぐぉっ......!」



 サーシャは意識が飛びそうになるもその場には倒れず、神速を駆使し辛うじて俺から間合いを取ったがダメージに耐えきれずその場に跪き嘔吐した━━。



「ぐふぉぁ...おえぇっ......! そんな馬鹿な......この鎧は《フェンリル》の攻撃すら防ぐ代物なんだぞ......!」



 フラフラの状態で立ち上がったサーシャは驚きと痛みと困惑に満ちて普段の凛とした顔が醜悪に歪んでいる━━。



「やったぜ! 俺の手抜き昇竜拳の方がその《フェンネル》とやらより強いのか!」


「ふざけるな......《フェンネル》はハーブだ! おまっ」


「どっちでも良いんだよそんな事━━」



 ト゛ス ッ━━!



「ぐぉぇぇぇぇっ......!」



 離れたサーシャに瞬間移動で間合いを詰め再び一撃をお見舞いすると、今度は内臓の破裂と背骨が折れる感触が伝わる。


 痛みに耐えきれなかったのかサーシャはその場で倒れ目と口と鼻から体液を汚らしく垂れ流していた━━。



「うおぇぇ......。捌きの眼が......やめ......もうやめてくれぇ......! うぅっ......」


「やめないさ。アンタは験のため勇者のため世界のため、そんなしょうもない理由で愛する者からゴミのように命奪ってきたんだ。そんな剣神様がまさかタダで死ねるなんて思ってる訳無いよな? ガッカリさせないでくれよ?」


「そんな......! 悪かった......謝罪......謝罪する......! 今までの事全部謝る......! だから頼む! 命だけは......!」


「まさか神から選ばれし剣神サマが優しいパンチ二発で命乞いなんて......。神様も天国のライブ配信見て泣いてるよ」


「何でもする......なんでもするからもう......!」


「そうやって縋ってきた人たちもアンタは簡単に始末してきたんでしょ? 今度は女王様が下民に鞭で叩かれる番さ━━」

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