第20話 ティアの秘策
沈黙が降りる。
そこは冒険者ギルドの一角。
ティアとレイとアロの三人。そして新たにサヤとシャロンの二人を迎えて、五人は同じ丸テーブルを囲って座っていた。
バチモフはレイの傍らで腰を降ろしている。
そして、テーブルの上には黒い箱が置かれていた。
機能を完全に停止した転移の宝具である。
サヤたちはティアたちにこれまでの経緯をすでに伝えていた。
ライドとの出会いから、今日までのことだ。
また、ティアたちがどうしてこの場にいたのかも大雑把だが伝えてある。
閑古鳥が鳴いているギルドということもあって静寂が続く。
ややあって、
「……はあ」
レイは大きく嘆息した。
「魔剣があの時の怪物に呪われてて、そのせいで辻斬りに間違われて、海に出るとドラゴン相手に単独戦闘。そんでそのドラゴンに海賊船にまで送られて海賊島へ……」
そこでシャロンを見やり、
「で、そこでガラサスの姪っ子ちゃんと出会って、ゴーグって奴を倒して脱出。元傭兵も仲間になったけど、海賊がダンジョンにまで復讐にやってきて、色んなものに化ける怪物とも乱戦になって、その結果……」
レイは黒い箱を手に取った。
「転移の宝具の罠でどっかに飛ばされたってことか」
「……相変わらず」
ティアも嘆息する。
「ライドは波乱万丈な人生を送っている」
「――それよりもだ!」
バンっとテーブルを叩いてアロが立ち上がった。
「主人は無事なのか! その転移の罠でどこに飛ばされたんだッ!」
「……それは……」
サヤが眉をひそめる。
「分かりません。ダンジョンの調査では手詰まりで……」
「……ぐぐ」
アロは唇を強く噛んだ。
「けど、ライドが生きてるのは間違いないよ」
レイが言う。
隣に座るバチモフの頭を撫でて、
「バチモフはライドが創った魔法生物だから。ライドが死んだりしたら消えちゃうはずだからライドは今も生きているんだ」
『――バウっ!』
その推測は正しいと示すようにバチモフが吠えた。
「……けど、気になることもある」
ティアは立ち上がり、バチモフの前で膝を屈めた。
「私たちの知っているバチモフはもっと大きかった。ライドから離れすぎているせいなのかもしれないけれど……」
そこで強く唇を噛む。
「そもそもライドの魔力が弱まっている可能性もある」
本来のバチモフの大きさは雄牛以上だった。
雷を蓄えるとさらに巨大にもなれる。
しかし、今のバチモフは精々大型犬サイズである。
「そうだね。バチモフかなり縮んでいるよ」
と、レイが言う。バチモフの本来の大きさを知っているだけに、ティアにしてもレイにしても不安を覚えるのは当然だった。
すると、サヤが「あ。それなら」と言ってポンと手を叩いた。
「あるじさまが仰ってました。今のバチモフは一緒に行動できるように自分で体を縮めているんだとか。ただそれでも今は体格が少し縮んでいるようですが……」
「……ん? サヤ? それは仕方がないぞ」
その時、シャロンが口を開いた。
「だってバチモフは分裂したからな」
「「「―――え?」」」
全員がシャロンに注目した。
シャロンはキョトンとしつつも、
「わっちを助ける時だ。バチモフの体から小さなバチモフが二頭増えたんだ。仔犬みたいなサイズのバチモフたちはライドとタウラスのところに跳んでいったぞ」
「――シャロンッ!?」
サヤが思わず立ち上がった。
「なにそれ!? 初めて聞いたよ!?」
「え? あ、ごめん!」
シャロンはびっくりした表情で言う。
「あの時、サヤも見てたと思ってた。だからバチモフは少し小さくなったんだ」
「そ、そうだったんだ……」
サヤは驚きつつも再び椅子に座り直した。
「ごめんなさい。私はそこまで気付けてなかったわ」
「地面がぶっ壊れている最中だったからな。わっちの方こそごめん」
シャロンがぺこりと頭を下げた。
「それじゃあシャロンちゃん。バチモフは弱体化しているからじゃなくて、分裂したから体が小さくなったってこと?」
レイがそう尋ねると、シャロンは「うん」と頷いた。
「多分そう思うぞ。それとわっちのことはシャロンでいいぞ」
シャロンは立ち上がって腰に両手を置いた。
そして、
「だってわっちもライドの女だからな!」
たゆんっと大きな双丘を揺らして宣言する。
「「「……………」」」
レイとアロ。そしてティアは何とも言えない顔をした。
サヤは微苦笑を浮かべている。
「ティアと娘のリタから許可を貰ったら、いよいよエッチもOKなんだ!」
フンスと鼻を鳴らす。
ライドはそこまで言ってはいないのだが、シャロンはそう認識していた。
「……私としてはそこの経緯をライドから詳しく聞きたい」
ティアがそう呟くと、
「そうだよ!」
レイが叫んだ。
「そもそもそういうのはちゃんと序列を決めてからだよ! エッチの順番とかも! だってティア以外は全員初めてなんだし!」
「……レイ。少し黙ろう」
ティアが告げる。
が、別に言わなくてもよかったかもしれない。
何故なら全員があまりにも乙女な仕草を見せて黙り込んだからだ。
尾で口元を隠して、もじもじと視線を泳がせるアロ。
両手を膝の上で固めて、頬と耳を朱に染めて俯くサヤ。
シャロンさえも仁王立ちのまま、赤い顔でプルプルと震えていた。
シャロンにとって自分で言うのと指摘されるのでは羞恥の感覚が違うらしい。
言い出したレイ自身も共鳴するようにボンっと顔を真っ赤にした。
(……乙女ばっかり)
そんなことを思いつつ、
「……とにかく」
ティアは小さく嘆息してから話を戻した。
「今はライドとタウラスさんという人のことを見つけ出さないと」
「う、うん。それとロゼッタさんもだね」
パタパタと手で顔を扇ぎつつ、レイが補足する。
ロゼッタの話もサヤから聞いていた。
海賊の一派としてサヤと対峙したことも。
「……まさか海賊に協力しているとはな」
アロが大きく息を吐いて腕を組む。
渋面を浮かべて、
「どうしてA級冒険者の彼女が海賊なんぞに協力していたのかは本人に聞いてみないと分からないが、おおよその想像は出来るな」
「……うん」
ティアは頷く。
「人質を取られたのか、もしかするとレイの知り合いだった『おじさん』を人質にしているって言われているのかも」
「……そうですね。誰が人質にというところまでは分かりませんけど」
サヤが眉をひそめて言う。
「人質というのは可能性が高いと思います。彼女からは必死さが感じられました。乱暴されて服従しているといった感じではなかったです」
「……そう」
ティアが双眸を細めた。
「出来れば助けてあげたいけど、まずはライドから探そう」
「けど、どうするの? ティア」
レイが眉をしかめて尋ねる。
「サヤの言う通り、現状だと手詰まりじゃないの?」
なにせ、全く手掛かりがないのだ。
各大陸にある魔王領を闇雲に探すなど絶対に無理だ。
そもそも魔王領に飛ばされたのかどうかも分からない。
すると、ティアは「大丈夫」と告げた。
それからバチモフの頭を撫でて、
「バチモフはファインプレイをしてくれた」
一拍おいて、
「レイも言ってたけどバチモフは魔法生物。そして魔法は私の得意分野」
そう言って、ティアは立ちあがった。
そして、
「大丈夫。私に秘策がある」
ティアは微笑むのであった。
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