番外編 何を想い、何を願うか ≪前編≫
聖歴
この日は一年に一度、〝
人々は願いを書き記した短冊を最寄りの神殿に持ち寄り、陽が落ちた頃に
短冊は
起源は確か——と、シェリルは思考を巡らせる。
(……神話でしたね。一年に一度、
愛を
アルカディア教団の総本山である神聖国の首都フェレティ・オーラム神殿の大聖堂では、毎年盛大な祭典が執り行われている。
けれども今年は異例の事態が重なって、例年に類を見ない質素なものとなっていた。
(無理からぬ事です。
教団は祭典のトリを
次いで
それに加えて、
……正直、祭典どころではないでしょう)
シェリルは教皇ノエルの
戦いの最中、女神より祝福——【
代わりに大切な人が、犠牲となった。
(イリアお
世界を守る為、
一緒に過ごした時間はほんの数か月。
だが、時間の長さは関係ない。
イリアは兄ルーカスの恋人であり、姉あるいは親友と
彼女は〝
周囲を明るく照らし、暖かく包み込む優しさがあり、無邪気で純真。
時に厳しく
けれど、生い立ちのせいか弱みを見せる事がなく、自己犠牲の精神が強くて——。
シェリルは時折、イリアの姿勢に危うさを感じることがあった。
兄もその点を
(でも、記憶を失っていた時期も
慌ただしく事態が進んでしまって、腰を据えて話す機会を持てなかったのもありますが、どれだけ問い掛けても「大丈夫」と笑うだけで。
最後まで、胸の内を
……信頼、されていなかった訳ではないと、理解はしています。
世界とご自身の命を
——ですが、個人の感情としては、到底受け入れられません)
シェリルを含めイリアと交流のあった人は、突然の別れを悲しんだ。
特に世界の仕組みと
中でも
(お兄様は……心ここに
……行先は聞かなくてもわかります。
お
六年前、カレンお姉様を失った時も、相当に絶望したと……。それでもイリアお
ようやく
何故お兄様ばかり……こんな……っ。
イリアお
こんな結末、現実は
シェリルは目頭に込み上げる熱を
(お
方法は決して容認して良いものではありませんが、聖下にとっては不特定多数の人々や未来よりも、ただ一人の家族、お
その想いを【
人の心を
……もしも、
アインの精神支配に
どれだけ願ったところで、過去は変えられない。
従って、考えても仕方がない事だとシェリルもわかっていた。
それでも、そう思ってしまうのはやりきれない後悔の念からだ。
(
自分の立場に恥じる事のないよう知識を蓄積し、精神を養ったところで……大切な人を救う事が出来ないのなら、何の意味もありません。
……ですが。悔いて立ち止まるよりも、
まずはより広い世界へ目を向け、知見を深めなければ)
シェリルは悲しみを飲み下し、現実で前を向いた。
目の前には所狭しと本の詰め込まれた
シェリルがいるのは、ディラ・フェイユ
教団がこれまで
シェリルは戦いの後、一旦王国に帰還したが、日を空けず姉と共に神聖国へと舞い戻った。
自分達の〝真の敵〟——。
アルカディアを
そうして手掛かりを求めて行き付いたのがここ。
ダメもとで許可を求め、無理ならば実力を行使してでも許可をもぎ取るつもりだったのだが——。
あっさりと許可された。
(
だとしても無闇に公開出来るものではありませんし、
まだ一握りの書物へ目を通しただけだが、ここには多くの情報が眠っていた。
長い年月で忘れ去られたエターク王族の
その他にも女神の血族の特性、
これまで知り得なかった事実が、次々と
(お姉様は一冊読んだだけで音を上げてしまいましたけど……。
代わりに持ち前の明るさと物怖じしない姿勢で、早くも敵対していた教団の方々と良好な関係を構築しています。
適材適所、ですね)
対人関係においては、自分よりも姉の方が相手の
不得意な分野で無理に頭を使うより、長所を活かす方が建設的だし、今後敵対する事になるであろう相手を考えれば、教団との協力は不可避。
使徒として教団へ身を置くかは別として、関係を築いておいて損はない。
かくいうシェリルも、禁書庫での調べ物を通じて話すようになった人物がいる。
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