第18話 悪魔の所業



 放った魔法は花火のように空へ弾けた━━。



「ふっ......まさか最後の悪あがきですか? そんなことをしたところで助けなんて誰も来ませんよ。この敷地内に居る者達は全て貴方の敵です━━」



 黒ずくめの人間はトドメを差すためにナイフに毒属性の魔力を乗せて振り上げる━━。



「あぁ......これでまた勇者様のお役に立てる。私のために死んでくれてありがとう━━」



 もうダメだ......。ごめん......ママ......!


















「すみませぇぇぇぇんっ! 先ほど注文されたピザなんですがケチャップつけるの忘れちゃって......えへへ」



 背後からの声に驚き思わず振り向いた黒ずくめの人間は、その男に罵声を浴びせる━━。



「っ......! 何者だ貴様! どうやってこの屋敷に入った!? 見られたからには死んでもらうぞ! ピザなどふざけや━━」



 サ゛シ゛ュ゛ッ━━!



「あったわ......目の前にケチャップ」



「ク゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ━━!」



 ナイフを振り下ろしていた黒ずくめの腕をまるで紙切れのように素手で切り裂き、手に浴びたその血をニヤニヤしながら舐める男がいた━━。



「お待たせ。遅かったかな?」


「遅かったよぉ......ばかぁ......」



 私は殺される恐怖と絶対的な安心感が同時に込み上げて決壊したダムのように涙が止まらなかった......。



「なんか......初登場時とキャラ変わってない?」


「うるさい! げほっ......! いたぃ......」



 彼の言葉で緊張の糸が切れた途端一気に激痛が押し寄せる━━。



「あらら......結構刺されてるねぇ、すぐ治すから待ってて」



 彼がそう言うと私が受けた背中の傷は音も立てずに何故か一瞬にして消えた。



「ありがとう......! ほんどに......だずがっだよぉ......」


「わかったから、鼻水汚いからとりあえずそれ以上こっち来ないで」


「酷いっ! 貴方についてる血の方が汚いじゃん!」


「ひでぇこと言ってる......。だがこれは俺のじゃなくてアイツの血だからねっ! 俺自体は綺麗だからねっ!」


「何それ意味わかんない......あはは」



 敵を目の前にして絶望的なはずなのに、こんなにもあっけらかんと笑えたのは生まれて初めてかもしれない━━。



*      *      *


 

 パトラの火魔法が放たれた瞬間俺は瞬間移動したものの、彼女はもうすでに刺されていた━━。


 しかし魂は無くなっていなかったので治せることが判りホッとしていた。



「あ、そうそうコレ忘れてた」



 俺が取り出したのはパトラとの戦いでへし折った刀だ。

 創の力で元通り......いやそれ以上に創り直した━━。



「ありがとう。でもこれあの時に渡して欲しかったよ......刀があれば今苦戦しなかったのに━━」


「ごめん、うっかり忘れてたんだ。それと......直した代金は後で払ってね」


「はぁ!? 折っておいてお金まで取るつもり!? 見た目によらずがめつい男なのね! ていうか......貴様なら金でもなんでも作れそうじゃん!」


「まぁ金も創れるんだけどそれは流石に倫理観がねぇ......」


「ガイルを残酷に切り裂いておいて何が倫理観!? あんなの悪魔の所業だぞ!?


「あ、言っちゃいけないこと言った! お前街の嫌われ者代表ガイルさんにキチンと謝れよ!」


「殺した貴様が謝れっ!」


 


「お前らさっきから私を無視して何を喋っている! 舐めやがって......全員皆殺しだっ!」



 黒ずくめの男は無くなった腕を必死に庇いながら俺達を睨みつけていた━━。



「皆殺しねぇ......そういうのは確実に殺せる相手にだけ言うべきだよ。男の言葉に嘘は無しってカーチャンに教わらなかったか?」


「ふん......先程は油断しただけだ。そもそも貴様のような軟弱で女子のような見た目の男に私が殺せるとでも?」


「軟弱ねぇ.....ガイルさんもそう言って棺桶に入ったよ」


「貴様ぁぁぁっ!」



 黒ずくめはナイフを左手に持ち替えて毒属性を帯びたナイフで刺しにかかる━━。



「絶対に殺す......!」



 更に黒ずくめは移動強化の魔法を使い一気に詰め寄ってきた。



「私は複数の魔法を同時に扱うことが出来る。貴様のような軟弱には到底到達できない領域なのだよ」


「そうか。じゃあアンタに一ついいことを教えるよ」


「なんだ? 最期の言葉を言うのか?」


「ああ......






 さっきから相手しているそいつはサクラだよ......ホンモノはこっち━━」



「なに......っ!?」



 ザシュッ.....!


 

「そん...な...分身...!」



 俺の手刀と分身の手刀が黒ずくめの腹に刺さり二つの風穴を開けた━━。



「まだ息あるよね? ガイルさんの時みたいに顎取っちゃうと喋れないし腹で許してあげるよ━━」


「きさま.....いったい......! んぐふぉっ......!」


「アンタに良いことを教えてやる。この世の中まさかってヤツがとんでもない本性隠してるもんなんだよ━━」


 俺の得意スキルである"事情聴取拷問上手"が始まった━━。

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