第23話 玉入れ競争

 翌日。真夏にしては涼しい朝を迎えた。


 競技開始を前にクラス委員の真結がクラスメイトたちの前で挨拶をする。


「というわけで比奈は風邪のため欠席です。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。本人にかわってお詫びします」


 深々と頭を下げる。クラス内には同情的な雰囲気が広がり、比奈を悪く言う者はいない。


「妹だから、というわけではありませんが、大切なクラスメイトのためにも残された私たちは全力を尽くし、勝利を目指しましょう! 一年三組、ファイオーッ!」


「「「「「おー!」」」」」」


 クラスメイトたちの心はひとつ。目指すはトップ三圏内だ。


「…………暑苦し」


 ただひとり、日傘で紫外線対策ばっちりの桃果以外は。




 二日目の今日は団体競技がメイン。運動会さながらに全員参加の競技が行われる。

 第一競技は玉入れだ。ルールは知ってのとおり、制限時間内により多くの球を入れたチームが勝ち。


「橙輔さん、ちょっと耳を貸してください」


 開始前に真結が近づいてきた。


「どうした? なにか作戦があるのか?」


「はい。私を肩車してください」


「肩車……ええっ!?」


 驚きすぎて声が裏返った。

 しかし真結の眼差しは真剣そのもの。


「確実に球を入れるためには至近距離で投げるべきだと思います。橙輔さんは背が高いですし運動部だったので下半身も安定しています。一方、私は小柄なので担ぎやすいかと」


「だからって肩車……」


「安心してください。ルールブックには肩車は禁止とは書いてありません!」


「そういう問題じゃなくて」


「比奈のためです!」


 ぐ、痛いところを突いてくる。



 結局、真結を肩車して競技に臨むことになった。真結は風船のように軽く、肩に乗せても重さをあまり感じない。


「ちくしょー羨ましい。そこ替われ!」


 球を集めて真結に渡すのは川辺だ、親の仇のような目線が怖い。



『スタート!』



 開始の笛が鳴り響き、真結が次々と球を投げる。


「てぇい! とぉ! うりゃあ!」


 入ってる入ってる。ほんのちょっとずつだけど。


 投げる度に姿勢が崩れるからバランスをとるのが大変だ。でも真結に呼応するようにクラスメイトたちも一心不乱に球を投げる。いいぞ。


「……いてっ」


 はずれた球が顔に当たった。


「ふにゅ、痛いです」


 身動き取れない真結にも外れ球が襲いかかる。


「やばいぞ、想像以上に周りのペースが速い!」


 川辺が言うとおり、ほかのクラスはどんどんカゴが埋まっていくのに三組はまだ半分以下。


 いま気づいたのだが。

 比奈ひとり欠けている上、おれは真結を肩車しているため自らは球を投げられない。実質二人分の損失だ。


 これ作戦ミスじゃないか?



「はぁー……効率悪」



 ため息をついたのは桃果だ。


 手にたくさんの球を抱えてカゴの斜め下に立つ。なにをするのかと思いきや、反動をつけて全部一気に宙に放った。なんて適当な、と思ったが投げたうちの半分近くがカゴに収まる。すげぇ。


「栗ちゃん」


「はい、桃果さま!」


「球集める係ね。あとマユマユとおにい、肩車とか意味不明。時間の無駄。カゴを囲むように複数人でいっぺんに投げる方と球がぶつかりあって入りやすくなる」


「マジか」


「桃ちゃんさん天才ですか!?」


 桃果は照れくさそうに前髪を撫でる。


「こんなのネット調べれば出てくるし。暑いのヤだからさっさとやってよね」


 きわめて辛辣な桃果だが、作戦を変えるとびっくりするほど球が入るようになった。


 制限時間がくるまえに最後の一投が入り、パーフェクト達成。


「すごいですっ!」


 真結たちクラスメイトは大はしゃぎ。

 こうして幸先のいいスタートをきった――――ように思えたが。

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