第17話 口封じ
俺たちが見たアンナは━━━
「...ミイラになってる」
着ているローブの内側から覗く皮膚は完全に干からびており既に亡くなっている事は明白だった
「一体何があった!?」
住人は重い口を開いた
「━━━あの後目を覚ましたのは良かったんだが突然体が光ったと思ったら声を上げて...そして光が消えた途端このような姿に....」
「どんな叫び声をあげてたんだ?」
「確か『私の魂はあの人の...』って。全く訳がわからないよ」
あの人? ルークのことか?
考えているとパトラが不安そうな顔でこっちを見つめてきた
「き、君の力で生き返らせる事はできないのか?」
「俺でもコレは無理だ...魂が体に残ってない。アンナに殺されたルークもそうだった...すまない」
「そうか...残念だ...」
集会所内に沈黙が走る━━━
「━━━パトラはもう勇兵団の元に戻った方がいい。住人の方はさっき言った通り俺が何とかする」
「分かった...今日はすまなかったな。ガイルの件だが...」
「それについても俺が処理するよ。この街にはガイルに兄を殺された人や妹を連れ去られたまま戻らない帰りを待っている人もいた。この街に来たばかりの俺ですらこれだけの被害を聞いたんだから掘り返せばもっとあるだろう。バラされて当然の奴だからな...適当に埋めとくよ」
「そうか...ヤツのこれまでの行いに気がつかなくてすまなかった...」
「まあ仕方ないさ、奴には体でケジメをつけさせたから少しは街の人も気が晴れるだろう」
パトラは俺の首を持って集会所から離れた。
俺は集会所にいた連中の記憶を消すだけだ...
「みなさーん! こっちに注目してください!」
━━━零。
「街のお巡りガイルさんは今日街を襲ってきたアウラベアとの死闘により四肢を千切られて死にました。僕が代表して埋葬してきます」
住人は俺の能力で記憶を改竄され今日起きた勇兵団との戦いや俺の事の代わりに偽の記憶を植え付けた。
そして彼の元へ向かう━━━
「さて...じゃあねガイルさん。安らかに眠ってくれ」
「%°#+〒々〆#@○*×!」
俺は街から少し離れた森の地面にガイルを生き埋めにした。
四肢はもちろん匂いもゼロにしたので掘り返される事はないだろう...
* * *
勇兵団本部━━━
「お帰りなさいませパトラ様」
初老の男性がパトラにお辞儀をする
「ただいまラモン。コイツがガイルに危害を加えた犯人だった。処刑は完了しこれにてガイルの件は完了とする」
例の偽物の首をラモンに見せる
「はっ、ガイル様の遺体はどうなさいました?」
「私の火魔法で焼却したよ...せめてもの弔いだ」
「そうでしたか、彼も多少なり浮かばれるでしょう」
「それより同行した者の事なんだが...」
ミイラになったアンナを見せるとラモンの顔色が変わった
「なんと...酷いお姿だ。この者は...亡くなる直前にパトラ様に何か仰ってましたか?」
私は直接聞いていないが少し引っかかったので私が聞いた事にすり替えた
「確か『私の魂はあの人の』って言っていたな」
「そうですか...その者はこちらで手厚く埋葬します。今日はお疲れでしょうからゆっくりお休みになってください」
「ああ、ありがとう」
私は本部内の自室に戻り部屋着に着替えた。
今はこの部屋が唯一私の素をさらけ出せる場所━━━
「今日は大変な1日だったなぁ...連れの人があんな姿になるなんて怖すぎるよぉ」
「仇を討つ近道のために勇兵団に入ったけど手掛かりは全く見つからないし強気なキャラ作りにも疲れちゃったな...」
勇兵団創立共に入団したが毎日の厳しいトレーニングや街の護衛ばかりで母を殺した魔物の手掛かりは全く無かった
「ラモンもあの女の人を見せたら急に顔色変わって怖かったし...」
今まで一回もあんな顔見た事...
「それにしてもあの男の人は何者なんだろう....。嫌味なジョークは癇に障ったけど正直━━━」
改めて彼の顔を思い出す
「とってもタイプだった! あの整った顔は絶対間近で見れない......けど目は死んだ魚のような━━━」
彼を見た時今までの人生で出会ったことのない衝撃が走った。
だからこそあの人がガイルをあんな姿にした事を最初は信じられなかった
「もしかしたら勇兵団に手を出したのはガイルの行い以外に何か理由があったのかも...」
私はママの顔と今日の彼を思い浮かべながら目を閉じた━━━
ガチャ...
「さようならパトラ━━━」
グサッ....
「全く...私の寝室にノックもせず入るなんて無粋な奴だな」
部屋に入ってきた黒ずくめの人間は私のベッドにナイフを突き立てていた
「━━━気配を感じていたのか...流石」
その人間は抑揚の無い声で私に話しかける
「私を殺すつもりか...何故だ!」
「知る必要はない。君はここで死ぬのだから」
私はベッドを挟んで黒ずくめと対峙し逃走の機会を伺う。
いつもならベッドの脇に刀を置いていたが今日あの男に折られたため素手と火魔法で戦うしかなかった
「刀が無いのは知っている...火魔法もこの部屋じゃ狭くて使えない。私からは逃げられない」
黒ずくめはジャンプし私に襲いかかる━━━
「ちっ...こうなったら...!」
部屋の窓ガラスを突き破り本部の広場に飛び降りた。
月明かりだけが照らす暗闇の広場を裸足で必死に逃げる
「クソッ! アイツは一体なんなんだ! 何故私の命を...まさかミイラになった彼女と関係が? でもこんなところで殺されてたま━━━」
グシャッ...
「━━━逃げることなんて出来ませんよパトラ様」
黒ずくめが振り翳したナイフは逃げる私の背中に深く刺さった
「っ...なんで...私...」
背中に感じる生温かさと燃えるような激痛から上手く喋る事が出来ない
「手間をかけさせないで下さい。あなたは今日魔神四天王の1人と戦って死んだ名誉の人となるのです。全ては勇者様の為...」
「ゆ...う...しゃ...?」
「これ以上は...ではさようなら」
背中から抜かれたナイフが再び私に向かって振り下ろされる
グシャッ...
「...ママ...痛いよ...」
『━━━もし命を狙われる予感がしたら火魔法で空に合図してくれ』
「お願い...助け...て...!」
私は渾身の力を振り絞って月が照らす夜空に火魔法を放った━━━
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