番外編 何を想い、何を願うか ≪中編≫
その人物はシェリルと同じくここで書物を読み
「——【
と、書物へと落とした
燃え立つ赤い長髪の青年だ。
優雅に座したソファの
【
「いいえ、核心に迫るものはまだありません。
今の時点でわかっているのは、初代【
その上で女神様の祝福を受けた使徒が一丸となって挑んでも、
女神様は自分より力のある魔神からアルカディアを守る為、苦肉の策として
——そのくらいのものです。
そちらの
「魔神に関しては似たようなものだが、新たな発見があったぞ」
ベートは勢いよく
「楽園崩壊のきっかけ。
好奇心に駆られた考古学者が、研究のために
「考古学者が……ですか? 女神の血族の方、でしょうか」
一介の考古学者が入れる場所ではない。
(あの時……
仮説は幾つか立てられるが、シェリルはベートの話に耳を傾けた。
「いや、記述を見るに一般人だな。血統を
当初も厳重な封印が施されていたらしいんだが……長年の研究、飽くなき探求心が生んだ執念と呼ぶべきか。紐解かれてしまったんだと。
そんで慌てて女神の血族のみが解除出来る仕組みに変えたが——血族であれば誰でも開けるようにしたもんだから、後にそこを突かれて大失態を演じている。
失敗から学ぶのは常だが、そこから改良が加えられ、今では【
イリアは女神の血族のみが解ける封印と言っていたが、実際は更なる制約があったらしい。
「世間から女神の血族が隠されたのは、そのような背景も関係しているのですね。
単に彼らが
「
組織の規模が大きくなれば風通しは悪くなるし、成果と歴史を重ねれば内向的になるのはままあることだ。
権力者の腐敗については、歴史ある王族の血を引いた
心なしか殺気すら感じる。
シェリルは「そうですね」と静かに
(王国上層部も一枚岩ではありませんし、家門同士の
汚職だって、目に見えていないだけで
長い歴史の中で、大問題となった事例も少なくありません)
組織の腐敗は何処にでもある事だ。
新陳代謝が出来なくなった箇所から
肝心なのはそうならないための統制・監視機構の構築と外部監査の目。
教団は女神と崇高な理念を盾に、その辺が
とシェリルはそこまで考えて思考を止め、持って来た書物の一冊を開いた。
(今考える事ではないですね。
彼の感情に、
あれは
使徒に選ばれた者の多くは、平坦ではない人生を送っていますし、彼もまた、預かり知れぬ何かを抱えているのでしょう)
だが、不用意に暴く真似はしない。
交流の浅い人物の事情に土足で踏み込むのは、お世辞にも賢いとはいえない。
(責を負うつもりがないのなら、
まあ……お姉様なら後の事など考えず、踏み込んでいくのでしょうけど。
無鉄砲ともいえますが、感性で解決まで持って行ってしまう事も多いのですよね……。不思議でなりませんが。
姉の手に余って後始末に付き合わされることはあるが、それも適材適所というやつだ。
一人で全てを背負う必要はなく、足りない部分は互いに補えば良い。
これは全ての事柄に当てはまる事だろう。
(なればこそ、集中しなくてはいけません。
この知識の宝庫から魔神の手掛かりと——イリアお
驚くべき事に、
最高峰の魔術師であるベートの見立てだ、間違いはないだろう。
しかしながら
(虹色に輝く
実際はもっと短い可能性があり、一度
望みはあるものの、実現させるためにはいくつもの障害があり、現時点では不可能であるとも……。
「奇跡でも起きない限り」と皮肉めいていましたね)
イリアが
『
強き心に 祝福を
願いを叶える 奇跡となれ』
このように
(
奇跡の体現者である使徒にも解決できない事態。更なる超常の力が働かない限りは、覆らないという暗示。
彼の、こと魔術に関する
とても論理的な思考で、反論の余地もありません。
ですが——。
奇跡とは起きるのをただ待つのではなく、行動の果てに掴み取るものだと、
それに、如何に彼が優れていようとも、全知全能ではないでしょう。
まだ知り得ない解決策が、きっとあるはずです)
シェリルは本を持つ手に力を籠めて、記された内容の一言一句、見落としのないようしかと瞳に焼き付けた。
そうして
「こんな時、あいつがいたら良かったんだがな……」
沈黙を破ったのは、ベートの呟きだ。
「あいつ……ですか? どなたの事でしょう?」
シェリルは手を止めて、ベートを見やる。
と、ベートは声にしたつもりがなかったのか目を丸くした。
そして気まずそうに視線を
余計な事を聞いてしまったかも、と思ったが不可抗力だ。
シェリルはベートの返答を待った。
少しの間を置いて、彼は本を机へ置くと深い溜息と共に答えを吐き出した。
「……【
神学校時代の同期……一応、友人と呼べなくもない。
人とは違った物の見方をする研究者気質なヤツでな、知識量ではオレに引けを取らず博識だった。
マナ工学に精通していて、
どうにもそれはノエル様が
正気に戻るなり、怒って雲隠れした。
希少な
「フェイヴァさんはリシアさんの護衛として、王国に
遠からずリシアさんもこちらへ来ると
「そのつもりではいるが、カフが口を割るとは思えなくてな。
かと言って無理にも聞き出せんし……まあ、ないものねだりは時間の無駄だな」
ベートはソファに深く沈んで天を
彼は余計な事に極力時間を掛けたくないのだろう。
(論理的思考の人物に多い傾向ですね。
シェリルは納得して、それ以上の言及はしなかった。
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