第9話 彼女たちのファーストミッション

 三十分後。

 ティアたちは宿にチェックインした。

 かなり大き目のホテルだ。そこで一部屋を借りた。

 人数も多く、女性ばかりなので大きな部屋を借りたのだ。

 バルコニーや複数の部屋もあるスイートルームである。

 ティアたちは軽く食事を済ませると、その部屋の一室に集まっていた。

 キングサイズのベッドが二つもある寝室だ。


「さて」


 そのベッドの一つの上に、レイは地図を広げた。

 ベッドの上に乗ったティアたちが覗き込む。

 それは東方大陸の地図だった。


「今はここだね」


 レイは東の端を指差した。

 そこには港町の名前が記されている。『セイラス』という名だ。


「今回は西側から一周する海路で来たから東の端だね」


「うん」


 ティアが頷く。


「ここまでは順調。それでライドからお願いされたことは――」


 そこでティアはサヤを見やる。


「まずサヤを故郷に連れて行くこと。サヤは行方不明になってるそうだから家族を安心させたいということ」


「……一応、ギルド経由で手紙は出しているのですが……」


 サヤは何とも困った顔をした。


「まあ、手紙だとちゃんと届いたか分からないしね」


 と、レイが言う。

 ティアも「うん」と首肯した。


「とりあえずそれが一つ目の目的。そして二つ目」


 今度はシャロンの方を見やるティア。


「シャロンを故郷に連れて行くこと。ガラサスの故郷でもあるそこで私たちはライドと落ち合うことになっている」


「うん! そうだな!」


 すると、シャロンはニカっと笑った。


「母ちゃんたちには、いきなりわっちの旦那さまを紹介することになるな!」


 続けて、そんなことを言う。


「……まあ、それはともかく」


 コホン、とティアが軽く喉を鳴らした。


「まずそれぞれの場所を教えて欲しい。サヤの故郷はどこ?」


「あ、はい」サヤはこくんと頷き、


「ここになります」


 東方大陸の南西地方を指差した。かなり大陸の端寄りだ。

 名前は『クニハラ』と記されていた。


「あ。『アマハラ国』の近くなんだね」


 あごに手をやって、レイが言う。


「アマハラになら、ボクとティアはかなり前に立ち寄ったことがあるよ。王さまじゃなくて将軍が統治する珍しい国だね。『大奥』とかいう大後宮があった国」


「はい。ご存じでしたか」


 サヤは微苦笑を浮かべた。


「クニハラも国なんです。アマハラの分家のような国になります。興国の祖はアマハラの王家の血筋ですし」


 と、補足説明もした。


「なるほど」


 ティアは頷くと、続けてシャロンの方に目をやった。


「シャロンの故郷はどこにあるの? 私もレイもガラサスの故郷が東方大陸のどこ辺りにあるかまでは聞いていないから」


「ん。わっちの故郷はな」


 シャロンは中央地方を指差した。『シロック』と記された街だった。


「ここだな。近くに鉱山があるんだ」


「……ん? 待て」


 そこで静かに話を聞いていたアロが初めて口が開く。


「この街からだとシャロンの故郷の方が近いのか?」


「うん。それでもだいぶ距離はあるけど、確かにそうだね」


 人差し指で地図の距離を測りながら、レイが言う。


「ゴールはシャロンの故郷って認識だったけど、これだと逆になるのかな?」


「先にシャロンを故郷に送り届けるのか? それからサヤの故郷に行くのか?」


 アロが小首を傾げてそう告げた時だった。


「あ、あの……」


 サヤがちょこんと手を上げた。


「その件ですが、実はご相談がありまして」


 全員がサヤに注目する。


「私の一族にはかなり特殊でして」


「ああ。あれだね」


 レイが、ポンと手を打った。


虚塵鬼ウロヴァス。サヤたちはうつろおにって呼んでるんだっけ? 実は魔王領以外にも潜んでいるって話のあいつらを退治するのが使命の一族だって話だよね」


 サヤは「はい」と首肯した。


「その使命自体に不満はないんです。放置できない『魔性』ですから。一族を離れても続けていくつもりです。ただカンナギ家の直系の娘にはもう一つ使命がありまして……」


 そうしてサヤは自分の事情を説明する。

 カンナギ家は女系一族。

 代々の当主は英傑の血を取り入れて一族を繋いでいる。

 しかし、英傑を婿には迎えず、あくまで胤だけを譲り受けているという話だった。


「え? じゃあ、サヤってライドの子供が欲しいだけなの?」


 レイが目を丸くしてそう言うと、サヤは「ち、違います!」と慌ててかぶりを振った。


「その、最初は一族のためにそう考えていましたけど、今は違います。私はすでに一度死んだ人間なんです。救われたこの命はあるじさまのために使うと決めました。私はあるじさまに忠義を誓ったんです。ただ、その……」


 そこで視線を逸らして耳を赤くする。


「これは私の我儘ではありますが、時折、夜伽を命じて頂ければ……あるじさまに愛されているんだとこの身に示して頂ければ……」


「「「……………」」」


 レイたちは半眼になって、サヤを見据える。

 サヤは俯いて真っ赤になるばかりだった。


「……まあ、それでサヤの問題は何なんだ?」


 アロにそう問われて、サヤは「あ、はい」と、まだ赤い顔を上げた。

 少し顔をフニフニと両手で解してから、


「私の一族はきっとそれを許しません。直系は私以外にもいるので血が絶えることはないんですが、現当主である母さまは認めてくれないと思うんです」


 だから、と続けて、


「私はもう国に帰る気はなかったんです。ただ、あるじさまの仰る通り、家族は安心させたい。今回は帰国を覚悟しました。母を説得することもです。けど、難航するのは予想できるので、私としては先にゼンキとマサムネに会いたいんです」


「……誰? その人たちは?」


 ティアがそう尋ねると、サヤは「私の従者たちです」と答えた。


「私のパーティーメンバーでもあります。私は彼らの目の前で大波に呑まれてしまったから、きっと二人が一番心配しています。彼らに会って私の覚悟を伝えて、出来れば二人を味方にして母と会いたいんです」


 そう告げて、サヤはベッドの上で姿勢を正し、指先を三つ折りについた。


「……本当に申し訳ありません」


 一呼吸入れて、


「まず二人を探したいんです。この大陸にすでに到着しているはずから。そしてシャロンの故郷に行く前に、私のしがらみを解決しておきたいんです」


 サヤはそう願う。

 ティアたちは何とも言えない顔をするのであった。


 こうして。

 ティアたちの最初のミッションがスタートしたのである。





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 読者のみなさま。

 いつもお世話になっております。雨宮ソウスケです。


 すみません。

 今月はガチで忙しかったため、今回で遂にストックが切れてしまいました。う~む(-_-;)

 出来れば週一は維持したいところですが、しばらくは基本的に不定期投稿になると思います。

 何卒ご容赦ください。m(__)m



 

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