第5話 虚無の空間
「...ここは」
リーゼに崖から突き落とされて失った意識を取り戻した僕は身体を起こして辺りを見回すが━━━
「真っ暗だ...何も見えない」
目の前どころか自分の手のひらや足元も何も見えない暗闇だった
「死んだら地獄も天国もない"無"だって聞いたことあるけど...僕は死んだのか?」
死という現実を受け止められず乾いた笑いが込み上げる
「はははっ...それもそうだよな。リーゼにあんな場所から突き落とされて生きている訳がない......でも━━━」
死んだことを受け入れようとするがそれとは別の黒い感情が心の底から込み上げてくる
「僕は結局勇者に何もできずに死んだのか......僕をゴミのように捨てたあの2人にも何もできずに━━━」
幼い頃見た母と勇者の情事やリーゼに殺された瞬間が2人から浴びせられたナイフのような罵声と共に頭の中で繰り返し再生される
『━━━あの子より勇者様の方が大切です』
『私は勇者様のモノなの! アンタみたいな小汚い子供の面倒なんてもう懲り懲りよ!』
『アンタみたいにいつもウジウジして親もいない人間に私が嫁ぐとでも? 私の旦那様は最初から...勇者様に決まってるんだから』
『アンタとは結婚なんてできない。私の身体も心も全て勇者様のためのもの......』
そして最後2人に言われた同じセリフが最後の良心を抉り取るように蘇る
『『さようなら......無意味で無価値なフェル』』
僕の中の全てが壊れた
* * *
「くそっ! くそっ! くそぉぉぉっ! 結局何も出来なかった! 再び母さんと会うこともリーゼと幸せに生きることも勇者に復讐することも! ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!」
僕の中でグルグルと繰り返される感情
怒り
悲しみ
憎しみ
復讐心
そして死んだ事によりそれら全て何も出来ない絶望感が襲う度に全身を爪で掻き毟る。
皮が捲れ皮膚の内側が剥き出しになり燃えるような痛みが僕を襲う。
捲れた皮膚から溢れ出る血が手のひらに滴る時、あの日の出来事が蘇る。
勇者に斬られて溢れ出たブレナンおじさんの血とおじさんが言った最後のセリフ━━━
『お前は幸せになれ...お前はいい男だ...』
「おじさん...僕は幸せにもいい男にもなれなかったよ...」
支柱を失った建物のように僕は倒れ込み━━━
『もし願いが叶うならせめて死ぬ前にあの2人とクズ勇者に味わされた絶望の報復をしてやりかった...』
再び目を閉じた━━━
「お前はまだ死んでない━━━」
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