第二十八話 女神のゆりかご
イリアは、掴んだ腕をすり抜けて行った。
「イリア……!」
必死に伸ばしたルーカスの手は届かず、
「カツン」と鳴った靴音と、銀糸の
追い
その間にもイリアは階段を上り——。
間もなく頂上へ
七色に輝く
身の丈程あるそれに、イリアの手が触れた。
『生体コア接続確認……認証完了。
「実行して」
無機質な音声の問いに、
『了解。術式展開
鳴り響く地響きの中、あの
『——
マナのゆりかごに
女神の血族に伝わる、歌。
七色の
『闇を
イリアの足元を七色の結晶が
『この体
優しく暖かで、迷いのない透き通る
幾度となくルーカスを癒し、救った
『
私の愛が 満ちる世界で』
イリアが祈るように手を組み合わせ、
『この手を合わせて
どうか
結晶が急速にイリアを包み隠して行く。
背にはまるで羽根のような形の隆起した結晶が形作られた。
露出した部分は、もう組み合わせた手の置かれた胸元から上しかない。
『
強き心に 祝福を
願いを叶える 奇跡となれ』
——
『
いつか眠りから覚める その日まで——……』
この
『コード承認。
惑星延命術式、再起動します』
場の空気が澄み渡り、共鳴するかのように、
大地の揺れも感じない。
頭上の画面に術式の展開図が表示された。
古代語は読めないが、ゆりかごが正常に稼働しているという事は図から理解出来る。
別の画面には、青さを取り戻した空の様子が映っている。
そしてイリアは——。
角度によって色合いの変化を見せる、七色の結晶に覆いつくされていた。
「……イリア」
先程まで微動だにしなかった足が、動く。
ルーカスはイリアの足跡を追った。
震動は収まったはずなのに体がぐらつき
一段ずつ時間を掛けて上へ進んだ。
ようやくの思いで上り切った先——
眠る彼女の見せる表情が、込み上げる感情の後押しをする。
彼女の騎士として、この名を
願いを叶えると。
共に未来を紡ごうと。
————約束、したのに。
何一つ、果たす事が出来なかった。
怒り、
絡み合う糸のように解けない感情の
「イリア……」
ルーカスは震える手を伸ばして、触れた。
結晶越しの彼女の頬に。
「ごめん……ごめん、イリア……」
無機物の結晶に温度はなく、ひんやりとした冷たさを伝えて来るだけ。
イリアのぬくもりを感じる事は、もう出来ない。
「……俺、は……っ!」
愛する人へ伸ばした手はまたしても届かなかった。
自分には守れる力がある。
必ず、道は開ける。
と、根拠もなく
運命はいつも
「——う……っ! うああぁ!!」
ルーカスは
——そうしてイリアは、世界を救う
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