第8話 東方大陸到着
そうして。
レイたちを乗せた帆船は遂に東方大陸に到着した。
実に一ヶ月近くにも渡る船旅だった。
時刻は昼過ぎ。
大きな港に着港し、荷を下ろし始めている。
レイとアロ、サヤは肩を解しながら、大地の有難みを感じていた。
ただ、彼女たち以上にその有難さを感じている者がいた。
「わっち、復活っ!」
両腕を上げて、そう叫ぶ少女である。
年齢は十七歳。三角形を思わす勝気な眉に、翡翠色の髪。横髪は胸にかかるほどに長いが、前髪と後ろ髪は短い。二つの出っ張りが特徴的な丸みを持つ兜をかぶっている。
服装は大き目の山吹色のオーバーオールだ。拳には
体格はかなり小柄で低身長だ。
しかし、それと反比例するかのような大きな双丘を、たゆんっと揺らして、
「やっと地面に着いたぞ!」
腰に手を当てて、ニカっと笑う。
彼女の名はシャロン=ゴウガ。C級武闘家である。
船旅の間、彼女はずっと大人しかった。
と言うよりも、部屋でずっと休眠していた。
シャロンは
そのため、出港して数日は元気だったシャロンも、徐々にトロンっとすることが多くなり、一週間も経つと部屋で休眠状態になった。
驚くことに、
復活したシャロンも元気そのものだった。
ただ、流石に一ヶ月近く入浴もしていなかったので、港に到着前に無理やり起こして、サヤとレイの二人がかりで体を洗ってさっぱりさせたのだが。
「ようやくシャロンも本調子か」
レイがシャロンを見やり、苦笑を浮かべる。
アロとサヤも同じように苦笑いを見せていた。
そのまま、レイは視線を着港した船の方へと向ける。
そこには、丁度船から桟橋へと降りる最後のメンバーの姿があった。
獅子に似た大きな犬――バチモフ本体を引きつれて歩く女性だ。
年の頃は十七歳ほど。
薄く紫がかった白銀色の髪。うなじ辺りまで伸ばしたその髪は、ふわりとしており、横髪で少し尖った耳を隠している。その顔立ちは妖精のようだった。整った顔立ちに、紫色の瞳。眉もまつ毛も白く、表情は無表情のため、さらに美貌を引き立てている。
スレンダーな肢体に覆うのは、ゆったりとした袖を持つ緑色のローブだ。動きやすさのために足にスリットが入っている。さらには同色の大きな三角帽子に、
S級精霊魔法師のティア=ルナシスだ。
この一行のリーダーであり、最年長者でもある。
森人の血を引いているため、少女のように見えるが、実年齢は二十八歳なのだ。
まあ、それでも数百年から千年も生きる森人にしてみれば、まだまだ幼いと言われるような年齢ではあるのだが。
「やっと到着」
ティアは嘆息しつつ、レイたちに合流した。
同時に、シャロンがバチモフの背中に乗った。
「久しぶりだぞ! バチモフ!」
シャロンがそう言うと、バチモフが『ばうっ!』と大きな声で鳴いた。
尻尾も大きく振っている。シャロンが元気になってバチモフも安心したようだ。
「……ここが東方大陸なのか」
アロが腕を組んで周囲を見やる。
倉庫の多い港町。
船員たちが荷を降ろす、もしくはこれから出航する船に積んでいた。
また少し離れた場所では停泊する漁船も見えた。
「あまり西方大陸と変わりないのだな」
少し残念そうにアロが言う。
これまでアロは、ほとんど故郷の森から出たことがなかった。
そのため、様々なモノに興味津々なのだが、初めて見る別大陸の街並みは、そこまで目新しくもなかった。
「アロさん」
すると、サヤがポンと手を叩き、
「ここはまだ港町ですから。もっと内地に行けば東方大陸らしさが出て来ますよ」
ニコッと笑って、そう告げる。
レイも「うん」と頷いた。
「ボクも前に来たことがあるよ。東方は一番特徴的かな」
あごに指先を当てて、顔を上げる。
「建物もそうだけど、特に華衣とか。サヤの和装もいいけど、ボク、あれ欲しいな」
「それは服なのか? どんな服なんだ?」
小首を傾げながら、アロがレイを見て尋ねる。
それに対してレイは、
「うん。凄く動きやすそうな服だよ。機能性がよさそうなんだ。けどそれ以上に――」
腰に両手を当てて、前屈みになって言う。
「何というかエロスを感じるね」
「レイさまっ!?」
サヤがギョッとしてレイを見やる。
「ご、誤解を招くような発言をっ!? 華衣はれっきとした東方大陸の民族衣装の一つなんですよ!」
そう弁護するが、レイは「いやいや」と手を振って、
「ガラサスがよく着てた男性用の方はともかく、女性用はやっぱりエロいよ。動きやすさのためだと思うけど、体のラインは結構浮き出るし、足のスリットとかもね。他にも胸元に穴が開いているタイプもあるじゃん」
そこで「あっ、そうだ!」と手を叩く。
「折角東方大陸にまで来たんだし、ここで本場のを全員分揃えよっか! そんでさ! 皆でライドをお出迎えするの!」
「あ、あの衣装であるじさまをっ!?」
サヤが顔を真っ赤にして叫んだ。同じく東方大陸出身のシャロンは「おお~」と感嘆の声を上げていた。アロだけは華衣の実物を知らないので小首を傾げていた。
すると、ティアが、
「馬鹿なことは言わないで」
コツン、とレイの頭を杖で叩いた。
「そんなことをしたら間違いなくライドはドン引きする。きっと、私でも見たことのないような顔をすると思う。そもそも、レイは今でもライドに『男』だと勘違いされてることを忘れてるの?」
「うぐっ!」
レイが片手で胸を押さえて軽く仰け反った。それから、
「嫌なことを思い出させないでよォ」
ジト目でティアを睨む。
「どうせなら、バチモフを通じてライドと会話できた時に、実はボクは女の子だって言ってくれれば良かったのに」
「……流石にその説明をする時間はなかった」
淡々とした声でティアが答える。
続けて、シャロンを乗せるバチモフを見やり、
「あの遠話はもう出来ないと思った方がいい。こっちのバチモフはともかく、ライドの方の分身体は耐え切れなくなって消えてしまう可能性が高い」
「……うぐゥ」レイは呻いた。
「じゃあ、ボクは再会するまでライドに『男』だって思われたままのかぁ」
「まあ、レイは有名人だから、どこからかレイが女だって話を聞く機会もあるかも」
気休め程度にティアはそう告げた。
確かにレイは有名人だが、勇者王の二つ名が示すように勇ましい逸話が多い。冒険者の間ではレイが男であると誤解している者も少なくなかった。
ライドがレイの本当の性別を知る可能性はかなり低いだろう。
「まあ、いいよ。それなら尚更だから」
レイは、グッと拳を強く固めた。
「再会のインパクトを強くしなくちゃ! そのために決戦兵装が必要なんだよ!」
「「「……決戦兵装……」」」
レイの言葉に三人が考え込んだ。
サヤは口元に手を当てて視線を逸らし、シャロンはバチモフの上で「う~ん……」と両腕を組んだ。アロはあごに手をやって目を閉じている。
一方、ティアだけはかぶりを振って、
「……だから、やり過ぎはライドがドン引きするだけ」
呆れたような口調でそう告げる。そして、
「それより、こんな場所で立ち話してると邪魔になる」
一拍おいて、ティアはこう続けた。
「とりあえず宿を探そう。これからの行動指針も決めないといけないから」
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